「そんなに俺の手が好きなんですか。」
ななしはよく法正の手を握る、今もまた離すことなく握り続けているのだ。
しかし法正は嫌な顔を一切する事なく握り返せば彼女は満足げに笑む。
「はい、大好きです。」
変わった人だ、と言えば手に力がこもる。
「そうですか?あなたの手は温かくて、なんて言うか……気持ちが安らぐんです。……嫌でしたか?」
「俺は平気……ああ、むしろ同意見ですよ。」
「え……。」
「なので貴女と同じ変わり者、それも悪くはないでしょう。」
彼女の手の甲に彼の唇が触れる。照れくさくなったななしは空いているもう一方の手でごまかすように頬をかいた。
「ななしの手は柔らかい。」
唇が離れて一言。確かに男から見れば女の手は滑らかで柔らかいかもしれない。故にななしも同じ事を思っていた、彼の手は骨ばっていて逞しいと。
「お互い様です。」
指を一本一本触り、静かに眺める。そしてその手をそのまま自分の胸に持っていけば、法正はその思わぬ行動に目を丸くする。
「この手で私が貴方と共に生きている事を確かめて欲しいのです。この心臓は、貴方と結ばれた時から捧げています。どうか生の鼓動を、感じてください。」
法正は静かに右手に集中すれば小さく鼓動が伝わる。若干ながら速いのは緊張しているからなのか、はたまた別の感情か。
「……。」
彼はゆっくり深呼吸をし、その手ごと引っ張り己の胸に抱き寄せる。
「法正様…?」
「なら俺のも感じてください。」
ななしは目を閉じて手越しに耳をすませば彼の心臓が規則正しく動くのを間近に感じる。それだけで凄く安心感を得る、そうしみじみ思っていると
「ななし。」
名前を呼ばれたので顔だけ上げると訳も分からず頬を引っ張られる。
「な、なにほふるのへ……。」
「ふ、間抜け面。」
折角のいい雰囲気もこれの所為でぶち壊しだ。不機嫌な顔をするも全く効果はない、ますます彼は面白がる。
「…だからこそ、貴女でよかったですよ。」
「………?」
「ああ失礼、独り言です。」
訴える目に仕方無く摘む左手を離すが、右手は暫く離さないでいた法正だった。
(貴女の手は俺を正しい道へ連れて行く)