賈クとハロウィン

「賈クさん〜!ちょっと来てもらえますか!」

「んー?どうかしたのか。」

リビングからゆっくりと歩み寄る賈クは、キッチンにいるななしの姿を見るなり顎を擦った。

「ははあ、こりゃあ随分と腕によりをかけたな。」

「えへへ、カボチャを用いた料理をいくつか作ったんですけど、それぞれ味を見てもらいたくて。」

「俺はてっきり全部出来てからサプライズで見せるものかと思ったんだが。」

「そ、そうなんですけど……家に一緒にいますし、賈クさんもキッチンに寄る事もあるし、それならいっそ大丈夫かなぁって。」

「あははあ、それもそうか。じゃあ早速。」

皿の上に乗っかるグラタンの欠片を一口放り込んで咀嚼。

「ど、どうですか。美味しくなかったら正直に言ってくださいね。」

「んー……正直にって言われても、言う事無いんだが。言えば完璧だ、味付けも焼き加減も、申し分ない。」

「ほ、本当ですか!良かったぁ……。じゃあ、こっちの料理も……。」

差し出される料理を一通り試食し、どれも問題ないと舌鼓を打つ賈ク。

「いやはや、あんたがこんなに料理が上手いとは思わなかった。」

「わ、私だってやる時はやりますよ!確かに普段は簡単な物しか作らないですけど……。」

「冗談だ冗談。普段の料理も十分すぎるくらいだ。それに俺には出来ない事……頼れるね。」

「なんだか、照れくさいです……いつもは褒め言葉なんて聞けませんし。」

「じゃあこれからは沢山褒めるとしようかな。」

「んー、それはそれで違うような……。きっと貴重だからこそ嬉しさも増すんだと思います。それに、私から見れば賈クさんは頭が良くて大人で、完璧な人です。私なんて何の取り柄もないんですから。」

黙りこんでしまった賈クに首を傾げていると、背後からオーブンのベルが鳴り響いた。どうやら次の料理が出来上がったようだ。

「あ、こっちの料理も出来たみたいです!冷めてからまた試食を………。」

と、オーブンの方に振り返った矢先、

「なぁ、ななし。」

耳元で低く囁かれる賈クの声に、ビクリと肩を震わせるななし。持っていたオーブンミトンを落としてしまったが、拾うよりも先に彼の手がそれを阻んだ。

「え、あ、賈ク、さん?」

動こうにも背後にしっかり密着され、彼の纏う爽やかな香水が徐に鼻を擽る。瞬きすら忘れてしまうような緊迫した雰囲気の中、賈クが口を開いた。

「俺に対してそう思ってくれるのは素直に嬉しい。だけど、あんたは、自分が思っている以上にイイ女だって事、忘れるなよ。」

「………あ…!?」

彼の滑らせる指先で彼女の頬に紅を作り出す。いつになく真剣な眼差しを向けられて、どうしていいか分からずただ声を押し殺していると、

「………なんてね。」

床に落ちたオーブンミトンを拾い、悪戯っぽく笑みを浮かべる賈ク。

「ま、自覚してない位が丁度いいさ。自意識過剰な女は寧ろ苦手でね。」

「あ、あの………えっと………。」

「ほら、料理が出来上がったみたいだ。味見するから、取り出した取り出した。」

オーブンミトンを渡されて、漸く現実に引き戻されたななしは、顔を真っ赤にして押し黙ってしまった。








「さ、食べましょうか!」

「あははあ、改めて見ると豪勢だね。食べきれるかどうか。」

「安心してください、残ったら私が食べますよ。」

「なるほど、大食い、ね。」

「もう!そんな取り柄要りませんったら!」

ケラケラと笑う賈クと、そんな光景を見て何処か安堵の色を浮かべるななし。

「さっきの……嬉しかったです。」

「ん?ああ、あれ。もちろん本心だとも。今まででにないからこそ、余計にそう思える。」

「はい……なので、こんな私ですけど、これからもよろしくお願いします。」

柔らかく笑んで頭を下げれば、照れ隠しなのか顎に手を当てて目線を斜め上に向ける賈ク。

「……そういえば、あんたに言ってなかった事があった。」

「え?」

トリック・オア・トリート。フォークを軽く振ってそう呟く。

「……………あ、ああ!そうですよね、ハロウィンだから………って私、何も用意してない……!」

「ははあ、やっぱりね。だから敢えて今言ったんだ。

さーて、イタズラは何がいいかねえ……。」

項垂れる彼女を見ながら、嬉しそうに笑みを浮かべてグラスに口付ける。

しかし何か思いついたように勢い良く顔を上げて、

「ま、待ってください!トリック・オア・トリートを正確に言えばTreat me or I’ll trick you.【私をもてなしなさい。でなければ、あなたにいたずらしちゃうぞ】っていう本来の意味がありまして……なので、この料理で既に成立してます!」

「………ほー、どうやらきちんと勉強してるみたいだ。上手い事引っかからなかったのが残念だね。」

「危なかった……賈クさんの考えるイタズラを想像しただけで背筋が凍っちゃいますもん。」

安心したように彼女もまたグラスに口付ける。

「あっははあ、まさか。

……でも、たった今イタズラは完遂したけどね。」

「へ?」

「それ、俺の飲んだグラス。」

よくよくグラスを見ると、確かにワインの色が違う。

「……………か、間接キスっ………。いつの間にすり替えたんですか!」

「あんたが項垂れてる隙に。いやはや、こっちは上手く引っ掛かったなあ。」

賈クは満足げに口角を吊り上げた。

「………っ、今更、恥ずかしくないですよ!」

「まあね。それ以上の事をしている訳だから、間接キスなんて全然序の口か。」

「あう………っ。やっぱり賈クさんには勝てません………。」

「あははあ、結構結構!

………本当に愛おしいな、ななし。」

鋭くも慈しむような瞳を向けられ、本当に愛されているのだなと、アルコールで濡れた唇が無性に熱くなった。





(さて、物足りなさそうな顔をしているな?)

(きのせい、ですっ)