「きゃっ!」
そんな悲鳴と同時に俺の身体に水が滴った。
「…………相変わらず不器用ですね。」
自分が濡れる事は度々起きている。ななしは定期的に茶を運んでくるのだが、殆どの確率で足を躓きその勢いで飛んだ茶を被る。
怒る事なく冷静に対処する事に対しつくづく慣れとは恐ろしい物だと実感した。
どうせなら事前に避けておいてもいいのだが、それはそれで複雑な表情をしそうなので止めておくか。
「も、申し訳ありません…!今拭く物を持ってきますので……。」
「いつも起きるのでこちらで幾つか布を用意したので結構ですよ。とりあえずそこで大人しくしてください。」
下手に動いて二次災害を引き起こされても困る。とりあえず側に座らせた法正は布を取り出し身体を拭いた。
「………いつも迷惑かけてすみません……。」
「ああ、お気になさらず……案外なれましたからね。」
「あの、他の人に変わった方がこんな思いしなくて済むかと。」
その言葉でじろりとななしを見る。それに反応した彼女は一瞬体を強張らせた。
「俺は、貴女で良いんですが。」
「ええ、でも……。」
ひたひたと濡れた布を棚の上に置いて彼女の側まで歩み寄る。
「世の中完璧な人間なんていない、何か必ず欠けてこそ人だ。…貴女は誰が見ても立派なお転婆娘だが、そんな所も好きですよ。」
「す、好き…!?こんな性格が好きだなんて法正さん変わってます…。」
変わり者はどちらだ、でこに軽く指を弾く。
「貴女には言われたくありませんよ。兎に角、誰かに変わったら許さないからな。」
きゅっと唇を結んで目を逸らす。しかし思ってもいない事を口にした。
「私も、法正さんのそういう性格…嫌いじゃありません。」
「成程……やはり変わり者は貴女の方ですね。」
そんな事ないです、と懸命に否定するななし。悪党であるこの身を好きになるなんてそっちの方が余程変わっている。
「普通嫌う所ですよね、周りを見ればそれが良く分かるかと。」
「周りは周り、私は私です。」
予想通りの答えについ笑みを零した。
「なら俺も俺だ。」
そっと己の胸に抱き寄せれば、ぱちっと目を開き大層驚いた表情。普段そんな事をしないから尚更であろう。
もぞもぞ動く身体を抑え逃がさないようにし、首元に唇を這わせた。
「え、何ですか擽ったいです…!」
「擽ったい、か。…ならこれから気持ちよくしてあげましょうか……?」
舌を出し舐めれば今度は身体を震わせた。耳まで赤くし吐息が漏れる。
「やめ……!なんか変な気分……。」
「これが、いいんでしょう…?」
背中に回る腕に力が入り、より互いの身体が密着する。
女性を抱くのは初めてではないが、唯一最後まで辿り着きたいと思う女性が彼女だった。己の中で芽生える独占欲といい、何かと燻る。
これ位お転婆で鈍感の方が純粋であり、不思議と愛しさも湧いた。
「あ…………。」
耳にいちいち響くその声すらすんなり受け入れた。
「普段の行いの倍返しという事で……その分だけたっぷり愛されてくれますか。」
「え……あの……私、そういった経験無いですよ…?それに、また何かやらかしそうで……。」
彼にとってはむしろ嬉しい話だ。好きな女を抱くのが自分が初めてなら何をやらかそうが気にしないのだが。
「……まぁ強いて言うなら、先程から背中に痛みがあると申しておきましょうか。」
緊張しているのか無意識に爪を立て衣服さえ深く食い込んでいた。それに気付いたななしは吃驚し、勢い良く離れた所為でひっくり返った。
「私も、痛い………。」
「やれやれ、そこまで動転しなくても。」
「やっぱり私、この性格嫌です……。」
嘆くその身体を起こして乱れた髪を梳かす。指をすんなり通すさらさらな黒髪に誘われ思わず口元に髪を手繰り寄せた。
「貴女が生涯好きにならずとも、俺が生涯好きでいますから。」
「………初めての事ばかりで、恥ずかしいです。」
そう言いつつ微笑むななしを満足気に再び抱き寄せた。
(まさか寝てる時に踏まれるとは思ってもいませんでしたよ)
(本当にごめんなさい…!)