幸福は手の届く範囲

「法正さん、饅頭お一つ如何ですか?」

ななしが小走りでやって来ればその手に持つのは茶色の饅頭。昼も過ぎて丁度小腹が空く頃だ、二人で一緒に食べる事にした。

「貴女は本当に甘い物が好きですね。」

「はい、甘い物を食べている時が一番の幸せです。特に仕事終わりにこういうのが最高ですね。」

二つに割って口の中に投げ込む。餡が程良く舌の上で溶けて甘い。隣を見れば幸福をじっくりと味わう様に笑みを浮かべるななし。そんなほっこりした姿についからかいたくなるのが法正だ。

「ですが、あんまり食べると太りますよ?」

悪戯に肘で軽く脇腹を突けば捩れる身体。頬を膨らませ、何するんですかと突き返す。

「その分動いているんですから大丈夫なんです。疲れた時には甘い物が良いんですよ?法正さんも疲労を感じた時は是非とも、きっと幸せを感じるはずです。」

「幸せ、ねぇ……。」

ななしは一緒に持ってきた茶を湯呑みに淹れて法正に渡す。それを受け取り一口、確かにこれの相性は抜群だ。

「…確かに悪くはない話ですが、俺の幸せは別の形であります。」

「別の形と言いますと…。」

半ば楽しむような目で彼女を見れば、こてんと首を傾げる。

「何だと思います?」

「法正さんが幸福と感じる時……そうですね、鬱憤晴らしにその布で引っ叩いたりするとかですか?」

「案外間違ってはいませんよ…。」

そうですか?と屈託の無い笑顔だが、実際そんな事ではない。幾つか答えを聞いても当てはまらない。何とも焦れったい答えに痺れを切らした法正はぐっと距離を縮める。

「ほ、法正さん…?」

「今から答えを教えてあげますよ、ですので目を伏せて下さい。」

戸惑いながらもそっと目を伏せるななし、そして法正はそのまま深い口付けを施す。突然の事に思わず身体が驚くが、離れない様に軽く頭を抑える。
饅頭の甘みが再び口の中で広がっていく。それをじっくりと堪能すれば酸素を求め、互いの唇は離れていく。

「……!?」

「そういう事ですが。」

顔を真っ赤にして唇を押えるななし。だからとは言え、決して睨む事も怒る事もして来ない。

「もし嫌であったのなら、俺を突き飛ばしてとっくに逃げている筈です………そうでしょう?」

「もしかして、法正さんの幸せって……。」

「ななしといる時がその時ですが。」

頬を染めて俯く姿を見て、法正は残りの饅頭を満足そうに放り込んだ。


(だからこそそんな甘い物には負けたくない)