徐庶3

外で子供が楽しそうにはしゃいでいるのを徐庶は微笑ましく見つめていた。

「子供は……元気でいいな。」

「徐庶さんは子供は好きですか?」

「そうだね、好きな方かもしれない。いつの日か自分に子供が出来たら、一緒に遊んだり話したり……あ、いや、ええと……。」

無意識に口に出していたようで、恥ずかしそうに手で押さえた。そして申し訳なさそうに眉を下げてはにかんだ。

「そんな…凄くいいじゃないですか。徐庶さんならきっと優しいお父さんになりそうです。」

そう笑んで言えば、彼は嬉しそうに頬を掻いて黙り込んだ。

「そうかな……俺なんかじゃ、きっと頼りないだろうに。」

「子供に懐かれそうな性格してますから、きっと大丈夫ですよ。」

「………あの……その……。」

何処か言いにくそうに言葉をくぐもらせ、きょろきょろと目を泳がせた。

「はい、どうかしましたか。」

「良かったら、俺と………。」

暫く間を置いて、やっぱり何でもない、と首を振って再び黙ってしまう。彼の言いたい事が気になってこちらももどかしくなる。

「あの……はっきり言っていいんですよ。何か都合の悪い事なんですか?」

「違うんだ……言ってしまうのが、怖くて。これを言ってしまったら、君との関係を壊してしまうかもしれない……。」

溜息をこぼし、いつもの謙虚さを表す。

「それに、君はこんなの望んでいないと思う……。」

「徐庶さん。」

名を呼べば今にも泣き出しそうな顔をこちらに向ける。話の内容が全く分からないが、このままだとこちらまで辛くなる。

「絶対に怒りませんから、言ってみてください。どんな言葉も受け止めます。ですから、辛い事は一人で抱え込まないで。」

その優しい言葉に彼は迷い、悩んだ。言えば楽になるであろうこの気持ち、しかしそれを遥かに上回るのが失うのを恐れてしまう気持ち。

「…………。」

懊悩する内にふと手に暖かさを感じ、徐ろに視線を落とす。するといつの間にか己の手に重ねられていた彼女の小さな手。ただそれだけなのに、とてつもない力を与えられた様な気がして。

「……君が……好きだ。」

切なげな表情、射抜くような眼差しで真っ直ぐと告げる。そんな言葉に彼女の時間が止まった。

「………………。」

「………………あ、その………!」

意味を察したのか、今度は彼女が顔を真っ赤にして慌てふためいた。

「わ、私………っ。」

「いいんだ、君の答えはもう分かっている……俺じゃ君を幸せに出来ないから……。」

心なしかすっきりした。思いを告げる事が出来ただけでも十分満足だ、と思っていたのだが。



彼女は、泣いてしまった。

「………す、すまない!泣かせるつもりじゃあ無かったんだ……!」

何も言わず流す涙に心が酷く痛む。彼女の気持ちも考えず傷つけてしまった、と徐庶は己を情けなく思い恨んだ。

「もう二度と言わないから……っ。」

「違う、違うんです……!」

違う、放たれた言葉に身体が固まる。一体何が違うのだろうか、未だ乱れ波打つ心臓の鼓動が耳に響く。
彼女は袖を握り、涙を目尻に溜めて見上げた。

「嬉しいです、直接貴方の口から聞けて。」

「嬉……しい………そんな、本当に……。」

予想だもしない台詞に思わず目眩がした。まさか彼女も好いていただなんて。これは夢だろうか、頬を引っ叩きたくなる。

「あの………良ければ頬を一発……。」

ばしんっ。

「痛っ!?」

言い終わる前に彼女が思い切り叩けば、何かが弾けたように目の前は真っ暗になった。










「……………ああ、夢だったんだ。」

目を開ければいつもの風景、隣は誰もいない。急に虚しさが訪れる。

「………それもそうだ、こんな俺なんかじゃ……やっぱり………。」






「何がやっぱりなんですか?」

ふと見上げれば先の夢に出てきた少女。驚いて思わず引っくり返りそうになった。

「う、うわぁ!」

「そ、そんなに驚かなくても……。」

すまない、と何度も謝罪すればくすりと笑って隣に腰掛けてくる彼女。周りを見渡せばいつの間にかはしゃぐ子供達。それを見て自然と言葉が漏れる。

「子供は………元気でいいな。」

「徐庶さんは子供は好きですか?」

「そうだね、好きな方かもしれない。いつの日か自分に子供が出来たら、一緒に遊んだり話したり…………。」



ああ、これは……。



「………徐庶さん?」



分からないが、きっと、上手く行く気がする。



「………俺は、君の事が―――――」



ああ、やっぱり君は笑ってくれた。




(本当の事は夢でなく、目の前で伝えないといけない)