法正先生と私

ぱしん

「うっ………。」

「俺の授業で寝るとは、いい度胸だな。」

俯せた身体をゆっくり起こし、焦点を彼に合わせた。開けたシャツに首から下げる独特な首飾り、色気全開インテリヤクザ系な風貌ながらも頭が良いと人気のある法正先生。
普通に考えてこんな先生はいない、他はいたって真面目だから。

「ったく、もうすぐテストがあるだろうが…しっかりしろ。」

「………はい。」

「よく寝れるね、ななし。」

横から話しかけてくるのはニヤけた友人。

「……なんかあの先生だと、寝れちゃうんだよね。なんでだろ……声がいいからかなぁ?」

「そりゃあ女子に人気だからねー、彼にアプローチする子結構いるんだよ?まぁ、恋人がいるのかは分かんないけど。」

そうなんだ、と軽く頷けば再び流れてくる声に心地よくなって鐘が鳴るまで眠りについた。無意味と判断したのか今度は叩いてこなかった。



そして授業が終わり、友人と廊下に出る。他愛もない話を繰り広げて食堂へ向かって行く途中だった。
先程頭を叩いた法正先生が一人の女子高生と何か話している。女子が一方的に伝えているがその時は人混みと声に掻き消されて分からずじまいだった。

「ね、さっきの見た?また女子に告られてた、先生と生徒の秘密の関係……はぁーそういうのって結構ドキドキするかも。」

「そう、かなぁ……。」

友達は閃いたように

「……好きだったりする?」

そう聞いたものだから口に含んでいたジュースを吹きそうになった、誰が誰を好きだって?

「そりゃあ法正先生でしょ。気付いてないでしょうけど、結構話し掛けられてるし、ななしも気を許してる感じだし。」

「き、気のせいだよ……それにそうだったら私、現在他の女子からの視線って相当厳しいんじゃ……。」

「大丈夫だと思うよ、うん………大丈夫じゃ、ないね。」

言葉を詰まらせたのは目の前に立ち塞がった一人の女子。先程法正先生と話していた子だ。しかし何と言うベタな展開、次に出る言葉はきっと先生との関係しかない。

「ねぇ、法正先生とはどういう関係なの?」

「…どういうって、それは先生と生徒の……。」

「違う、恋人かそうじゃないか、を聞きたいの。」

どうして恋人という言葉が出てきたのだろう。
全然違うと言いたいのに怖気づいて無駄に戸惑っていたら友人が横割りしてきて

「そんなの本人に聞けばいいじゃん、さっきだって何か話していたし。」

「…聞いたわ、でも誰かとは言わなかった。だから一番関わりのある貴方に聞きたかったのよ。
それでどうなの、そうなのか違うのか…私は本気よ。」

誰か、つまり先生には既に恋人がいるという事だ。
勿論これは違う、素直に答えようと口を開けた。

「……あの、それはち「ああ、本当だ。」……え。」

後ろから聞き覚えのある声が混じってきた。咄嗟に振り返れば法正先生に思い切り肩を掴まれて引き寄せられた。
何が起きたのか訳が分からずただ呆然としたが、はっと我に返り思わず先生に反論。

「なっ、何言ってるんですか!?私は別に……っ。」

「学校だからってそう照れる事も無いでしょう、ななし。…まぁ、そういう事だ。俺はコイツを本気で好いている。」

「え、ななし、マジ?」

「ごめん、マジってこっちが聞きたい。」

そんなやりとりに耐えられなかったのか、その子は何も言わず去っていった。その代わり聞いていた周りの人が野次馬の如く集まり話は広がった。
特に女子は騒ぎ、私を睨む様に視線を注がれる。

「なんだお前等……報復されたくなかったら、去れ。」


それが気に入らなかったのか、心地の良い声はドスの効いた声へと変貌させて
キッと強く睨み返す。すると波が一気に引いてくかの様に人は逃げて行った。
近くで聞いていた自分も思わず身震いした。

「はっ……妬みは恐ろしいな……。
…ああ、話について来れていますか?」

「………これは夢でしょうか。と、言いますか、助けてくれる為にこんな嘘をついたんですよね。」

「でも嘘にしては本気っぽいけど。」

彼は暫し黙りこんでいたが、ふっと笑みを零して抱き寄せていた身体をゆっくり離した。真正面から向き合う形になる。

「言っただろう、俺は好いていると。」

「ほ、本気で言ってるんですか!?ましてや先生と生徒の関係ですよ、そんなのって許されないんじゃ…!」

「そんな法律誰が作った。」

法正先生はそっと友人に視線を送り、それを理解した彼女は嬉しそうにその場を去って行った。ちょっと待って唯一の理解者!!
完全に二人きりになった今はどうする事も出来ない、彼に促されるまま先程先生と彼女が話をしていた場所に連れて行かれる。

「さて、これでたっぷり話が出来る。」

「あの、先生……授業開始のチャイムが……。」

「ご安心を、次の授業は貴女だけの担当ですので。」

いや全く安心出来ません、他の生徒に対して授業放棄になってしまいます。

「本当の気持ちを伝えなければ俺は退きませんよ。」

逃げる術を無くした私はいっそ思いを告げた方が楽になれる(皆が早く授業出来る)と思い、大きく息を吐いて彼の目を真っ直ぐと見た。
当然それに応えるように見つめ返す。

「……私、先生の声が好きなんです…なんか切羽詰まった気分が楽になって。授業でいつも寝てしまうのはそれが原因なんですよね。
でも、そんな気持ちはいつしか違う感情になっていて……。

