「報復が報復招く正しい世の中。」
一つの骸が生まれる。
「報恩が報恩呼ぶ美しい世の中。」
一つの命が救われる。
「これこそ俺の信条なんですよ。」
女は男を強く抱いて。
「誰にも止めることは出来ない。」
男は女に優しく接吻。
「貴女もきっと分かるはずです。」
男女は全てを委ねる。
「ええ、悪党なる俺の全てが…。」
「法正様が……また、私の為に殺めてしまった……。」
たった今骸と化した女が目の前で転がっている。鮮やかなる血は床に弓が撓った様な形を描きこびり付いている。
「俺が勝手に望んだ事です、貴女は何も考えなくてもいい。」
動くこと無い女を見下す様に冷たい目を向ける。そしてななしの方に視線を向ければ打って変わり感情を込めた虚ろな目。
「でも………私はそんな器用ではありません。貴方の手は私の所為でどんどん赤く染まっていく……。それが耐えられないのです。」
ああ、と息を吐くような返事。
「貴女もご存知の通り、俺も不器用な人間……何が一番いい選択なのか、考えた結果いつもこうなってしまう。」
返り血が付く己の手を見ては不機嫌そうに顰めた。口で器用に指先の布地を噛んで手袋を取り払い、無造作に床へ捨てる。
その手袋を拾おうとゆっくり手を伸ばせば強く制止される。その掴む腕は苛立ちなのか何なのか、感情が今ひとつ読み取れない。
「これが……報い。」
「そうだ。」
「私を生かすという報恩、私を護るという報復。
……お願いです、もう私の為に自分を壊さないで下さい。」
「以前にも言いましたが、己が決めた信条を貫くのが世の摂理。
俺に近付く女も、ななしに近付く男も気に食わない。虜にしようと媚びては身体を曝け出す姿が無性に腹立つ。
この身を許せるのはその身だけ、どいつもこいつも身勝手な奴等だ。」
布を叩きつける度に無機質に響く音。地面に触れる事で怯えて目を伏せる。
「どうすれば満たされますか…何をしたら貴方はそんな生き方をしなくて済みますか…。」
ゆらりと向けられる眼差しは冷静ながらも獲物を狙うかの如く、そう思っているといつの間にか自分の身体は天井を見仰いでいた。
目の前には切なげな彼の表情。どうしてだろう、許してはいけない事なのに。
「可哀想……。」
「この俺を憐れむんですか。」
「この身体も魂も、法正様を愛してから捧げると誓いました。
だから犠牲者が、誰もが二度と近づかない様に私を」
遠くへ閉じ込めてください、と彼の顔を両の手で包みそのまま口付けを施す。その口付けに応えるように舌を絡めれば互いの唾液が緩やかに絡み合う。
「ああ……いっそ何処か遠くへ行ってしまいたいものだ。」
「法正様となら私は……。」
身体に咲く赤と白の花は彼の愛した欲の数と時間、きっと寂しいのだろう。布で大雑把に巻き付けられた腕の痛みでさえ、愛するが故にと思う自分もまた哀しいのだろう。
はらはらと流す涙さえもう何の為か分からない。
(私と出会わなければ貴方はこんなにも苦しまなかったのに)
(この世で二人だけなら、満足だ)