「やれやれ、今日は女共が騒がしくて参ったよ。これだから私の才は溢れて困る……。」
呆れた表情を浮かべる鍾会、手には女から貰った華やかな包みや飾り。今日は女が男に贈り物をする特別な日であり、無理矢理押し付けられ仕方無く受け取っていた。しかし肝心な女からまだ貰っていないのだが。
「全く、いつになったら来るのだ。」
そう思っているのも束の間、思わぬ光景を目にする。
「な………!私というものがいながら!」
鍾会の視線の先には話の主であるななしと賈充の姿が。
「ふふ、賈充ってば面白い。」
「そうか?そんな事言うのはせいぜいお前位だ。」
可憐なななしに対しその撫でる手も汚らわしい…それは私が唯一許される事だ。それを簡単に許す彼女に悲嘆し思わず貰い物をどっさり落としかけた。
「賈充、この書物のこの部分分かる?」
「そんなのも分からないのか…仕方ない奴だ。」
何故私に聞きにこないのだ、私の方が奴よりずっと優れている。英才教育を受けてるのと受けていないのでは天と地の差だ!
「はい賈充、肉まん半分こ!」
「くく……食い意地の張るお前だからてっきり一人で食うと思っていたが…。」
私に分け与えてくれないのか!
夜になり、廊下で偶然か必然かななしに会う。今日の出来事にうんざりしつつも冷静に会話を交えた。
「どうも、この私を差し置いて奴と随分と楽しそうに過ごしていたじゃないか。」
「へ……?それって、賈充の事?」
あるまじき事態のクセに、すっとぼけた顔をする彼女も愛らしいと思ってしまうのは、私もどこかおかしい。
「そんな……友人みたいなものだよ、賈充は。」
目を逸らすようにして空を見上げるななし、若干ながら疑いの目を向ける。
「友人、ねぇ……。」
「士季ってば、友人いないもんね。」
「な……余計な世話だ!!」
思わず声を荒らげてしまった。
にも関わらず、彼女は気にせずはにかんだ。
「嫉妬する士季も好きだよ。」
鍾会の手を取りそう呟くななし、そう言われるとこっちの調子が狂ってしまう。
あれだけ怒っていた気持ちも忘れてしまう程に。
「…お前、わざとやってるな。」
「どうでしょう?」
くすくすと笑ったと思えば表情に影を落とした。
「…士季。」
ななしはどこか悲しげに懐から何かを取り出す。その手にあるのは小さな首飾り、おそらく手作りなのだろう。
「今日渡そうと思って部屋に行ったんだけど、皆に囲まれててどうしても渡せなかったの。途方に暮れていたら賈充が話し相手になってくれて……。
そしたらいつの間にか時間もすっかり過ぎて、結局は逃げていました。」
「…………。」
「ごめんなさい。」
頭を下げる姿に思わず鍾会は苦虫を噛み潰す様。それは彼女にではなく、気遣いが無かった己に対して向ける怒りの矛。
何で気付かなかったのだろう、ななしは決して忘れてなどいなかったのだ。
「何故お前が謝るのだ。」
「え……。」
「むしろ怒ってもいいんだぞ、私は罪もないななしに対して責めていた。」
暫く考える仕草をするが首を横に振った。
「今度は逃げないから、受け取って。」
彼の強く握る指を抉じ開けてその中に飾りを落とし、そして再び握らせた。
「………大好きです。」
柔らかい微笑みを浮かべる彼女があまりも愛おしく、目を逸らしつつもその華奢な身体を抱き寄せた。
(私も相当な依存症だな、これだから手放したくない)