誘い風呂

「法正さん、凄く機嫌がいいのかな。」

風呂場から彼の鼻歌が聞こえる、今日は何かいい事があったのだろうか。
そう考えているとふと風呂上りの服と布を出し忘れたのを思い出し、そそくさと用意をする。普段は彼が入る前に用意するのだが他の用ですっかり頭から抜けていた。
一式揃え扉の前にそっと置いて一言。

「法正さん、服など用意しておきましたので。」

「〜……ああ、ありがとうございます。」

歌を止めて礼を述べる声がやけに響く。

「今日は何かありましたか?」

「……いえ、別段なんて事ない日でしたが。」

「そうですか、いつもは鼻歌など聞かないので。」

「なんとなく、ですよ。」

では失礼します、と脱衣場の戸を開こうとした瞬間、

「待ってください。」

と、唐突に後ろの扉が開くのが分かった。このまま振り向くのは流石にまずい、しかし止まれと言われたら止まらない訳にもいかない。
黙ってそのままでいるとひたひたと水の音が近くなり、流れ込んでくる湯気で部屋の温度も高くなる。

「貴女もご一緒に。」

「ほ、本気で言ってますか…?」

背中に感じる温度がやけに熱く、感情が一気に迸る。更に耳にかかる僅かな息で腰が砕けそうだ。

「……そんなに恥じらわなくとも、どうせ一度だけの話ではありませんし。」

「………言わないでください。」

彼の言う通り混浴は一度きりではないが、彼は大人しく一緒に入るたまではないのは分かっていた。

「あの、今日は、遠慮しておきます。」

そう言いつつも身体が動かないのは、がっちりと抱き締められているから。これは終わった、と心で覚悟を決めて目を伏せる。
雫がぽたぽたと肩に落ち、ななしの衣服も抱かれた事で内側まで染みていく。どちらにせよ着替えなければならなくなった。

「寝るまで不機嫌でも構いませんよ。」

「それはそれで嫌です……後が容赦無いですから。」

「よくご存知で。」

会話中に衣服が緩くなるのが分かり、直ぐ様その解く手を止める。

「せ、せめて衣服は自分で…!」

「なら早めに……待ってますよ。」

渋々その手を退けて風呂場に戻っていく。これは行かないと後が色々困る、観念すれば彼が解きかけた紐が何もせずともするりと床に落ちていく。
布は勿論巻いて中へ入る。どうせ剥ぎ取られてしまうのが目に見えているが念の為一応。

「…………。」

これが初めてではないと言え、やはり目を逸らしてしまう。目の前の彼の色っぽさに直視する事が叶わない。普段でさえくらっと来るのだ、今のこの状況はとても耐えられるものではない。

「背中、流しますよ。」

「は、はい……。」

座る様に促され、大人しく側で座る。必然的に布は取られるが背中を向けているので何とか平気だ、まだ堪えられる。
そして小さな背中を見せればそこに彼の手が触れた。するすると這う指の動きに思わず擽ったさともどかしさで変な声が出そうになった。

「……法正さん、何を…。」

「ああ、失礼。綺麗な背中でしたので。」

その手が離れ、背中にやんわり布が当たる。
先の事以来何もしてこなくなったので安心して暫く目を閉じているとふとその行為が止まった。

「…あの、どうかしましたか?」

「……。」

顔だけを後ろに向けると視線を僅かに下に向け何かを考えている法正の姿。何かあったのだろうかと口を開けかけたその時、

「………あっ、」

「つい見惚れて集中が出来なくてな……。」

腕を掴まれてぐるりと半周、前を向く形になる。当然布は巻いていないので何もかも露わだ。驚きと恥ずかしさで顔を真っ赤にすれば彼はくつくつと喉を鳴らした。

「今日位は何もしないでおこうと思っていましたが…。貴女だと…言いたい事、分かりますよね。」

「でも、待って、お風呂でそれは……!」

駄目、と言って素直に聞く訳がなかった。彼は軽く首筋を甘噛みし、生温かい舌をするりと這わせれば、堪えていた声はあっという間に漏れ出した。

「ぁ……っ、」

「ああ、我慢はしなくて結構……その声をもっと俺に聞かせろ。」

しかし自分ばかりそんな思いをするのが嫌で、ついふて腐れる。

「…法正さんばかり…狡いです。」

「なら、どんな事がご所望なんだ…。」

彼は怪訝そうに顔を覗きこむ。

「たまには……私からもしたいです。」

そう言って胸板に両手を置いて口付ける。彼女からする事は滅多にないので不慣れなやり方に彼は思わず苦笑した。しかしそれもまた愛おしい、自分の為に精一杯尽くしてるのだから嫌な気持ちはしない。
やがて室内の温度が二人の密着で高いのか、すぐに息が上がり繋がったぷつりと糸は切れて名残惜しそうに離れる。

「……はぁ、」

「……何回かしていれば、上手くはなるだろう。」

「……やっぱ駄目、ですか。」

その答えとしてこちらから口付けをすれば頬を染めて押し黙ってしまう。

「気にすることはない…今回は、俺が貴女をたっぷりと喜ばせますよ。」

そしてななしが完全に逆上せるまで法正は風呂場から出さなかったのだった。



(次も楽しみにしてますよ)

(くたくたです…)