「雲一つない空!今日はいい天気だね。」
その言葉通り空は綺麗に真っ青で白い雲は一つもない。気温も丁度良く、昼寝にはうってつけな環境である。
「おい、一応傘持って行っておけ。」
「え?でもこんなに天気がいいんだよ、雨なんて降るわけないよ。」
「訥々にやって来る事もあるだろう。」
平気平気、と法正が差し出した傘を制止して笑顔で手を振って出て行った。不機嫌に溜息を吐いて自分の手に持つ傘をじっと見つめる。
「………どうなっても知らないぞ。」
低い忠告の声は騒がしいテレビの音に掻き消された。
「馬鹿!!!」
ななしは高校の窓の外を見ては絶叫した。
「朝は凄く澄み渡っていたのに………まさか本当に雨が降るなんて……。」
彼の忠告が頭によぎり、どっと後悔の念が押し寄せる。ずぶ濡れで帰ったらきっと眉間に皺を寄せて怒るに違いない。
電話をしようという気は滅入り、そこで思いつくは誰かに入れてもらうという素晴らしき手段。さすが持つべきものは友、しかし全員帰り道が違うという事実を知ってそれが運のツキだった。
「なんと言うこと……!誰も違うだなんて……。」
「……?おい、どうしたんだ。」
下げた頭を徐ろに上げるとそこには仲の良い男の先輩が立っていた。右手には黒い傘、これは奇跡を祈って問うしかないと必死に懇願した。
「あの………私をその傘に入れてくれませんか……!?」
「ん、まぁ……いいけど、結構遠いところで別れちまうよな?」
そうだった、とひどく落胆するが、
「でも、お前が困ってるなら家まで送って行ってやるよ。」
「……本当ですか!!ありがとうございます!!」
どこか照れくさそうに頭を掻く彼の手を強く握り、何度も頭を下げた。
そして決して大きいとは言えない傘に二人で入り、並んで歩く。
「……………。」
密着する為頻繁に腕がくっつき、どこかぎこちなくなる。いつもなら気さくに話しかけて来るのだが、やはりこういった現状なのか、彼は黙り込んでいる。
「……あのさ、お前って……。」
急に開かれた口に思わず顔を見る。少しだけ赤いのは気の所為だろうか、続きを黙って聞く。
「……好きな奴って、いるのか。」
「…………へ。」
まさかそんな事を彼の口から聞くとは想定もせず、歩みを止めて呆然とした。彼もななしを濡らさない様に止まり、二人は完全に止まる。
「す、好きな人?……えっと。」
答えを待つ様に真剣な顔で見るものだから緊張して上手く言葉が出ない。
好き、少なくともその感情は、
「おい、探したぞ。」
すると後ろから聞き慣れた声、ゆっくり振り返るとそこには赤い傘を差して立ち尽くす法正の姿があった。急いで来たのだろうか、少しばかり身体が濡れている。
「あ……孝直……もしかして迎えに来てくれ……、」
表情を一切変えずこちらに歩み寄り、地を踏む勢いで水溜りの水が大きく跳ねた。いつもと違う雰囲気に思わずななしは身構える。そして鋭い目付きをした視線はすっと先輩に向いた。
「……ああ、貴方がななしを助けてくれたんですか。」
「あ……はい、あの……貴方は。」
「法孝直と言います、以後お見知りおきを。
……恩は必ず返す、今すぐにでも礼をしてあげたいのですが…それは近い内にさせて下さい。今は急用で一刻も早く帰らなければいけないので。」
淡々とした口調で話したと思えばちらりとこちらに向けられる視線、口元は笑っている筈なのだが完全に目が笑っていない。今朝の件で後々文句を並べられるだろう、それなりの覚悟をしておこう。
そう思っていたのだが。
「帰るぞ。」
引っ張る腕は存外痛く、次第に遠くなっていく先輩の姿。振り返ること無くひたすら家まで歩くが、彼は帰宅するまで一言も話してこなかった。相当お怒りのようだ、と気持ちが沈んでいく。
返さなければいけない恩が増えた、それが面倒で嫌なのだろう。
しかし玄関に入ると突然壁に押し付けられる。何事かと目を見開くが、無言の圧力は想像以上で恐怖に震え上がらせる。
「話す事があるだろう。」
両の手首は押さえつけられ身動き一つ取れない。すると足の間に彼の膝が割り込んでくる。
