「あの………。」
「何ですか。」
「もう大丈夫ですので、降ろして頂けませんか…?」
「どう見ても大丈夫には見えませんが。」
先程不覚にも躓いてしまい、足を擦りむいてしまった。そこを偶然通りかかった法正が、手当てをする為に共に部屋へ移動しているのだったが。
「だって、姫様抱っこ…。」
「ああ、これがお気に召さなくて…。」
気に入る気に入らない以前の問題である、周りからの視線がとてつもなく集まって、羞恥で死にそうだ。
しかし、それを知ってか知らぬか、法正は平然と装い前へと歩く。
「いえ、恥ずかしいのです……。」
「恥じる必要なんてありませんよ。我々の関係を皆存じてますし、ね。」
更にそんな事を耳元で言うものだからななしにとってはたまったものではない。
「法正様の意地悪……。」
「何とでも。」
法正相手だと呆気無く言い返されてしまい何も言えなくなる、しかしそんなやりとりも決して嫌ではない。
不思議と彼への想いは募っていくばかりだ。
部屋に着くとそのまま静かに降ろされ、彼は隅から小さな箱を取り出した。
「足を出してください。」
言われるがまま足を見せると、法正はてきぱきと傷薬と布を施す。ひたすら無言で行う事に少し歯痒く、気まずく感じた。何もする事なく彼を見つめていると視線に気が付いたのか顔を上げてばちっと目が合う。
誤魔化すようにきょろきょろとすればまた目線を足に向けて、心の中でほっと一息。
「これで平気でしょう。ですが、暫くは無理に動かさない様に……。」
無事に手当が終わって互いに安堵の表情。
「ありがとうございます、この恩は…。」
必ず返します、と言い終わる前に彼の顔が近づいてそのまま口付けられる。何が起こったのか分からない彼女は抵抗も出来ず、ただ目を見張った。
不意に口内に温かいものが侵入してはっと我に返れば、そのままの状態で押し倒される。
挙句にがっちりと組み敷かれ、逃げる事すら叶わなくなった。
「っは……法正…様!?」
「…ふ、恩は今ここで返して貰います……ああ、足は動かせなくとも、それ以外は動きますよね…?」
「待って、受け入れる準備が……!」
しかし彼は聞く耳持たず、再びななしの唇を奪う。連続的な行為に当然息が続かず、若干の酸欠状態で涙がじんわりと視界が滲む。
そんな姿が良いのか、ぎりぎりな所で唇を離せば口角を上げて満足そうに笑む法正。
「俺といる時くらいは字で呼べ。」
「………っ。」
空気を取り込んで一旦落ち着こうとするが、それを阻む程の快楽が襲った。
「ひぁ…!?」
「言えば……すぐ楽にしてやる。」
頭がちかちかと点滅を繰り返し、あっという間に理性を失いそうになる。いい所まで行けば寸前で止まるという何とも彼らしい行いで実にもどかしい。
その名を言ってしまえば楽になるかもしれないが、たまには耐えて彼の思うがままにさせないという悪戯心もまた働く。
果たして何処まで耐えられるのか、そんな顔で法正はゆっくり堪能するように見下ろす。
「………、……。」
「とは言え、声まで出さないのは頂けない……。」
そう言い彼は彼女にとって最も快楽な場所を的確に捉える。身体は実に素直だ、いとも簡単に肢体を浮かせて甘ったるい声も漏れてしまう。
「こう……っ……!」
「…惜しいな。」
名を呼びかけてあと一歩の所で押さえ込んだ。
だが、徐々に削られていく理性はあと少しで崩壊するだろう。
「ひぅ……も、駄目………!」
「ほら……無理は禁物ですよ…貴女だって、既にお望みの筈では?」
「そんな………の……っ。」
分かってるくせに、彼は態とらしく人差し指を口に押し付けゆっくりと笑う。そんな姿さえ次第には愛おしく、自分でも知らぬ間に支配されている。
彼に捕まったら最後、決して逃げることなど出来ない。
「ななしが欲しくて堪らない……。」
止めに耳元で囁くその低い声が脳内を燻ればそれまで。
結局は悪戯心なんて通用しない、そう気付いた時には彼を求めずに入られなかった。自然に動いてしまう足にかかる痛みもすっかり忘れてしまう程に。
「…孝直、孝直様……っ、」
「それだけ、か?」
本当に彼は何処までも意地悪だ。
「……、私も……貴方が欲しいです……!どうか……この身体を満たしてください……っ、」
言ってしまった、と後悔がぐるりと渦巻くがそんな事は一瞬の思考に過ぎない。
涙目でそう訴える姿は、法正にとっても理性を外す行為でしかなかった。
「やっと言えたか……安心しろ…俺しか見えない程たっぷりと味わわせてやる……。」
開けた服装を更に開けさせ、彼は待ってたと言わんばかりに己の身体を重ねた。
「…………。」
「ああ、気絶したか……。」
身体が付いて行かなかった為か、ななしは途中で視界が真っ白になりそのまま倒れこんでしまった。
暗い部屋の中、目を細めて微かに見えるその姿を見つめると、自分の下で必死に応える彼女を思い出す。それが法正にとって尚一層満たされる。
「だが、それも愛おしいな。」
そんな余韻に浸りつつ法正は同じく眠りに就いた。
(それでもまだ足りない)