「孝直さん………っ………。」
今日はバレンタイン、本来ならばお菓子をあげたりするのが主流なのだが、ここで甘い声を漏らすななしは違った。孝直という男の上に跨がり、大胆と言わんばかりに己の肌を曝け出している。
孝直……もとい法正は、そんな彼女の行動の驚きに目を見張りながらも、何処か冷静に見上げていた。
「存外いい眺めですが………まさかバレンタインの贈り物が貴女自身とは。」
「………だって……お菓子が苦手と言いますから………ならばせめてと決心をした次第です。」
「別に苦いチョコでなら構いませんでしたよ。……ああ、これが決して嫌と言う訳ではないので、勘違いなさらず。」
「い、今更ここまで来て要らないというのは無しですから……!私、これでも恥ずかしくて穴に入りたい位なんです……!」
自分でも馬鹿だとは分かっている。チョコを普通に渡せば普通に受け取ってくれたであろうし、ましてやこんな不埒な事をしなくても良かったであろう。しかし、その場の勢いに任せてプレゼントは私ですと言い放って押し倒してしまった以上、この先へ行かない訳にはいかない。やった事の責任は償うべきだ、半べそをかきながらななしはするすると半端なシャツを脱いで床へと落とした。
が、本当ならばプレゼントであるななしを法正が食べるという展開なのだが、今回はプレゼントであるななしが法正を喜ばせるという逆の展開、らしい。
「成程、俺が攻めるのではなく、貴女が散々気持ち良くしてくれるんですか。それも悪くないな。」
法正の太い腕が伸びると、ななしの腰部分を擦って太腿へと撫で下ろしていく。指で器用になぞり、擽ったさと欲情感を同時に込み上げさせた。
「今日一日は俺を弄るチョコになってくれるんですよね?なら、とことん嫌という程堪能してやる……来い。」
触れる手を離して代わりに腕を引くと、彼女の上半身をそのまま前に倒し、互いの身体を密着させる。たわわな胸はぺしゃっと潰れ、柔らかい感触を胸板で直に感じ取る。
「ん……っ………孝直さん………。」
「どうしたんです、今日は貴女が攻める番ですよね。俺を絶頂に導いて下さいよ。」
かかる吐息を受けながらななしは顔を火照らせ狼狽える。普段は彼からの施しばかりで自分から何かをした事はない。まずは何からしたら良いか、考えられず頭が真っ白になるばかり。
そうして微動だにしなくなった彼女を見兼ねたのか、
「ああ、キスからしますか?それとも愛撫か?」
唇に指を宛てて悪戯に笑う法正、それを見て再び頬を染めるななしは、胸をドクドクと高鳴らせながらも顔を近付けた。目を閉じてゆっくりと距離を縮めていけば、ぽってりとした唇が触れてやがて深く重なり合う。
「ん…………。」
今回の彼はなすがまま、本当に何もして来ない。舌を入れる事もなければ噛み付く事もない。ななしは拙いながらも必死に舌を捩じ込んで舌を絡ませようと蠢かした。
ああ、これはこれで甘い拷問だ、今までの彼の行動が凄いとすら思えてくる。私をいつも快楽へと導ける技法を持ち合わせているのだ、ある意味尊敬する、なんて。
そんな懸命なななしに対して愛しさが宿ったのか、法正は徐に自分の手を彼女の後頭部へと伸ばし、グイッと固定した。当然それで離す事も許されず、呼吸が欲しくなっても乱れるようなキスばかりが襲う。
「んっ…………ふ…………っ……。」
くちゅ、と卑猥な音を鳴らし、ねっとりと唾液を撹拌させる。甘い物を食べてない筈なのに、何処か甘味を感じるのは何故なのだろうか。そんな有りもせぬ錯覚を覚え、意識を朦朧とさせるななしは液を口から零しながらも最後まで唇を重ね続けた。
「…………。(ああ……滲んでる)」
キスで感じているのか、中からぬるりと湿り気を帯びた感触を覚える。下着を取り払ってしまいたい、という位に量は次第に増していった。
そうして漸く許しが出たのか、法正の手は外れ、キスから解放される。目には自然に出た涙が溜まり、酸素を欲しがる肺がやけに痛苦しい。
「こういう甘さ、嫌いじゃありませんよ。」
やっぱり彼も甘かったみたいだ。肺に空気を取り込みながら未だ涼しい顔してる法正を見下ろす。真っ赤な舌をちろりと覗かせ、唇を舐める姿が何とも色っぽいことか。
「さて、次はどうする。」
次、と言われて想像する事は第二の前戯。キスで性欲を昂ぶらせれば、嫌でも熱を帯びるのは彼の象徴。
後ろを見ればすぐに分かる、ズボンを押して圧迫する雄々しい根が。余裕ある顔をしていても下は実に素直である。
「……………痛い、ですか……?」
「さぁ、どうでしょう。」
心なしか汗がじんわりと滲んで、顔が若干引き攣っているようにも見えなくない。それを確認すべくズボン越しにそっと手を乗せると、僅かな刺激にも反応するようにビクッと痙攣した。
「……………く、」
「ご、ごめんなさい……っ。痛かったですか?」
一段と低い声で呻く姿は、本当に苦しんでいる事を証明する。一刻も早く出さないといけない。
「………………。」
が、しかし今ななしは攻め側、それを改めて思い出すと、焦らさなければ彼もまた面白くないのだろう。
思い立ったように触れる手を上下左右に擦り、小さく細かい刺激を生ませる。すると彼は性的な快感を感じたのか、顔を歪ませて唇を噛み締めた。
「…………っ………。」
それに比例して膨張すると、彼は呼吸を吐き捨てて苦悶の声を漏らした。
「ふ………焦らし、か………?随分と酷な事しますね。」
「あの……我慢が出来ない程に辛いのであれば、すぐにでも……。」
「出来れば、そうして欲しいですが。」
ベルトを外して恐る恐る取り出せば、当然ながら想像以上の出来事。初めて対面するななしは呆然と見つめることしか出来なかった。
次はどうすれば?何をすれば喜ぶ?