先生と話していると胸が苦しくなって、その声だけじゃなくて……正直、法正先生を好きになってしまいました。」

「…………。」

人生初の思いを全て吐いた、本当はここまで告げるはずではなかったのだが。恥ずかしさも何もかも通り越して。
ふと視線を外したその時、次には彼の顔は目の前にあり、徐に唇が重なった。
初めての経験に目を開き、身体は一気に硬直した。頭の回転がついて行かず只々彼になされるがまま。
舌が侵入した時はさすがに吃驚し、必死に逃げようとするがそれは許されず、互いの舌は唾液で絡まり合った。

「……んっ、…ゃ……。」

「…初めて、だったか。」

息が出来ずコクコクと頷けば、それに満足した彼の表情が私の虚ろな目に映った。
今まで知らない感情が一気に昂ぶり、もっと彼に触れたいという気持ちが無意識に湧いてくる。それに気付いたのか、制服を脱がそうと丁寧にボタンを外していく。

「えっ…!?待ってせんせ……!」

「孝直だ、下の名前で呼べ…。」

「……孝、直。」

呼ばないと何かされそうなので恥ずかしがりながらも小さく名を呼んだ。

「……いい子だ。」

いつも見ない微笑みに心を燻られていると、いつの間にか開けていた胸に唇を押し当てる。擽ったい様なもどかしさに小さな声が漏れた。

「我慢は頂けない……もっとその声を聞かせて、喘げ。」

そうは言うもののここは学校、声なんて出せば安易に気付かれてしまう。唇を軽く噛んで堪えていれば脚の隙間に指が這う。

「あっ…!?」

「声を出せ……ななし。」

普段苗字で呼ぶのに下の名前で呼ばれるとぎこちなく感じてしまう。
壁と挟まれ逃げ場はなく、いちいち声に反応しては身体をくねらせた。

「んぅ……ぁあっ!」

「……ああ、良く出来ました。」

法正は嬉しそうに口付けを落とす。
大好きな声が耳に逐一響き、それが欲を一気に高まらせる。と、同時に何か熱い物を感じた。

「……!!だ、め……はじめ、て…っ、怖い……怖いで、す…っ!」

「恐怖とは裏腹に気持ち良がってるのが分かる…安心しろ、極力痛くはしませんよ。」

狭い中に入ってくる感覚が痛みなのか気持ち良さなのか良く分からず、ただ涙を流し必死にしがみつくしかなかった。味わった事のない経験をじっくり感じてる暇などなく、自然に腰は浮き上がる。

「……っ、つぅ……。」

「嫌、か?」

「…いえ……っ、なんて言っていいか分かりませんが……これが嬉しい、んでしょうか…。」

「それは、良かった。」

口角を上げて笑ったのと同時に痛みが襲い掛かる。あまりの痛さに悲鳴を上げた。

「いっ……ぁあ…っだめぇ!!」

「悪い、もう少しだけ我慢しろ……。」

首を振って泣き叫ぶと深く口付けされ、くぐもった声は全て彼の口内へ送られる。

彼の動きになすがままでいれば痛みも少なくなり、次第に声は甘くなっていく。
律動は速くなり、近付いてくる絶頂に未知なるものを感じた。

「ふ……っ、…ぁ…なん、か…っ変…!」

「………おかしくない、それで、いい!」

奥に強く当たった瞬間にクラっと目眩がして頭が真っ白になった。物事を考える事も出来ず押し寄せて来る快楽にただじっくりと浸る。
余裕だった法正も息を乱して汗ばんだ身体を抱き締めた。









「…………ただいま。」

「おかえりー、って……何かななし、やつれた?」

「………私、とんでもない事してしまった。」

授業は当然の如く終わっていて、私達がいない間は自習になっていたようだ。
先までの行為を思い出すと身体が熱を帯びて震える、これからあの先生とどう接していいか分からない。

「ななし。」

大好きな声で名前を呼ばれるが、振り返るのも恐ろしく、返事が出来なかった。
すると頭に何かが当たり、取れ、と言われたので恐る恐るそれを受け取ると今度のテスト対策の事柄がびっしりと書いてあった。

「これって……。」

「馬鹿な貴女だけに差し上げますよ、それで今回は馬鹿から卒業して下さい。」

馬鹿馬鹿って!この先生は優しいのかSなのか分からない。

「えーーズルい!私にもくださいよー!」

「お前は頭がいいだろう。」

さらっとスルーし、そのまま次の教室へ行ってしまった。貰った紙をよくよく見ていると最後に先生の電話番号とメールアドレス、そして短い文章が小さく書かれていた。

「ね、それ後でコピーさせて!」

「いっ、いやいや駄目絶対に駄目!!」

こんなのを見られたら恥ずかしくて死ねる!紙を勢い良く鞄の奥底にしまい、チャックを思い切り閉めた。
ケチーッ、とバシバシ叩かれる事も我慢出来た。

先生の本当の気持ち、もっと知りたいと思いながら気怠い次の授業に向かった。


(初めてにしては良く出来た方だ)