手料理

「………上手く出来ない。」

ななしは目の前の惨状にただ溜息をつく。焦げた焼き魚、形が歪な和え物、食べられる事には食べられるが進んで口に入れたいとはとても思わない。

「……とてもじゃないけど夕刻までにあの人に出せない……。」

「姫様、もう少し頑張ってみましょう。きっと出来ますよ。」

女中達に手助けをしてもらいながら、もう一度作ろうと試みる。手には幾つか切り傷を作っているがそんな事は気にしていられない。

「そうだよね、めげている場合じゃないわ。私から皆に無理を言ったし、最後まで頑張らなきゃ。」

拳を強く握って包丁を手に取る。そして時間は彼に食事を出す夕方まで過ぎた。







「……これで平気だよね。」

「大丈夫ですよ、心を込めて作ったのですからきっとお喜びになります。」

器を持つ手が震える。見た目は皆が普段作るまでの完成度まで行っているので、後は味の問題である。愛する者に手料理を食べてもらう事は思っているより緊張してしまう。扉を軽く二、三回叩くと向こう側から声がした。
失礼します、と控えめに中に入れば書物に目を通す法正。

「…ななし?」

「は、はい……。今回は私が作りました、宜しければどうぞ。」

そっと机上に食事を置くと法正は書物を置いて代わりに箸を持つ。そしてそのままななしは退室しようとそそくさ立つが、

「待ってください、俺が食べ終わるまでいてくれませんか?」

ゆるりと笑んだ顔に思わず足を止めてしまう。しかしこのままいれば味の感想を聞かなければならない、もし不味ければ不機嫌な姿を目にしてしまう。それがどうしても怖い。

「分かりました。」

しかし嫌とは言えるはずもない、それを覚悟で再び隣に座る。すると納得した法正は魚の煮付けを口に運んだ。

「………。」

彼は無言で食べ続ける。何かを言う事も無ければ表情を変えることもない。それもまた気まずく、目をあちらこちらと泳がせて食べ終わるのをひたすら待ち続けた。

終始何事もなく完食をし、箸を静かに置く。そして俯いて待つななしに目線を向けた。

「相当練習しましたか。」

「………はい。」

やはり駄目だったか、そう確信をしたななしは半ば諦めで顔を上げた。すると彼の顔は全く不機嫌な表情をしていない、むしろ嬉しそうである。夢だろうか、自分の頬を思い切り抓りたくなった。

「美味しかったですよ、貴女が思う程悪くない。もっと自信を持つべきです。」

その言葉が帰ってくるとは思わず、恥じも捨てて泣いてしまった。

「ああ、泣かないでくださいよ。俺が泣かしたみたいじゃないですか。」

「ごめんなさい、そんな事絶対に言ってくれないと思ってたので……。何の取り柄も無い私なので、諦めていたんです。それでも、そう言って頂き私は感謝の言葉もありません…。」

深々と頭を下げると髪に何かが触れるのを感じた。目線を横に向けると彼の手が間近にあり驚く。

「前々から言おうと思っていたんですが。」

え、と頭を上げると更に驚く事に法正の顔がすぐ傍にある。息がかかる位に近く、気が動転して涙はすっかり引っ込んでしまった。

「そろそろ次の段階に、進みませんか?」

「あの、どういう事ですか……。」

「ああ、これから分かりますよ。」

唇に彼の親指が触れる。

「料理が上手く行った記念日として、ね。俺からの贈り物です。」

そのまま法正はななしを押し倒し、優しく口付けた。


(これから貴女が何かを成功させる度、記念日にしましょう)

(その度にこんな事していたらとても身体が持ちません…!)