「あ、材料が足りない。」
ななしは夕食の材料を買いに街に足を運ぶ。人は普段と変わらず賑わっており、風に乗って料理のいい匂いが香ってくる。思わずそちらに足を向けてしまいそうになるのを堪え、目的の店に行く。
「…あ。」
そこで見た事のある緑の服を見つけた。後ろから背中を人差し指で突けば怪訝そうに振り返る彼。
「法正さん、何を探しているんですか?」
「ああ、貴女でしたか。いえ、長らく使用していた布が綻びてしまったので代わりの物を探しているんですよ。」
法正は懐からその布を取り出しじっと見つめる。
しかしここは食材を売る店だ。彼は間違って来てしまったのだろうか。
「あの、ここは食材しか売っていませんよ…?」
「知っていますよ、言わば寄り道みたいなものです。」
そうでしたか、と納得しにっこり微笑む。
「そういう貴女は何をお探しに。」
「あ、私は今晩の食材を探しに来てます。」
「食材……成る程、楽しみに待ってますよ。」
そう言い残し、彼はふらりと人混みに紛れていく。最後の言葉の意味は一体どういう事か、どうしても聞きたくなりつい買い出しも忘れて同じ様に人混みに流れていく。
「法正さん………駄目だ…いない。」
掻き分けて探すがその後ろ姿はなく、諦めて伸ばす手を戻そうとしたその時。
「……あ、」
細い腕は何処からか出現した手に呆気無く取られる。突然の事で目を一瞬見開くが構う事なくそのまま引きこまれていく。辿り着いた先には呆れた彼の姿。
「何しているんですか、俺なんかをわざわざ追っかけて。」
腕を引いたのは彼で良かったと一瞬だけ安堵し、少々照れくさそうに向き合う。
「その…最後の言葉の意味は…。」
ああ、と思い出したかのように頷く。
「今日から貴女が俺の夕飯作るんですよ。」
彼はさらりととんでもない事を言った。そんな話は寝耳に水だ、いつ決まった事なのだろうか。ぐるりと思考を巡らせるがやはり誰からもそんな話は聞いていない。
「だ、誰が決めた事なのですか。」
「俺が頼みました、すんなりと許可してくれましたよ…皆さん。」
どこか愉しそうに口角を上げる。それより彼が直々に頼んだ事に驚きだった。
「私の料理でいいんですか!?まだまだ未熟で上手く出来ないんですよ……もしお口に合わなかったら、私は…。」
語尾が次第に小さくなる、しかし法正は全く気にすることなくななしの手に触れる。
「一度だけ食べた事があるんですが、その時は誰よりもいいと思った。
だからこそ…頼みますよ。」
普段見せないような表情に思わず良い意味でくらりと目眩がした。そこまで懇願されてしまったら断る訳にもいかない、彼女は無言で力強く頷いた。
「…ああ、いっそ俺の妻になればいいんですがね。そう都合のいい話は中々ないでしょう。」
「ほ、法正さん?」
「こっちの話ですよ、お気になさらず。」
とんでもない話が聞こえた気がしたが、動揺してしまうのでこれ以上は聞かなかった。
帰る場所は同じ、その後二人はお互いの買い物に付き合って仲睦まじく帰ったのだった。
(まるで夫婦のようです)
(ああ、何れは現実になればいい)