「おい、ななしは何処に行った。」
声を掛けると女中は首を傾げ、存じませんと言う。朝は共にいたのだが気がついた時には既に姿は無かった。賈充は目を伏せ踵を返す。
「……?」
やけに周りが騒がしい、視線が多いのは何故だ。自分に用があるのか、しかし不自然な事に見知らぬ女ばかりである。
「おい、何の用だ。」
じろりと辺りを睨み付ければ皆後ずさりをする。手に持つのは包みや衣装、全くどういう風の吹き回しだか。
興味も無く群れの先の方に視線を持って行くと探していたななしの姿が。
「ななし。」
その名前に女達はきょろきょろと顔を合わせた。皆が賈充の呼ぶその名の正体を知りたがっている。
しかし肝心のななしは俯いて返事をしない。
「………。」
賈充はそのまま彼女の元に歩き出す。目の前まで行けばななしは泣きそうな顔で賈充を見上げた。
「どうした、お前らしくないな。」
「あ……その……。」
「そんな、賈充様に女性がいたの…!」
ある女の一言、その瞬間周りがざわついていた理由が分かった、思わず口角を上げうろたえるその腕を引っ張り自分の所に抱き寄せた。
予想通り悲鳴に近い声が所々から上がる。
「残念だったな、生憎お前らには微塵足りとも興味もない…他を当たれ。」
彼女等は悲しそうな顔や悔しそうな顔をして各々退いていく。そして二人以外すっかりいなくなるとななしは控えめに口を開けた。
「……ごめんなさい。」
「何故謝る、お前は悪くないだろう。……しかし女というのは面倒だ、嫉妬や恋など。」
「……私も…そうですよね。」
「違う。」
きっぱり否定すればはっと顔を上げる。
「お前は純粋に俺を好いているだろう。長い間こうして傍にいれば分かる。」
その曇りなき瞳に吸い込まれそうだ、くつくつと笑う賈充。すると彼女は何かを思い出した様に懐を必死に探り始めた。
「これ………。」
その手に握るのはきらりと光る小物、首にかけるのに丁度いい飾りだ。一瞬の眩さに目を細めた。
「今日は何か特別な日なのか。先の女共といい……。」
「女性が好いてる男性に贈り物をする日です。その男性が受け取ると末永く結ばれるとか……。だから皆貴方に贈り物をしたかったのだと思います。……それを見て、少しだけ怖くなってしまいました。」
成る程、とその飾りを受け取る。
「くく……安心しろ、生涯に渡ってななし以外の物を受け取ったりはしない。」
今自分が付けている首飾りを外し貰った飾りをかける。そして外したその飾りをななしにかけた。
「え、賈充さ……。」
「気にするな。それに互いに受け取れば、永遠だろう。」
「……ありがとうございます。」
ななしは微笑んでその飾りを大切そうに握り締めれば、賈充もまた彼女を抱く腕に力を込めた。