「今回は海でカップル達をモニタリングしようと思います!彼には美女を、彼女には美男を、それぞれに近付いて彼らはその誘惑に耐えられるか!を仕掛けていきます。」
「すみません、少しだけ席を外します。」
「あ、何か買いに行くんですか。」
ええ、まぁ、と、言いにくそうに法正は目を逸らす。しかし彼女は鈍感故、それ以上は何も言うことなく笑顔で彼を見送った。安堵する反面、心配さも伺えるが、今だけはどうにも仕方ない。
そこから向かう先は、何やら忙しそうに動き回るスタッフ達の元。
「で、どうすればいいんですか。」
と、不服そうに目つきを鋭くさせる法正。
「え、あ、企画に参加してくれる方、ですね!お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」
そう言って連れて来られたのは彼女の姿が見えなくなる程に遠い浜付近。しかしそこには数台カメラが置かれており、映し出されているのは先に別れた筈の少女の場面。
パラソルの下で一人彼を待ち続けている姿を見て、法正は思わず焦りを感じた。そういう事に疎い女が一人浜のど真ん中でいる事が、どれだけ危ないか。
「ご安心を。スタッフが用意した人以外は立ち寄らせないように配慮してあります。」
「いつの間にそんな事を。」
「此処らはナンパが多いですからね。企画で用意したエキストラがいなくとも、そういうのがわんさか寄ってきますし。」
「なら早くしろ。」
「す、すみません、もうすぐ配置が完了しますので、もう少しお待ち頂ければ。」
立ち寄らせない配慮など効くものか。不信な思いを抱いたままカメラ越しに彼女の待ちぼうける姿を見つめる。
……まさかこんな面倒な事に巻き込まれるとは。
たまたま近場でタバコを吸っていたら声を掛けられ、企画に参加してくれたらもれなくこの先にある高級ホテルの宿泊分を提供します、という何とも怪しげな勧誘を受ける。が、聞いてみれば何処ぞの有名なドッキリ企画テレビらしく、カップルの愛を確認するだの興味もないような事を延々と綴られ、挙句の果てには有無言わず強制参加。
どうやら自分達以外にも何組か強制参加させられたようで、怪しいと睨む奴、面白そうだと燥ぐ奴、どれも男ばかりだ。
「…………はぁ。」
自分が彼女と離れる事がないからと、派手で露出の高い水着を敢えて許可したのを酷く後悔していた。さり気なくパーカーを着ておけと言ったものの、肝心の胸元が開放的で、何の為に着させてやったのかも分からない。
「では、まず一組目!」
と、肩を置かれた法正はため息を吐く。
「………さっさと終わればいい。」
そう言ってカメラとにらめっこ。
「では、始め!」
その言葉が放たれたと同時にやってくるは一人のイケメン、という類に入る男。爽やかな笑みを浮かべて彼女の元へと足を進める。
「………おい、まさか。」
「そのまさかです。イケメンが彼女にお願い事をした時、果たして彼氏がいるにも拘らず快くOKしてしまうのか!を仕掛けてみようと思いまして。」
「何故それを始めに言わない。」
「えっ、いや、その……言ってしまったら断られそうな気がして……。」
「ああ、断っていたとも。そういうの、俺は好きじゃありませんからね。」
「すみません、でも、人員が足りなくて。」
「嘘つけ、どう見ても周りは暇そうな奴ばかりだろうが。」
焦りつつもディレクターは内心思っていた。この男は他の奴とは何処か違う雰囲気を醸し出している。もしかすると面白い収録が撮れるかもしれない、と。しかし、想像以上の威圧さに夏を忘れる程冷や汗が止まらない。
この顔立ち、出立ちは明らかにこっち側の世界ではない、故に危険は重々承知。だがしかし番組を盛り上げる為、ここで諦めるわけにはいかないのだ。
「あ、ほら!彼女さん、イケメンに気付きました!」
そう言われ、ハッと息を呑む法正。胸倉を掴む腕を離さぬままカメラの方向へ目をやる。
「あの、今お一人ですか。」
「………はい?……えっと、その。」
案の定困り顔。怖がられないよう、物腰の柔らかい姿勢で男は笑う。
「もしよければ、一緒に遊びませんか。友達が来れなくなっちゃって、寂しく一人で来たんです。」
「……………………。」
この上なく不機嫌を見せつける法正は、こめかみ辺りに青筋を立てそうな勢いで憤怒の炎を滾らせる。それはもうドッキリとか関係なく、彼女に声を掛ける輩が気に食わないという一般的な概念。
「すみません、私、彼氏と来ているんです。」
「あ、そうだったんだ!でも、今はいないんでしょ?少しくらいだったら……。」
「あの……困ります。」
「大丈夫、バレたりしないから。」
そう言うと彼女の腕を掴んだ。
「いやっ!」
「わ、ごめん、そういうつもりじゃ……!」
「助けて、法正さんっ………!」
本気で怯える彼女は、無意識にカメラ越しにその姿を見つめる法正の名前を叫んだ。
「……ああ、一つ聞いてもいいですかね。」
天を仰いで無機質に訊ねる法正に、これから起きるであろう地獄級の修羅場を想像させ思わず震撼させる。ディレクター含めスタッフ一同、彼に無言の返答を寄越せば、虚ろながらに眼光を鋭く光らせてはくつりと喉を鳴らし
「ーーー殺」
こちら側に回っていたカメラの音声が途切れた。
「………………ひぃ!待ってくれ、これはドッキリで………!」
「ああ知ってるとも。勝手に仕掛け人として呼び出されましたからねえ。まさかこんな事をするとは思ってもいませんでしたが。」
砂浜に倒れ込む男の背を何度も蹴り、我を忘れる程に怒りをぶつける法正。カメラを叩き割ったと同時に迫り寄る男の背中に蹴りを入れ、この惨状はあっという間に一般客の脚光を浴びる事に。
「いいですか、テレビのお偉いさんに言っておいてください。……二度と俺達に……いえ、彼女に近付かないように、と。」
「はいっ、分かりました、から、うわぁ!」
何処から持ってきたのか、大漁の海藻を彼の頭から足までぶちまけて、法正の報復は漸く終了した。
それを終始見ていた彼女は何がなんだかという状態である。
「………あの、これは、どういう。」
「ん、テレビのドッキリだそうで。」
「え、私、法正さんにドッキリ仕掛けられていたんですか!」
「…………………。」
具合が悪いように彼は目を逸らす。
「………法正、さん?」
不安がる彼女の声色に、法正は真顔で
「怖かったですか。」
と、彼女の頬を撫でた。
「あ、その………法正さんが、助けてくれたから……大丈夫、です。」
「………そうか。」
「…………なんだか、ドッキリとは思えないくらいリアルでした。うーん、これテレビに映っちゃうのかなぁ……。」
「いえ、ここだけは放送されないでしょう。」
なにせ、貴女を怖がらせた怨みとしてカメラ何台か壊してしまいましたから、と不敵に笑えば、彼女は驚きつつも嬉しそうに微笑み返したのだった。
(覚えておくんだ……あの悪党のような顔には絶対に声をかけるんじゃないぞ……!)
(っくしゅ!)
(法正さん風邪ですか!?)
(……ああ、誰かが俺を噂しているようですねえ)