法正10
「わ、大きな木の実が沢山……。」
庭に水撒きをしようと外に出てみれば、辺りは黄色い木の実が転がっている。
一つ手にとってまじまじと見ていると、後ろから葉っぱの互いに擦れる音が聞こえて振り返った。
「お一つ食べてみますか。」
大きな木を担いでこちらに声を掛ける法正の姿に驚かずにはいられなかった。
「法正さん…!これどうなっているんですか?それにその大きな木も……。」
「新しい武器の様ですが……これがまた面白いんですよ。」
それ、とその木を思い切り振り回して風を起こせば、驚く事に次の瞬きでその木は姿を消して茸に変わっていた。
「わっ、先の…先程の木はどこへ行ってしまったんですか!?」
「言った通り、中々の代物でしょう。ああ、でもこの茸は毒なので食べないように……。」
確かに色が美味しそうには見えない、触る事を諦めてつつも興味津々に眺める。
「ふふ、本当に面白い……あ、折角ですのでこの木の実一緒に飲みませんか?毒、はさすがにないと思いますし。」
「ええ構いませんよ、まぁこのまま捨てるのは勿体無いからな……。」
集めてみれば抱えきれない程の量となってしまい、法正の机上はあっという間に木の実で埋め尽くされた。
「………おすそ分け、しましょうか。」
「さすがにうんざりするな…後で配り歩くか。」
彼は実を一つ手にとって硬い場所にぶつけた。すると綺麗真っ二つに割れて中から甘そうな蜜が溢れ出す。
「わぁ、美味しそう!」
渡されたその実をそのまま口にして飲む、口の中にじっくり広がる甘みが何とも言えないほど美味だった。乾燥していた喉が一気に潤う。
「あ…法正さんも一口どうぞ、とても美味しいですよ。」
そう言って彼に渡そうとすれば何故か嬉しそうにこちらを見る。どうしたのか分からず首を傾げていると、そっと指を口元に宛てて滑るように撫でていく。
「わ……!?」
「本当に、甘そうだ。」
指に付いた滴をそのまま口に運ぶ、その姿がやけに妖艶で思わず目を逸らしてしまった。
「ああ、いけませんね…きちんと飲まないから、たっぷり付いてますよ。」
そういってゆっくりと歩み寄り、すぐ側まで距離は縮まる。夏という所為もあるのかどんどん上っていく熱量、いつもより開けた法正の服装に目のやり場を失う。
「…………えっと。」
静かな部屋に聞こえるは彼と私の息遣い。このまま何もしないのがいいのだろうか、ぎゅっと裾を握って目を閉じる。
すると彼のひんやりとした手が熱い頬に触れて熱を奪っていく。
「ん………。」
「気持ちいいか?」
はい、と頷くとそのままじっくりと手を滑らせて首元へ触れる。なぞる指が擽ったく時々肩を揺らした。
もう片方の手は長い髪に絡ませて遊んでいる。
「あの……飲まないんですか?せっかくですから法正さんも……。」
気持ちは既に沸騰寸前だったので話題を戻そうとする。
「そうですね……では俺も貴女が美味しいと言った蜜の味を知りましょうか。」
遊んでいた手が離れたので安心して目をそっと開く。しかし予期せぬ事に目の前にあったのは彼の顔で、気付けば唇には温かい何かが触れていた。
「………!」
一瞬驚くが、それはあまりにも優しい口づけだったので抵抗が出来なかった。
暫くしてゆっくり唇が離れると
「成程、確かに誰にも味わせたくない代物だ。」
そう呟いて再び満足そうに笑みを浮かべた。
「わ、私じゃなくてこっち……!!」
「貴女をも味わいたいんですよ、俺は。……言っている意味、分かるでしょう……?」
そんな甘く低い声で言われてしまえば私は嫌でも理解してしまう。
次に触れた時はちゃっかり組み敷かれていて、本当の蜜を飲むのは夕刻を過ぎた頃になってしまったのだった。
(劉備殿、おすそ分けです)
(おお、これは美味しそうだな!)
(はぁ、あと何件こいつを配り歩けばいい…)