早く悦ばせたいのに次の動作に入らず、手は虚しくも宙に浮いたまま。
暗い中でしか感じたことが無かった故に、実際に目にすると実に猛々しく、何とも言えない感情に浸る。
「男の人のってこんな……………いえ、その………。」
「まじまじ視姦とは、いい度胸だな。」
見つめることおよそ三分、痺れを切らせた法正の言葉ではっと我に返り、咄嗟にごめんなさいと頭を下げる。
我ながら見つめるなんて、とんだ変人だ。思い返すと非常に恥ずかしい。
「手でも口でも、お好きな様に。」
「………………。」
手や口で導け、そのままの意味なのだろう。ななしは言われるがまま、指で輪を作って根本と先端部分を包んだ。先走るぬるりとした感触が手に纏わり付き、竿を上下に扱く手助けになる。
「ん………く…………はっ…………。」
僅かに腰が浮いて、ベッドのシーツを握り締める法正。少しばかり顔を上に向け、尖った喉仏が大きく鳴るのがはっきりと分かる。そんな姿に更なる色気を感じ、こちらまで愛しい感情が揺さぶられてしまう。
しかし指遣いでは物足りぬ、そんな空きを満たす物は残った唇。
舐めるというのに些か勇気が必要であったが、これも彼を気持ち良くさせる為、気持ちに顧みず小さな舌を突き出した。先端をちろっと舐めれば感じた事のない味覚が舌から伝わる。苦いような、何かと言い切れない不思議な味を。
「……っは………ななし…………。」
名を呼ぶ声は苦しげに言い放たれる。さっさと楽にしてくれと、そんな風に言ってるような。
となるとこちらにも一層焦りが出てしまう訳で。ゆっくりと口で覆うと、そのままぎゅっと締め付けて勢い良く搾った。いきなり与えたそんな刺激が強過ぎたのか、法正は声にならぬ声を上げてベッドの柵にしがみつく。同時に脈を打ち射出するは、いつも腹の中で味わう白濁液、予告なしにななしの口内に勢い良く放たれた。
「っ…………!」
口に軽く含んでいたとは言え、この勢いには勝てずにあっという間に口内を埋め尽くす。ねっとりとした感触を味わい、喉を通すか通さまいか、それを考える事すら出来ずに含んだまま手で覆っていた。
「………嫌なら、吐き出せ…………。」
疲弊しきった表情で手を伸ばす彼、しかしななしは何も言わずそのまま喉へと流し込んだ。こくん、と小さく喉を鳴らし、目を薄っすら開かせる。
「……………苦い。」
「お前が味わってどうする。」
「だって……勿体無いです。」
「…………あのですね………。」
しかし己の吐き出した白い液を口端から垂らし、頬を染めるというシチュエーションは法正の何かを唆らせた。彼女が攻めの筈なのだが、どうにも攻めに見えない。
「……ホワイトデーには倍の倍お返ししますよ。……勿論、今度は俺の番、だ。」
どうせなら家に置いてあるチョコでも使おうか、彼女にたっぷりと注いで、隅から隅まで味わうのも悪くはない。
「そうして来るは、ホワイト倍返しデーだ。さて、ななし……覚悟はとっくに出来てるだろうな?」
右手に溶かしたチョコを入れたボウル、左手には先程まで締めていたネクタイ、その二つで一体これから何を始めようとしているのか。それは目の前で正に危機感を感じているななしのみが知る。
「孝直さん……何故にチョコを……。」
「言ったでしょう、たっぷり味わうと。」
「で、ですが……それ、ミルクチョコですよ。」
「それがどうした、家にあったのが偶々ミルクだったから文句は言えまい。……どちらにせよ貴女にかけてしまえば何ら問題はないですよ。」
ボウルを傾けてポタポタ落とすはななしの曝け出された胸。桃色の突起に茶色が施され、溶けた余熱を肌で直に感じる。
「あっ……ん……。」
「チョコで感じてるんですか?変わったお人だ。」