「やっ!…孝、直?」
「ななし、どうして電話をしなかった。」
電話、確かにその手はあったが彼に頼るという事は今朝を考えるとそんな勇気はなかった。
しかし彼にとってそれがお気に召さなかった様で、あの男と一緒に帰るくらいなら呼び出しをしろと。
「俺以外の男に恩を売るくらいなら……。」
睨む目が一層絶壁に立たされる。
「ご、ごめんなさい……これからは、ちゃんと持っていくし、呼んだりもするから…。」
「はてさて、本当に…守れるかどうか。」
低音で疑わしく呟くと膝を器用に動かしスカートをめくり上げる。予期せぬ事に声を上げそうになったがそれを彼の唇で阻まれる。
「んっ……!」
「ああ、どうせアイツはくだらない話をしたんだろう……。お前は本当に鈍感で且つ無防備だ、俺が来なかったらどうなっていたか。」
彼はそんな人ではない、そう反論したい所だが口内を侵す舌がそれを許さなかった。ぐちゅ、と唾液が混ざり合い、銀糸が繋がったり切れたり幾度も繰り返した。
「んぅ……!」
「鈍感なくせにこんなのでもう感じてるのか……とんだ淫乱だな、ななし…。」
潤った唇は離れ耳元で囁かれる言葉に羞恥を覚える。否定したくとも身体は素直だ、すっかり腰が砕けてしまった。
「ごめんなさい……もう、許して…。」
「ご心配なく、俺はとっくに許してますよ。ただ、特別にこれは延長線だ。」
そう言うと服を無造作に取っては放り投げ、下着をずらして愛撫する。執拗に攻めれば敏感なる身体もその度に跳ね上がり、息も徐々に上がっていく。
「あっ……ん、……っ。」
「そんなに気持ちがいいのなら、たっぷりとくれてやる……が、まだこんなので逝かせはしない。
散々焦らすのが俺のやり方だ…今回は特別に倍にしてな。」
「や、だ…っ……んぁあ…!」
指で思い切り弾けど寸前で止める。良い所で快楽を失う感覚に対して彼女の欲は更に増していく。
善がり火照る顔に希い涙ぐむ姿。それを見れば満足そうに笑み、指で引っ掻き回す。すると彼を受け入れるものが太ももを伝い流れた。
「駄目と言っておきながら随分と甘そうな蜜が流れているが…?」
「や、見……ない、でぇ…。」
舌を這わせ上へと上っていく。法正は受け入れが万全なのを確認すると自分のベルトに手をかけて密着させる。
「あっ…嘘…!」
ずっ、と押し寄せるのが恐怖なのか悦びなのか、難なく全てが収まると一気に悦楽が突き上がる。
「ん、あっ………!!それ、も……っ!だめえ!!」
「ああ、そんなに喘いだら見事にご近所に響き渡るぞ。まぁ、俺は別に構わないが。
どうせならさっきの男の前で見せてやりたい所だ……。」
余裕の表情で動くその身体に必死に付いていくのが精一杯だ、中とはいえ玄関にいる事も忘れあまりの気持ち良さに意識がぶっ飛びそうになる。
首に己の腕を巻きつけて涙ながらに受け応えれば優しい口付け。
「…ぁ…こ…っ、……孝直……!」
「結果、お前が好きな奴は誰なんだ…。」
「貴方…だっ、て…分かってる、くせに…!」
「そうやって何度も求めろ……俺だけを見ていろ…誰も知らないその顔を俺にだけ見せろ。」
あ、と甲高めの声を出して弓なりに反れた。思い切り締められる感覚に彼もまた顔をぐっと歪ませる。欲が放たれれば彼女は一気に熱を帯び、流れ込む感覚に身体を震わせた。少しだけ上がった彼の息は艶めかしく、至近距離で吐かれれば耳に木霊して響き渡る。
「…………。」
「…痛いか。」
首を横に振れば安堵の表情。玄関に倒れこむのもあれだと彼はななしを抱えたままリビングに向かう。
意識が朦朧とする中、動く度に己の中にある彼の欲が蠢けば恥ずかしさで顔を伏せた。
「……聞いてたの?好きな人の話。」
「さてな。」
やっぱり聞いてたんだね、と少しだけ微笑めばくしゃりと頭を撫でられる感覚を最後に意識を手放した。
その後に発せられた言葉を聞く事なく。
(あの、昨日はごめんなさい!)
(ああ、全然いいけど…お兄さん、凄い形相だっだな)
(あ………うん(お兄さんじゃないんだけど))