悪党の幸福

自分に子が出来るまでは、軽くうっとおしい位にしか思っていなかった。


「………ちちうえ、ちちうえ。」

「………やれやれ。」

後ろにぴたりと付いて歩くは俺の子、女とは言えあまりにも元気過ぎて呆れてしまう。むしろその元気を分けてもらいたい。

「だっこして。」

「分かったから、裾を引っ張るな…歩きづらいだろう。」

その軽い身体を持ち上げれば、大いに喜んだ。
だが、暫く歩いているとまた後ろに付いたのは男児。

「ちちうえー僕もだっこしてほしい。」

「だめ!わたしがさきなのー!!」

「おねえちゃんばっかずるい!!」

「あのな……。」

さすがに二人も担ぐのは無理がある。法正は耳元と足元で叫ぶ二人の声をなんとか堪えながらも立ち往生した。
すると向こうの角から姿を現したのはななし。

「おい。」

「孝直……?ふふ、随分と人気ですね。」

「ああ、笑ってないでどうにかしてくれませんか。子供の扱いに慣れてないのは貴女もご存知でしょう……。」

ごめんなさい、と微笑み男児を己の元へ呼び寄せ抱き抱えた。

「本当に二人はよく喧嘩するのね。」

「全く、俺もお手上げですよ…特に泣かれるのが一番困る。」

「…やっぱり子供は苦手ですか?」

「……どちらかといえば好きではありませんでしたよ。とはいえ、貴女が子を宿した時には正直に嬉しかったですがね。そういうものでしょう、親と言うのは、なった時に初めて分かるものばかりだ…こんな悪党でも、ね。」

ぺたり、と小さな手が法正の頬に触れ、視線を向ければ満面の笑み。恩も報復もまだ知らぬ無垢なる丸い瞳。
いずれ自分に似てくるのだろうか、それはそれで悪くはないがななしに告げれば何と言うだろう。

「私も嬉しかったです。貴方が私を心から愛してくれ、二人の子を授かり、こうして幸せな日を送れているのだから。
……早く戦の無い世の中になれば、この子らは巻き込まれなくて済む…。いつかそんな未来が来る事望んでます。」

俺は、恐らく死ぬその時までななしを手放す事はないのであろう。



「あ、じょしょおにーちゃん!!」

「お兄ちゃん?」

そんな事を考えていると、あっと指をさした。後ろを振り返るとそこには徐庶がいた。
子供達は降りたいと足をばたつかせ、互いに下ろせば真っ先に彼の元へ駆けて行く。

「やぁ、今日も元気だね。何して遊ぼうか。」

「おにごっこー!!」

「かくれんぼー!!」

二人の楽しそうなはしゃぎに徐庶もふと笑みを零した。

「徐庶様…いつもごめんなさい。」

「ああ、気にしないでくれ。俺も執務ばかりじゃ…気分転換に丁度いいんだ。」



「ついでに俺も混ぜてよー!」

「ば、馬岱様…!」

さりげなく子供達に紛れ込むのは馬の手入れを終えた馬岱。ななしも徐庶もそれには驚いて目を丸くした。

「ばたいだー!いっしょに遊ぼ!!」

そんな騒いでる後ろで仏頂面で立ち尽くす法正。興味ない、という様な顔をしていてもやはり分かりやすい。

「孝直…。」

輪から抜け出し話しかければ一瞬だけ表情を変えたがすぐに戻す。

「俺に構わず皆さんで楽しんで下さい。」

「子供達は二人に任せるから……ね?」

そのまま彼の手を引いて別室に入る。すると法正はそっと彼女の頬に手を添え、ゆっくり顔を近づけた。
暗黙の了解でそっと目を閉じれば温かい感触が当たる。

「………ああいう顔してもばれてしまいますよ。」

「…でしょうね、俺らしくない。」

「でも、そんな貴方も大好きです。」

ぎゅっと抱き締めれば彼もまた背に手を回す。
外で楽しそうに遊ぶ皆の声を聞きながら二人は心底幸福を感じた。



(子供達といる孝直は凄く幸せそうです)