「壁へと追い詰められる女性の気持ちってどんな感じなのでしょう。」
ななしが突然訳の分からない事を呟く。法正は怪訝そうに視線を向ければ彼女もそれに合わせる。
「……何を言ってるんですか。」
「あ、いえ…友人が恋仲の男性にそういう事をされたらしく…胸が高鳴ったり、緊張したり……でも、そう言った言葉では理解出来ませんでした。
何せ私はそういう事をされたことも無いし、お恥ずかしながら男性とお付き合いもした事もないですし…。
…法正さんは、どちらかと言えば…やる側ですよね。どんな気持ちですか?」
正直首を傾げてこちらに言われても困る。
「さぁ……俺もした事はないんで、分かりかねます。」
そう言えば彼女は少しばかり目を丸くした。
「法正さんなら、やってそうな気がしたんですが……。」
「生憎そういう女性には巡り逢えませんでしたよ。何人か恋の様な関係を持った事はありますが……まぁ…どうも、俺は最後まで好きにはなれなくてな。」
「そうでしたか……。でも、貴方ならきっといい人を見つけられると思います。私が言うんですから間違いないです!頭脳明晰で格好良いんですから。」
彼女はにこにこ笑っているが、彼はそうでもなかった。むしろどうして気付いてくれないのか、その鈍感さが無性に頭を悩ませた。
「どうして貴女という人は……。」
「え、どうかしましたか?」
いえ、と何も無い様に溜息混じりで視線を外した。しかし何を思ってか彼女は引き下がること無く、法正の手を力強く握る。
「何かあるなら、私が力になります。」
「お気になさらず…。」
「いえ、何でも仰って下さい!」
「……ああ、何でも…。」
その言葉をきっかけにずっと歯止めをかけていた何かが外れる音がした。
法正はななしを見るなりその腕を掴んでそのまま壁まで追い詰める。何事かと驚きつつも流される様に彼女は後ろへと後退する。
「え、ほ、法正さん?どうかしたんですか?」
「………何でも…と、言うのであれば…そうですね。」
とん、と彼女の背中と壁がくっつく。右手で壁に手を付き、左手でななしの頬に触れれば現状を理解したのか顔を真っ赤にした。開けた胸元が気になるのか、視線をあっちこっち向ける。
「これって……もしかして。」
「貴女の知りたがっていた事、でしょう。…どうだ、気分は。」
「あ……えっと、その……。」
「ああ、やはり俺では嫌でしたか。」
くぐもっていた声を翻す様にそんな事は無い、と首を横に必死に振る。
「む、むしろ嬉しいのですが、これは法正さんが望んでいた事では……。」
「では、これから俺の願い受けてもらえますか。嫌なら拒んで下さい。」
それは、その言いかけた唇を塞げば今度は大いに目を見張り驚く姿。肩が上がって石のように固まってしまった。
離れる時も味わう様に舌で潤った唇を舐めればとろんとした表情。
「あ………………。」
「……好いた女は格段違う。ますます欲しくなりましたよ、ななしが。」
がっくりと膝から崩れるのをしっかり受け止める。不敵な笑みを浮かべればそんな表情を彼女は瞳に映す。
「私……で、いいんですか…?」
「貴女が忌避しなければ、ですが。」
彼女は嬉しそうに少しだけ笑った。
(案外、悪くないな…壁へと追い詰める行為も。独占したい衝動に駆られる)
(……胸の高鳴り、では済みませんでした)