「…………。」
最近の法正は周囲の人間とあまり話す事がない。報復は徹底にする、その性格さ故に悪党という名がまかり通り、人々は忌み嫌い彼に近づこうとしない。それでも何食わぬ顔で生きている彼とは前から仲は良かったななしだが。
「ああ、忙しいので近付かないで頂けませんか。」
どんなに話し掛けようとしてもその一点張り。避けているのはななしだけではないことは分かっている、誰にでもそうだ。しかし、彼女にだけに言動が一層厳しいのは気のせいだろうか。
仲は良かっただけにその言葉は刺の様に突き刺さって辛い。この刺は取る事は出来ないのだろうか、彼女は切実に思い悩んでいた。
今日は法正が普段居座る場所に赴いていた。早く来た為か彼の姿は見えない。静かに座って外の景色を何も思う事なく空虚な瞳で眺めている。風に揺れる木の葉も少し肌寒い温度も感じる事なく。
「どうして貴女はまだ俺に構うんです。」
しかしその声だけは敏感に反応した。後ろを振り返れば彼は不機嫌な顔を向けている。
ななしは無謀ながらも笑って良かったら座りませんかと言えば、彼は表情を変える事なくゆっくり歩み寄る。警戒はまだしている、空気が張り詰めているのが身に伝わった。
「…そのしつこさ、俺を超え生涯においてななしだけでしょうね。」
皮肉げに笑いつつ隣に座れば、ななしは憂いを帯びた瞳で彼に尋ねる。
「どうして距離を置かれているのですか。」
「どうもこうも、皆が俺を嫌いだからです。……ああ、別に嫌われるのは構いませんよ、そんなのはとうに慣れている事なので。
あえて離れているのに、それなのに、貴女はうんざりする程に俺に構う……。」
「………どうしても私は嫌いになれません。貴方に近付いて酷い言葉で突き返されても、それでも手を伸ばしたくなるんです。」
細められる目、疑いの目、心の奥底を覗く目。
「私は蔑まれても構いません。傷付く事は恐れませんから。
だから、敢えて私をも遠ざけようとしないで下さい。」
察したかのように身体が一瞬動くのを見逃さなかった。それでも表情は崩さない。
「ああ、俺のこんな性分の所為で犠牲になるのが分からないんですか。周りは貴女をも避け始めているのは知っている。
……貴女が嫌いだ、だからいい加減俺を嫌いになってください。」
その言葉に衝動的に腕を掴まずにはいられなかった。怒りなのか悲しみなのか、兎に角混ざり合った複雑な気持ちをぶつける。
「独りになろうとしないで……だから辛いんですよ!貴方が変わってしまうのが、気持ちが遠ざかってしまうのが、周りから嫌われるより法正さんが離れていくのがよっぽど苦しいんです!
分かっていないのは貴方の方ですよ……。好きなのに、愛しているってようやく気付いたのに!」
法正はその後何も言葉にすることなく冷たい瞳を下ろして立ち去って行った。彼は己が嫌われることでななしを守ろうとしている事は分かる。しかしそんな事彼女は望まない、むしろ絶望に等しい。
「俺はななしを。」
法正はその姿をななしに見せる事は滅多になくなった。それ故に周りの人も普通に接するようになっているが、気持ちは決して晴れることはない。
息をする為の呼吸を下さい、彼の息を。
(好きになってしまうからこそ傍に居たくない)