モニタリング
「今回は海でカップル達をモニタリングしようと思います!彼には美女を、彼女には美男を、それぞれ近付いてその誘惑に耐えられるか!を仕掛けていきます。」
「すみません法正さん、かき氷買ってきても良いですか?すぐに戻りますので。」
「かき氷……ですか。いいですが、あまり遅くならないように。」
「ありがとうございます。」
そう言うと少女はそろそろと砂を蹴ってかき氷屋とは違うある場所へと向かう。そこにはカメラやスタッフ達がぞろぞろと何やら準備をしている所だ。
「あ、来ましたね!今回記念すべき第一回目に挑戦してもらいますのはこちらの彼女さんです。」
「は、はい、初めまして。あの……こういった事に慣れていないので……喋りはちょっと。」
「大丈夫ですよ、一緒にこの映像を見てその都度一言軽く添えるだけでいいですから。」
そう、彼女はあるテレビ企画に参加していたのだ。とはいえ、法正がいない時に偶然出くわし、是非とも出て欲しいと深々お願いされたので仕方なく内緒で参加する事になった訳だが。
カメラに映り出されるのはのんびりとパラソルの下で待ち続ける法正の姿。露出した浅黒い肌や鎖骨、鍛え上げられた程よい腹筋、腰のくびれからただならぬ色気が溢れ出し、周りの目線もいつしかそちらに向けられている。
「おお、カッコイイ彼氏さんですね。周りも心なしかそわそわしています。」
「あ……はい……。」
照れる彼女だが、一抹の不安もある。もし彼が他の女性の誘いを受けてしまったら……そう考えるだけで、今から胸が締め付けられそうだ。
「さて、覚悟はいいでしょうか。これから美女を彼の元へ向かわせますよ。」
「え、あ、はい……!お願いします。」
力強く頷くと、露出度がそこそこ高い、可愛いとも美人とも言える女性が法正の所まで歩いて行った。片手に浮き輪、もう片手には日焼け止めクリーム。
「あの、すいません。」
「…………?」
怪訝そうに法正は目を細めて声の主を見つめる。ビキニから覗かせる豊満な胸が目の前にまで迫る勢いだ。
「ちょっとお願いしたい事があって。」
「………何でしょう。」
「うーん、なかなか鋭い目をして見つめていますね。これはどう出るのでしょうか。」
「………………。」
「もし良かったら、背中にコレ塗ってもらいたいんですけど。」
と、日焼け止めクリームを見せて大胆に曝け出された背中に指を指した。どんな男も簡単に落とすであろう色気に対して、法正はどのような反応を示すか。テレビ企画とはいえ、少女の心臓は速く波打っていた。
すると、低い声で
「それは出来ませんね。」
と、涼しい顔で誘いをキッパリ断った。
「おお、第一声はこうきましたか!」
「……………!」
ほっと安堵の色を見せる。が、しかし、これでは終わらないのがテレビの醍醐味というもの。この後も怯まず女は攻めの手を見せていく。
「でもお一人なんですよね。」
「ああ……一人ですよ、今はね。生憎俺には彼女がいるもので。」
「あの、少しだけでいいんです!彼女さん今なら見てないですし、バレなければ怒られませんよ。」
「あのな………。」
法正は呆れながら溜息をこぼす。
「お願い………貴方だけにしか出来ないの……。」
トドメと言わんばかりに谷間を寄せて、お強請りのポーズを構える女。
「さて、ここで彼は誘惑に負けてしまうのでしょうか……!」
「法正さん………!」
無意識に力が入ってしまい、テレビだという事もすっかり頭から離れてしまっている。カメラなどお構いなく、顔つきは真剣そのものだ。
すると、法正は先程よりも低い声で言い放った。誰もが恐怖する、射抜くような鋭い目で。
「………俺の気が変わらない内に消え失せた方が賢明かもしれませんよ。その綺麗な背中に爪で抉る程立てられたくなければな。」
ぞくり、と、仕掛け人の彼女は勿論、カメラ越しのスタッフ及び少女さえも背筋が凍り詰めた。絶賛真夏だというのに彼の一言で異様な寒気が襲いかかる。
ーーこれは止めるべきだ。誰もがそう警鐘を鳴らす。
「し、失礼しました…………。」
女は引き攣った顔のまま駆け足でその場を立ち去る。法正はそれを尻目に、再び海の方に向かって景色を眺めだした。
「……………なかなか、稀な断り方でしたね。」
「…………………。」
「………えっと、終了です。結果は……仕掛け人が逃げ出したので完敗………彼氏さん、貴女の事が相当大切なようです。」
大切、その言葉で彼女の心は満たされた気分になった。自分よりもランクが上の女の誘いを脅迫に近い状態で断る……そうなかなかないだろう。
ネタばらしという事でスタッフと少女は法正の元へ駆け寄る。すると、何事かと言わんばかりに目を丸くして一瞬だけ言葉を飲み込むが、カメラの存在に気付いて漸く今の状況を理解した。
「…………ああ、そういうアレか。」
「ごめんなさい法正さん………内緒でこんな事……。」
「全くですよ。お陰で全国にとんでもない断り方を晒す事になるじゃないですか。」
はぁ、と、今日で何回目か分からぬ溜息を吐き、法正は頭を掻いた。
「で、でも……嬉しかったです。法正さんがきちんと断ってくれて。」
おどおど本音を告げれば、法正も下げていた口角を緩ませて
「………当たり前じゃないですか。俺には貴女がいる。例えどんな傾国の美女が幾百現れようと、俺の心は死ぬまで変わりませんよ。」
「ーーーー。」
刹那に見せた、穏やかな笑みが、くらりと眩暈を引き起こす。先程まで恐怖を生み出す睨みを利かせていたとは思えぬ、彼女だけに見せる愛おしいその姿。
「法正さん………大好きです……!」
「ああ、知ってる。」
カメラが回っている事もお構いなしに二人は強く抱き合う。それに見兼ねた司会者も
「…………えー、その、二人の愛が再確認出来たという事で、本日の撮影はこれにて終了です!お疲れ様でした!」
と、半ば強制的にカメラの位置を下に落とした。