夜に這う者
「もう……許して、くだ……。」
「許しを希う位なら………あいつに話し掛けるのは止めろ。」
精神は悲鳴を上げても身体は快楽に震え、最早自分の意志ではどうにか出来たものではない。法正の攻めは一向に止むことなく、更に激化していく。
「ああ……それでも身体は素直だな、それでいい。」
霞んでいく視界の中、彼は悪なる笑みを浮かべ己の欲を放った。
「もう許さない、今度は私から彼に仕返ししに行く。」
「そ、そう…。」
腰を擦り、じくじくと広がる痛みに耐えながら彼女は姉にそう言った。
「あの後ある意味地獄でしたから……いつ子が出来てもおかしくないくらいに……ああ。」
頭を抱えてそのまま小さく丸まった。例え愛する者でも限度と言うものがあるだろうに。
「徐庶さんと話してただけなのに……酷いです。」
「まぁ……それは男のヤキモチというものよ、それだけ彼はななしが大切なのね。
…でも仕返しも程々に、あの方は貴女に対しては徹底的にやると思うから。」
「姉様………はい。」
小さく頷きそのまま暫く目を閉じた。
夕方になると周りも宴の支度で騒がしくなる。姉もまた手伝いに駆り出され、ななしはたった一人で部屋にこもる形となった。疼く身体は昨日の行為の所為なのか、何とか昂る気持ちを抑えながら横たわる。
「…………こうなったら、夜這いしてやる。」
ぽつりとその一言は部屋に溶け込み、ゆっくりと体勢を起こす。
彼の就寝は意外と早く、頑張って起きれば成功できる確率はある。彼からする事が多いのでこちら側から仕掛ければ大層驚くに違いない。
「………早く夜にならないかな…。」
会いたい気持ちも何処かで秘めながら夜を静かに待った。
そして彼が寝る時間帯になり、計画は遂に実行される。行く前に予め入れておいた茶を一気に飲み干し彼の部屋へと赴く。
案の定法正は寝息を立て熟睡していた。起こさぬ様足音を殺し、側まで近付く。
「…………。」
整った顔は垂れた髪で少し隠され、唇から僅かに息の漏れる音がする。
すると途端に鼓動が早くなる。落ち着けと自分に言い聞かせ緊張を解こうとするが、一向に鼓動は落ち着かず寧ろ身体に熱を帯び始める。
「…………(どうなってるの)。」
異常な程に息が荒く、視界が霞んでくる。さっきまでは何事も無かったのに突然どうしたと言うのだ。そう思っていると知らず知らずこの手は彼の身体に触れようとしていた。
「…………(駄目)!」
その手は大きな手に掴まれた。
「……どうやら効いてるみたいだな。」
「………えっ、…。」
閉じていた目をぱっと開き、まるでずっと起きていたかの様に不敵な笑みを浮かべた。何が一体どうなっている、そんな顔をしていると上半身を起こし乱れた髪を軽く整えた。
「茶に薬を仕込んだんですよ。それをすんなりと飲んでくれるとはな……。」
部屋を出る前に飲んだあの茶を思い出し目を見開いた、少しばかり部屋を開けたその瞬間に忍びこむとは。
我ながら不覚である、僅かに働く思考。
「さて……そろそろ苦しいのでは?我慢せずに俺を夜這いしたら如何です。」
態とらしく耳元に顔を寄せ囁かれる度に身体が敏感に跳ねる。無意識に足を摺り寄せればそれに気づいた法正。その太腿に指を滑らせればぞくりとする背筋。
「ああ、どちらかと言えば犯されたくて仕方ないだろう……ならば昨日よりも激しい夜……過ごしませんか。」
肩を軽く押されて呆気無く倒れこむななしの身体。さらっとした長い黒髪は寝床に広がり熱を帯びた瞳はたった一人の男を映していた。
「法正、様……私、もう……。」
罠に嵌っても攻める事すら出来ない程に目の前の彼が欲しい。目を潤ませるその行為は理性を煽る物でしかない。
法正は彼女が敏感に反応する部分を這わせればいつもより甘い声を上げ身を捩らせた。
首に回る彼女の腕は存外強く彼は一気に距離を縮める形となる。
「そんなに気持ちいいのか……淫乱だな、ななし。」
「あ……そんな事…。」
長い骨張った指でばらばらと引っ掻き回せば、あまりの快感に腰が浮き弓なりに反れる。
「も……激し……っ!……おかし、くなる…っあ…!」
「随分とこの薬は効きがいいな……指だけで……。」
ふと昨日のが残っているのか指に絡まる。それをじっと見つめ、ななしの頬をなぞる様にそれを付けた。
「……っつ、ぅ……。」
「塗り替えてやる……何度でも。」
低い声で呟きそっと口付けを交わす。身体を重ねれば互いの思いが絡まり、追いつかないななしの頭はただ真っ白な世界が広がっていく。しかし、薬がよく効いている所為か休む事無く彼をひたすら求めた。
「あ……っ、もっと……ほ、し…!」
「言われなくても…貴方だけにしかあげませんよ……入りきらない程に、たっぷりくれてやる……。」
その声が普段冷静なる理性を一気にぶっ飛ばし、余裕を見せるはずだった法正も吹っ切れた。
打ち付ければ華奢な身体はその動きに合わせる。涙なのか汗なのか、彼女から流れる物を舌で掬いながら両手で頬に触れる。
「俺だけを見ろ。」
薬が切れるまで子宮に攻め寄せた白華は全てを埋め尽くした。満足そうに下腹部に触れれば彼女は少しだけ笑みを残して眠りに就く。
ふと満月の光が部屋に差し込み、丁度良く彼女の顔に当たった。
「…………。」
静かに深呼吸をし、その頬に唇を寄せて自分も眠りに就いた。
(姉様………私………)
(あら、随分と嬉しそうな顔ね。昨日は成功したのかしら)
(………)
(ふふ……やっぱりね)