看病
「………………法正、さん。」
「馬鹿は風邪を引かない…何時ぞやにそんな迷信流行ったな。」
馬鹿かどうかはさておき、風邪と一番縁が無さそうなななしが風邪を拗らせた。でこに手を当てれば熱も若干高めで、一層辛そうな顔を向ける。
「あ……法正さんの手、凄く気持ちがいい……冷たくて。」
潤んだ瞳に荒い息遣い、誘う様なその姿は普段であればとっくに襲っている。しかしそう言う訳にもいかない事は重々承知である。
「まぁ……病人に無理強いは出来ないか。」
「……けほ、何の話ですか?」
独り言です、と軽く咳払いをし先程作った粥を傍に寄せる。すると待っていたと言わんばかりに上半身を思い切り起こそうとする。
「丁度お腹が空いていたんです…!!」
「おい、急に起き上がるな。
それに、一人で食べるのはさぞや辛いでしょう……俺がゆっくりと食べさせてあげますよ。」
にたりと不敵な笑みを浮かべレンゲで柔らかい米を一掬い。思っていたよりも湯気が立ちこのまま口に入れたら火傷するのが明白である。色んな意味で食べるのに躊躇っているとそれを理解したのか、
「ああ…熱くて食べられないか。」
と、そちらの意味を取って掬った粥に軽く息をかける。
「………!!」
そんな珍しい姿を見る事など後にも先にもこの瞬間、ななしはどことなく恥ずかしくなりそっと目を逸らす。法正の吹く息が聞こえる度に何故か耳元で囁かれている感覚に陥る。風邪の所為か何事にも鈍感な筈なのにこれだけはやけに敏感だった。
それを一言変人と自分の中で片付け決めつけた、それは勿論己にだ。
「あの……自分で食べれますから。」
「それは頂けませんね、悪化したらどうするんです。」
いや、むしろその行為が熱を更に上げる原因だ。彼女は徐に彼の手を掴み、それを取ろうとする。しかし体力が無い為に呆気無く外されてしまった。
「さ、口を開けてください…遠慮せずに。」
一気に低くなる声でぞっと悪寒が走る、法正は態とらしくそうしているのか。何も言わず従うのが賢明と判断した。
「…………ん。」
大人しく食べればレンゲがすっと引かれて上手く口の中に粥だけが残る、彼が冷ましてくれたお陰で熱さはほぼ無く楽に食べられる。
「美味しい……これ、法正さんが?」
「まぁ……厨房を借りて簡単に。…手の込んだ料理はなかなか至難の業でしてね。これ位しか俺には出来ませんでしたよ。」
「いえ……凄く嬉しいです。気持ちがこもってて、すぐに元気になれそうです。」
嬉しそうに笑うと彼は目を少しばかり開いて、そして満足そうに頷いた。
全て完食し満足そうに寝転がるななし、しかし懐から薬を取り出すと途端に重苦しい顔を向ける。
「……その薬、苦いやつ……。」
「飲まないと早く治りませんからね。何……一時の辛抱ですよ。良薬は口に苦しと言いますし、さぁ開けて下さい。」
ふるふると首を振って法正に必死にしがみつく。やれやれとため息をつくが、ふと何かを考える様に黙りこんでしまう。
次第に不安になりそっと顔を覗かせる。
「どうかしたんですか……?」
「……………。」
手に持つ薬を見つめ暫く経つと、ようやく袋からそれを取り出す。考え事が終わったのかと飲まされる事覚悟して待っていると、
「………あ。」
なんと、自分の口に持って行き放り投げた。
「…貴方が飲んでしまったら意味が…。」
首を傾げるが彼は無言、しかしゆっくりと瞬きをした次の瞬間にはすぐ目の前にいた。
ぐっと身体を引き寄せられ、唇が重なる。
「………!?」
舌で無理やりこじ開けられ何かが流れこんで来る。考えられる物は唯一つ、彼が口に入れていた唾液と交わった薬。
「……ん………!」
「……これなら、飲めるだろう。」
なんとも言えない味が広がり、それを押し流す様に上手い事器用に捩じ込んだ。ごくりと喉が鳴ると塞いでいた唇が離れる。
「な、何をするんですか……!?」
「これが一番の打開策と思いまして。」
「………これじゃ風邪が移ってしまいます。」
「それで貴女が楽になれるならいい、好きなだけ移してくださいよ。」
「…そんな事したら後の仕返しが怖いです。」
彼の所為か熱の所為か、ぼーっとする頭。唇と口の中に残る味が何とも言えない程に脳内を侵していく。
「……そうですね、徹底的に付きっきりの看病なら許してあげますよ。」
意味深な言葉を述べ、彼女の潤った唇に親指をゆっくり宛てて笑んだ。
(どうせなら次からずっと口移ししましょうか)
(そ、それは恥ずかしいので我慢して飲みます!)