法正8

「その傷はどうした。」

頬と肘に傷を作った彼女がひょっこりと法正の部屋に訪れる。泣きそうな顔をする事も無ければ不機嫌な表情を浮かべる事も無い。

「えへへ……近所の子供に悪戯されて転んでしまいました。」

「……どこのどいつだ。倍の倍に返してやる。」

「だ、大丈夫ですから!そんな子供相手に……。」

立ち上がる法正を必死に止める。
子どもとはいえ、怪我を負わすのは許されることではない。しかし煮えくり返る気持ちを一旦沈め彼女の頬に指を滑らせた。
ざら、と肌が傷付いて痛々しい、思わず目を細める。

「私がどんくさいのがいけないから……次からは気を付けますね。」

「だが、こんなに綺麗な肌を傷付けた……それだけは決して忘れない。
…次からは俺も着いていきますよ、所謂…護衛です。」

真面目なその言葉に目をぱちくりさせ、くすりと笑みをこぼした。怪訝そうに彼女を見れば今度は申し訳無さそうに目を伏せた。

「いえ……こんなに私の事を思って下さり、幸せだなぁ……って。」

「好いてる女を守らない奴がどこにいる…。治療箱持ってくるから待ってて下さい。」

立ち上がり部屋の隅に置いてある治療箱から傷薬と布を取り出した。
彼女の頬と肘に薬を塗れば大分染みるのか眉間に皺を寄せる。

「我慢しろ…もう少しだ。」

堪える姿を見つつ、そして布で怪我を覆った。安堵しその場所をそっと抑える彼女。

「ありがとう、ございます…。
恩返ししないといけませんね。」

「出来れば餓鬼を締め上げてから貰いたかったのですが…。」

聞こえない程度に独り言を漏らす。

「…ですが、今の恩返しはこれでいいですよ。」

その柔らかい唇にそっと指をなぞらせ、法正はゆっくり弧を描く。

そして口付けをそっと交わし、すぐに離れた。

「法正、さん。」

「たまには叱る事も必要だ……その事忘れずに。」

布の上から優しく頬に触れてそのまま部屋を出る。
完全に思考が止まり、彼が何処に征くのか聞く事もすっかり忘れていた。


(そんな事しそうな奴を徹底的に見つけてやる)