法正9

「今日はいい天気ですね。」

特に意味のなさ気な話題で話しかけて来るのは法正と呼ばれる悪党な軍師様。
いつもならこちら側から話す事が多いのだが、今日は彼から側に寄る事が頻繁だ。

「今日は何だかいつもの法正さんらしくないですね。」

「そうですか?いつもの俺というのがいまいち把握出来ないので、何とも言えませんが。」

縁側に座れば彼もまた隣に座る。
恥ずかしくどこかぎこちない動作は既に知られてしまっただろうか。こうも積極的であるとこちらもそれなりに身構えてしまう。
法正という男は毎日一緒にいても心を読み取れない。言わば水の様な人だ。

「……偶に日向ぼっこしていると、意識が薄っすらぼんやりして…気が付いたら日が傾いていたなんて事ばかりです。」

「ああ、気を付けてくださいよ。味方とはいえ、何が起こるか分からないのですから。」

話す事はどうという事はない、そこらに溢れ返ってる話題ばかりだ。
はい、と照れつつ微笑めばふと肩に被さる長い布。いつも彼が愛用している布とは少し違い色鮮やかで美しい生地である。

「わぁ綺麗……つい見惚れてしまいます。」

「なかなか手に入らない代物で…よければ差し上げますよ。」

「え、今なかなか手に入らない代物って言いましたよね!いいですよ私なんかには勿体無いですし……。」

そう言わず、と触れられる手がやけに熱い。いや、熱を帯びているのは彼女の方である。身体もいつもより近く息が若干ながら掛かる程度。
顔まで紅くなるその姿に思わず口元が弧を描かずにはいられなかった。

「実を言えばこれなんかよりもっと手に入りにくいのがただ一つ、あるんですよ。」

「そ、それはどういった物で……。」

よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに口に一層笑みを浮かべた。

「…例えば、そうですね…近くにいればいる程、俺がいつもの俺でなくなる。」

「………!」

「貴女の仰る通り…今の俺は少しばかり違うのは、今日という日の天気が良いだけでないんですよ。」

と、色気を存分に含んだその表情が目の前にまで迫り徐に唇が重なる。自分の姿を映した真っ黒な瞳に意識を持って行かれた所為で、己の身に何が起こったのか数秒分からなかった。

「ん………!?」

気が付いた頃には彼の舌は彼女の口内を侵し、堪能するように唇を隙間なく密着させた。
そんな事されて長く息が持つ筈がない、彼女は大層驚き離れようと必死に藻掻くがそんな事は通用しない程力は圧倒的だった。

「っあ、……。」

「唆るな……その顔。」

ぜえぜえと息を切らすのに対し法正は満足気な喜びを見せる。舌なめずりを軽くしてじっと彼女の目を見つめた。

「今日は接吻をする日らしいですよ。ですから、俺から頻繁に逢瀬を重ねていました。」

「……せ、接吻……!」

「もしかして、初めてでしたか。」

首を小さく縦に降れば顰めた顔を向ける。

「成る程……こんな俺とはやはり嫌でしたね。」

「そ、それは違います!いきなりでしたので……その…。」

「なら良かった…日々悩むよりこうして伝える事が手っ取り早いと思いまして。気持ち、受け取ってくれますか。」

淡々と彼の流れに飲まれて行くような気がしたが、不思議と心地がいい気がした。