するする、静寂な部屋の中では十分に目立つ布団の擦れる乾いた音。
「………………。」
重い瞼をそっと開ければカーテンの隙間から溢れる、開けた瞼を下ろしてしまいそうな程に眩い位の陽射し。
……否、これは今年最初の太陽である。
「……………。(ああ)」
今年こそ初日の出見たかったから必死に起きていたかったのに。どうやらそのまま眠りについてしまったらしい………隣で未だ眠る彼と共に。
うつらうつら思い起こせば恥ずかしい事ばかりだ。11時まで普通に紅白見ていたのに、訳も分からずいきなり押し倒されて、そこからは待ったなしの大人の時間。
理由を聞こうにも服を脱がせる手は止めず、ただ沈黙だけが流れ、鼻を掠める男性の香水に包まれながら、伸ばされたその手に仕方なく全てを委ねる。
待ちに待っていた12時を回ってからはテレビの中の住人達はどんちゃん騒ぎ、互いの携帯がひっきりなしに鳴り響いてるのもお構いなく、彼は私を解放しようとはしなかった。
愛撫をするその手は止める事なく、好がる所ばかりを攻め込んで、新年明けましておめでとう、そんな和やかな雰囲気なんて微塵足りとも感じさせなくて。まるで理性なき獣のように喰らい尽くし、明け方まで私の意識をなくすまで抱いていたようだ。
「……………………。」
寝返りを打とうとするが、腰が痛くて叶わない。恐る恐る己の身体を見れば、散りばめられた深紅の花弁。所々噛まれた所もあり、歯型が微かに残っていた。
…………ああ、新年早々この有り様とは。無難にお節料理を食べたいと思っていたのに、これでは起きる事すら出来ない。
ね、法正さん、法正さん、起きて。私の代わりにお節用意して欲しいんです。そうして口の中に私の大好きな伊達巻を放り込んで。
何とか軋む身体を法正の方に向けて口をパクパクさせる。声を出すのも少しばかり辛くて、どれだけ昨晩彼の下で啼いたのか、それを思い出すだけで顔が火照ってしまう。それでも続けて口パクをしていれば、薄っすらと瞼を開けて、閉じていた唇に小さな隙間を作る法正。
何度か瞬きを繰り返し、彼女が口パクしている姿が目に入るなり、色気を含むぽってりとした唇をゆっくりと動かし始めた。彼も何か伝えたいようだが、生憎読唇術なんてものは身につけていない。唇の動きを何とかして理解しようとするが、やはり分からずじまいで。
「……………………。」
眉と眉の間に小さな皺を作り、疑問の色を見せれば、法正は徐に腕を伸ばして腰辺りから彼女の全身を引き寄せる。
「ん………っ………。」
「…………お節もいいですが、もう少しこうしていたんですよね。」
ピッタリとくっつく互いの身体、彼の厚い胸板と己の柔らかい胸が密着し、温い肌の熱が直接伝わってくる。何度も身体を重ねているとはいえ、こうも明るい陽射しの中で見えるとやはり恥ずかしい。
しかし、眉を下げて困り顔で甘える法正が不覚にも可愛いと思えてしまった事が今は最優先かもしれない。
「……………甘………え………?」
「……………ええ、今の俺は甘えたがりですよ。新年休みの時くらいは貴女とこうして過ごしていたいと思いまして。」
額に落とされる口付けに擽ったさを覚え、思わずキュッと結ばれる唇。
「…………昨日、どう……して?」
「昨日………?ああ、昨日か………。無性に抱きたくなったんです、眠そうな貴女を見ていたらどうしても。年を越すその瞬間でさえ互いの身体を重ねていたい……愛しさ故に、そんな我儘ですよ。」
「……………………。」
「お節なら後できちんと用意しますから。…………って、おい?」
「…………好き…………。」
両の頬に手を添えて真っ直ぐと法正を見つめる。声が掠れて上手く言えないが、それでも眼差しだけはしっかりと気持ちを伝える。しかし、その想いは若干違う方に向いていたようで。
「………っ………そんな誘うような目で見ないで頂きたいですね。」
「…………え、あ…………。」
余裕のない笑みは、そういう事だと。
「昨日の続き、しても?」
「まっ………腰、痛い……!」
するり、腰に骨張った指が這うと、そのまま擦るように優しく撫でる。その感触にぞくぞくと身震いさせていると、法正は穏やかに目を細めて見つめ返していた。
「…………腰、揺れてません?」
「………っ、ません………!」
「ああ失礼、感度があまりにも良さそうでしたので。」
そのまま下へと這うように下りると、尻から太腿に掛けて艶めかしくなぞられる。
「や、ん……っ……法、せ……。」
「ほら、その声、ぞくぞくしませんか。互いに服も脱いでますし、このまま貴女に………。」
腰部分に態とらしく当たる故に分かる、熱のような何か。散々放った癖に衰えるどころか未だ健在である。男には限界というものが存在しないのか、はたまた法正自身がそういう質なのか。
ああ、ピピッて携帯がまた鳴った。昨日の情事の最中と同じように。
「…………あ、ん………携帯が、……!」
シーツの上で振動する携帯に手を伸ばそうとするが、
「そんな物は後回しにすれば良いでしょう。………ああ、それとも俺よりも携帯の方が大事で?」
ぐっと顔を引き寄せられ、目の前が彼の顔で埋め尽くされる。整った顔付きは携帯の事も忘れる程に一瞬の内に虜にさせた。
「………分かってる、くせに……。」
悔しいけれど、自分だって彼が他に目が行ったらヤキモチ妬いてしまうわけで。だからといって携帯に嫉妬、というのもアレなんだが。
そうだ、何がともあれ、今の彼は極度の甘えたがりであった。
「でしょうね、だからこそ今だけは、俺しか見ないでください。」
低音で囁くと同時に強く唇を重ねられ、口内を犯し尽くすように舌が婀娜やかに蠢き出す。胸板で押し返す動作をしてみるが、勿論最初から本気ではなく分かっていながらの優しい抵抗。
しばらく向き合う様にしてキスを繰り返していたが、いざ本気になったのか法正は彼女の上に覆い被さり、両手首を押さえ付ける。
「んっ…………!」
「…………っは、悪いが、歯止めが利かん。」
脚の間に自分の片膝を立て、堪能するように唇を舐める。
「……あ、」
はらりと二人を隠していた布団がずり落ち、影になっていた身体がすっかり顕になる。すっかり明るい部屋での身体はしっかりと輪郭を見せる訳で、自分の下で震える裸体に舐めるような視線を落とすと、法正はますます気持ちを昂ぶらせた。
「…………お節、いつになるだろうな。」
ぽつりと放ったその言葉に、自分は当分諦めるしかないと、呆れながらも小さな笑みをこぼした。
(ああ、そう言えば言い忘れていた。明けましておめでとうございます)
(い、今……言う時、ですか………!)