「実に、実に緊急事態ですぞーーーーーーー!!」
廊下に響き渡るような叫び声に加え、踏み鳴らす足音が次第に大きくなり、私の部屋の扉がぶち破れんばかりに開いた。
「やだ陳宮さん、どうしたんですか。後、扉静かに開けてくださいよ…。」
「あ…これはこれは、部屋を間違えてしまいました。」
手に持っている箱に何気なく目をやると、陳宮はしまった、と言わんばかりに後ろに隠す。
気になったので一応聞いてみた。
「…それ何ですか?」
「あ、いや…何でもないですぞ。決して壊れた簪では…!」
「あら、壊れた簪なんですか?」
「しまった、私とした事がつい、急いた所為で…!」
片手で口をバッと抑えて慌てふためく姿が何とも可愛らし…いえ、実に大変そうで。
「誰かに渡す予定だったんですか?」
「そ、それは内緒ですぞ!」
咄嗟に後ろ向くが、生憎隠したはずの箱が丸見えだ。
「陳宮さん、とても軍師には見えませんよ。」
はにかむと彼は顔を真っ赤にして押し黙ってしまった。
「いやはや、何とも、何ともお恥ずかしい姿を貴女に見せてしまった…穴があったら今すぐにでも入りたいですよ。」
観念した様に陳宮は箱から簪を取り出す。先の言葉の通り、先の部分が少しばかり欠けてしまってる。
「…そうです、ある女性に贈りたかった品なのですが、呂布殿にぶつかった衝撃で…。」
肩をがっくりと落とし嘆く。
「ある人?陳宮さん好きな女性がいたんですか。」
女性に興味が無いように見えたので少し驚いた。しかし照れくさそうに頬をかくと咳払いを一つ、彼は真剣な眼差しでこちらを見る。
「います、ええ勿論いますとも!美しく可憐で、私にいつも癒しを与える運命の人がここに!!!」
手を広げて部屋に響いた声、時が止まったかのように、私は指一本、いや瞬きすらしなかった。
沈黙の時間が流れる中、先に陳宮が口を開けた。
「…嫌、でしたか。申し訳ありません、今のは忘れてください。失礼しました…。」
咄嗟に私はとぼとぼ帰ろうとする陳宮の腕を掴んだ、彼は目を丸くして振り向く。
「あの、その…。」
あやふやで中々言葉が出てこない。が、どうにかして伝えたい。
半ばやけくそになった私は目を瞑り思い切り抱き着いた。案の定陳宮は目を白黒させてる。
「え、あ、ええ…!?」
「陳宮さん、私も好きですよ。」
「あ、そうなのです、か……って、え?」
少しだけ距離を置くと、互いの目が合う。
「その簪、いただけますか?」
「駄目です、駄目です!これは壊れていて…!」
「いいんですよ、それでも嬉しいんですから。」
微笑めば彼も少しだけ笑って、箱から簪を出し私の髪に留めた。
(おはようございます陳宮さん、今日もいい天気ですね)
(欠けてるのにも関わらず、毎日付けてくれてるとは…!)