「…………。」
今日はななしが初めて料理を作った。料理、を作った。何度でも言おう、料理だ。
意味が分かるように説明してやる、食材に手を加え、食べ物をこしらえる事。
言語由来は、料は米と斗を合わせた計るという意味を持つ字、理はおさめると言った意味で物事を適当に処置する、世話をするといった意味だ。
「………法正様?いかがなさいましたか?」
「………いえ。」
机に並ぶ黒く禍々しいそれは食えば喉を押さえて即死を思わせる程、俺の携える劇薬より余程劇薬なのではないか?
これはある意味ななしにしか成し得ない業だ、なんとなく感動を覚えた。
「……悪い、今は食欲がない。」
「そ、そうでしたか…大丈夫です。私が代わりに食べておきますので。」
やめろ、死ぬぞ。
「そこに置いておけ、俺が後で始ま……いえ、食べておきますから。」
「……?分かりました!」
にこっと笑う可憐な姿からはこんな事は想像もつかない。勿論これは今後の劇薬道具として活躍させてもらう。
どうせなら後で徐庶にでもおすそ分けしてやろう、ななしが作ったものなら喜んで食う(死ねる)はずだ。
ああ、俺だって食える物だったら食いたい、愛する女の丹精込めた手作りを喜ばぬ男が何処にいるか。しかしそれより彼女の笑顔を二度と拝む事が出来なくなるのは御免だ。
「さて…執務に取り組むか。」
「あ、法正様…袖が綻びています。今針と糸持ってきますね。」
たたた、と小走りで自分の部屋に戻っていく。とりあえず上着を脱いでおき、帰ってきた彼女に渡した。
「最近は戦続きでしたからね…この服も頑張りました。」
そう言って縫っていくが、何度か手に突き刺しそうになる。喋りながら縫うものだから尚更危険だ。
「おい、少し口を閉ざせ……。」
ぶすっ
「あ。」
やっぱりな。
「何が『あ』だ。…治療箱持ってくる。」
申し訳ありません、と悄気げて頭を下げる。その指からは小さいながらも傷が出来、血がぷっくりと出ていた。
「…………。」
置いてある筈の所に何故か無く、渋々治療箱を探すが何処にも見当たらない。誰だ俺がいない間にこの部屋の掃除をした奴は。
「……ああ、面倒だ。」
その細い指を取って舐めた。彼女は予想通り驚いてその指を退こうとする。
「あの……!?」
「貴女ですか、この部屋掃除してるのは。」
「…え、あ…はい、僭越ながら…やはり問題ありましたか…?」
「そうですね、問題は大有りですよ。」
「………勝手に、ごめんなさい。」
顔を伏せて今にも泣きそうな顔をする、少し苛めすぎたか。だがそんな顔をされると何処か唆る。
ああ、その唇に触れたらどんな表情をするか。
「目を、閉じて頂けませんか。」
「………はい。」
打たれるのか、と素直に目をぎゅっと閉じるその姿に笑いそうになりながらも、ゆっくり近付いて目的に触れる。
柔らかい唇から伝わる強ばり、大層驚いているだろうな。何せ彼女に初めてこうしたのだから。
「……!?」
「打たれる、と思っていたのか。」
離れれば案の定真っ赤で火照っている。
「………っ。」
「ふっ……好きな女にそんな仕打ちをするか。故にご安心を、決して怒っていませんよ。」
目尻に溜まった涙をすくい取り、その身体を抱き締めた。まともに食っているのだろうか、思っていたより身体が華奢で細い。(まさか自分の料理を食っているわけではないだろうな)
それでも抱き心地の良い彼女に気持ちが和らぐ。恥ずかしいのか何度か腕の中で動くが、それでも暫くは離さなかった。
「…………ん。」
迂闊にもそのまま寝てしまった。最近長引いた戦が多く、それの所為か立て続けに寝不足だった。
意識を覚醒させていくと腕には温もりがあり、目をゆっくり開ければ気持ち良さそうに眠りにつくななしの姿。
それがまた愛おしく、腕に力を込めてみたが起きる事なく小さな寝息を立てた。
「………。」
何をさせるのにも不器用だが、決して悪くはなかった。一緒にいるだけで暗い気持ちが楽になるのは生涯において只々ななしだけだと自信を持って言えるだろう。
「起きたら、覚悟してくださいよ。」
額に軽く口付けを落として、もう一度目を閉じた。
(おい、ななしが作った料理だ、分けてやる)
(ほ、本当かい?彼女の手作りなんて嬉しいな)
(……そうか(次会う時が楽しみだ))