法正24

「今年も色々ありましたが、なんとか年を越せそうですね。」

時計を見ればあと30分で元旦を迎える。思い返してみれば多くの出来事があったのだが、その大半が隣で自分の髪を撫でる男にある。法正は彼女の長い髪を指で梳いては掬い取り、そのさらさらした感触を愉しむように目を細める。

「そうですね、俺にとっても忙しい一年でしたよ。仕事を黙々と熟すだけならまだしも、人付き合いとなるとスキルはうんと下がるな。」

そうは言うもの嬉しそうに口角を吊り上げると、うなじ部分にひんやりした手を当てられて思わずふるりと身体を震わせる。そんな姿を見た法正は再びくつりと喉を鳴らしてそのまま自分の胸元に抱き寄せた。

「ん……法正さんの手って冷たいですよね。」

「ああ、それは俺の心が温かいからですよ。」

「それ本当ですか……私、法正さんに意地悪ばかりされてきたような気がするんですが……。」

「まさか、それを愛あるスキンシップと言うものでしょう?」

寝ている人の鼻や口を悪戯に塞いだり、後ろから抱き締めては首を上に曲げて口付けたりする事がスキンシップと言うのだろうか。彼からみるとそうなのかもしれないが、恥ずかしさのあまりこちらの身が持たない。また低音ボイスを耳元で囁かれた時には足腰がストンと落ちて床にへたった事も少なくない。

「スキンシップというのは手を繋いだり抱きしめたりする事……かと。」

「随分と生温いですね、俺はそれだけでは事足りませんよ。」

「そうは言いますが……お陰様でいつも驚かされてばかりです。だから、その……もう少し控えてくれると嬉しいんですが……。」

何気なしに申し出ると法正は目を伏せて口を噤んだ。

「………そう言うのであれば止めるとしましょうか。」

触れる手が離れるとそのまま立ち上がりキッチンへと歩いて行く。何処か寂しそうに去っていく背中を見るやいなや、彼女は自分の放った言葉に酷く後悔をした。会社で懸命に働く法正が唯一甘えられる憩いの場は此処しかないのだ、それを否定してしまえば彼の居場所がなくなってしまう。人が苦手な彼が構ってくれるだけでも幸せなのに、何という贅沢な我儘を言ってしまったのだ。

「…まっ……法正さん……!」

「………何ですか、そんな大きな声を出し……。」

怪訝そうに振り向く前にぎゅっと逞しい腰を抱いて腕をしっかりと回す。その背の窪みに顔を埋めたまま何も話す事なくただ無言を貫き通せば、法正は溜息を吐いて固定する彼女の腕を両手で掴んだ。

「嫌なら無理は禁物かと。」

「嫌じゃない………やっぱり、甘えて欲しい……です。」

目をぱちくりさせては呆然と立ち尽くす法正、表情は伺えないが今はこちらの表情を見られたくない。

「もっと甘えて下さい、ずっと側にいて下さい……。」

「………………。」

くるりと振り返ると両頬を摘み上げて横に引き伸ばす。真っ赤な顔を見られた挙句に変顔を見られて恥ずかしいのなんの。

「ほ、ほ……へ………。」

「間抜け、俺が寂しく見えたのか。」

見えた、見えましたとも。しかしそうはっきり言ってしまえば彼のプライドというものが。

「ふ、……そこまで言うのなら徹底的に甘えるとしようか。」

妖しい笑みを浮かべ頬を両手で包むと首を痛めてしまう程に顔の角度を思い切り上げる。向かい合うは目と目、真っ直ぐに射抜く瞳を逸らせずに見つめていると落ちてくるは甘ったるいキス。

「ふ………ぁ、法正……さ。」

「言ったからには気が済むまで受けていただきますよ……勿論、年を超すその時まで。」

時計を確認出来ないがテレビの会話からしておそらく残り15分位。それまで法正のスキンシップに耐えれるかどうか、腰の部分がやけに擽ったく今にも崩れてしまいそうだ。しかしそんなのお構いなしに舌を捩じ込んだり唇を噛んだりやりたい放題。

「おっと、気を失うなよ。」

腰に手が回り、がっちりと支えられる。逃げ場を失った彼女はひたすらその行為に耐え続け、テレビの10から始まったカウントダウンを頭の中で必死に数える。さすがに息が苦しい、新年迎えると同時に窒息してしまいそうだ。

「5!」

「…………は、こんな新年の迎え方も悪くないな。」

「3!」

「んっ、………も、………わた、し……っ!」

「1!」

刹那、離れる唇は弧を描いて

「愛している。」

そのまま深く口付ける。





『新年あけましておめでとうございますー!』




「………………っは、ぁ!」

「あけましておめでとうございます、貴女にとって素晴らしい年になるよう祈っていますよ。……もっとも、この悪党からはもう逃れませんが。」

満足そうに舌舐りをし、濡れた唇を指でなぞる。当の彼女は息を吸う事も忘れて放心状態だが。

「ああ、刺激的過ぎましたか。」

「………こ……今年も、宜しくお願いします………。」

涙に目尻を浮かべながらも、何とか微笑んで彼の言葉に答える。法正は頷くとそっと頭を撫でて抱き締めた。




(あの……押し倒す意味が分かりません…!)

(甘えろと言ったから甘えてるまで。この俺を満足させる事が出来るのは、貴女だけですから……ね)