法正はチョコまみれの胸の飾りを口の中に含み、舌の先端で器用に転がしていく。その度に喘ぎ声が奏でられ、口を開けたまま次々と甘い声を止めどなく漏らした。唇を離すと茶色を混じえた半透明な糸を引いて、ぽたりと床に落ちていく。
「あっ……ぁ…………。」
「甘………。」
するりと右手を下腹部に滑らせて双丘を弄ると、ぬるぬる粘り気のある液体が纏わり付く。
「こっちはどうだ。」
とん、と身体を押し倒して片脚を持ち上げると、案の定ななしは顔を真っ赤にして抵抗を始めた。そこでそんな時の為に用意しておいたネクタイ、手首を縛り付けて身動きを封じる。
「いや……っ……。」
「俺に触れられるのが嫌か。」
「そう、じゃなく……て………。」
「じゃあ何だ。」
「………っ………。」
顔を埋めて言葉を発する度に生暖かい息が掛かり、潜めていた性感帯を引き起こす。
「ん、チョコと混ぜたら格段に甘そうですね。」
指に付けたチョコで濡れる丘を厭らしくなぞると、そのまま舌を侵入させた。
「あぁっ………ん、ふ……ぁ……!」
ぬちゃぬちゃ、水音を掻き鳴らし、限界まで貪り食う。
「どうだ………堪らないだろう……?」
先月の出来事とは比較にならない攻め。結局彼には敵わない、と心の中で感じながら昇りゆく快感を味わっていた。
「駄目………っ……は、ぁ………。」
「そうか、そうだろうな。」
きゅっと唇で豆を摘むと、あっと甲高い声を上げた。息の詰まるような絶頂に脳が麻痺を起こすが、それを塗り替えるように新たな刺激が下腹部を襲う。
「ひっ…………ぅ…………!」
股の間を擦るようにそれは上下し、ななしを眼下にする法正はくつりと喉を鳴らす。
「物欲しそうな目をしてますね。」
「………や………。」
自分でも知らずにそんな目を向けていたのかと思うと羞恥で毛布に包まりたくなる。しかし、この通り手は自由に動かないので、だらしなく空いた口で何とかするしかない。
「言ってみろ、その口で、何が良いのか。」
「………………。」
「言わなければ痛くする。」
「ん、嫌………っ………貴方が、欲しいです……。」
今更お返しは要らないとは言えないから、いっそ最後まで溶かしてほしい。
「いいですよ、快楽に悲鳴を上げる程に、な。」
淫猥な音をさせながら男根は狭き媚肉を掻い潜り、奥へ奥へと貫いていく。きつく目を閉じて、歯を食いしばって、全て収まるのを只管に待った。
そして、ぐっと腰に手を宛てられ、激しい律動は始まる。引き抜いては押し込めて、幾度も繰り返される度に上がる嬌声。
「あぁっ。」
ある筈の痛覚を忘れ、中は彼を誘うように引き締まる。法正はそれに応えて声を詰まらせ、無我夢中に動きを早めた。
「………いい声で、鳴くじゃないか。」
緩かったネクタイは、身を攀じる毎にきつく締まり、脚だけが彼の腰に絡みつく。
「ん、あ、」
終いには声にならない悦楽となり、目の前で欲のままに突く男が愛しくて、無意識にキスを強請った。それを見た法正は有無言わず唇を寄せると吸い付くように口付けを落とす。
乱れ、乱れて、そうして渾身の一突きを喰らわせると、ななしは腰を弓なりに反らせて呆気無く果てた。小刻みに震える身体と収縮する膣内、法正もまたその刺激に耐えられず最奥へと白濁液を吐出させる。熱が体内を巡り、脈打つ鼓動、全てを排出する為暫く抱き合ったままの態勢でいた。
「……………良いお返しだったろ。」
「………はい…………。」
ふと中で熱を帯びるのを感じ取ったななしは、恐る恐る法正の表情を伺う。するとその顔は悪人のように笑みを浮かべ、嬉しそうに口角を吊り上げていた。
「まぁ、一度きりとは言ってないがな。」
そういう事だ、ホワイトデーが過ぎるまで付き合ってもらおう。そんな彼の言葉に目眩を起こしながらも、身体は素直に応えて朝まで精を絞り尽くしたのだった。
(来年のバレンタインは絶対にチョコ作る………)
(別に作ろうが作らまいが、俺はきちんとお返しますよ。…色んな意味でな)