「暑い………。」
焼き付けるような日の熱さに思わず身体もだらけてしまう。ここの所連続的に日が良く、作物が干からびてしまうのではないかと心配する位だ。
扇子で仰げど、生ぬるい風が来るだけ。水を定期的に飲めどすぐに乾く。
どうにも出来ない状況だが、日が暮れるまで耐えるしかないのだ。
また、静かな縁側の向こう側から足音がするのも気付かないくらいななしは思考を停止していた。
「随分と参ってるな。」
虚ろな目を横に向けると涼しい顔で法正が立っていた。いつもと違い緑色の服ではなく、更に胸元の部分がはだけた薄緑色の着物だった。
わずかに香る爽やかな香に、見惚れてしまう程の色っぽい姿。思わず目を逸らしてしまう。
「…法正さんは暑くないんですか。」
「勿論暑い。とは言え、怠けてる訳にもいかないだろ。」
彼はそう言って隣に座ると、急に緊張感が高まる。気持ちを落ち着かせる為にとりあえず姿勢を正し、庭の景色を眺める。
「………。」
「何だ急にかしこまった様な姿勢で。いつものななしらしくないな。雪でも降りそうだ。」
「こんな炎天下じゃ雪も嫌がりますよ。それよりいつもの私ってなんですか。」
いつも通りに話してる筈なのに駄目だ、暑い。法正が来た所為でもっと熱くなった。皮肉な言葉もうまく返せない。
ななしはモヤモヤとした気持ちで考える。
「………………ふぅん。」
何を思ってか、空いていた一定の距離を埋める様に法正は近付く。
「………!」
「どうした?」
「ど、どうもしてないです。」
そうは言うがやはりどこか違う、その反応に法正はにたりと笑む。
寝癖が付いてる、とななしの長い黒髪に触れれば、案の定肩がビクリと上がった。勢い良く振り向く彼女だが、顔がほんのりと赤い。こんな顔をした事があっただろうか、ゆっくりと目を細め絡まる事のない髪の間を指がすり抜ける。
「ね、寝癖…!こ、これは…自分で直せるから!」
ガシガシと手で直す姿があまりにも面白く、また、どこか別の意味での愛くるしさも感じる。
その姿を暫く見つめれば、視線に気付いたななしが戸惑いながらも見つめ返す。
「…楽しんでませんか?」
「ああ、楽しんでる。」
やっぱり、と溜息を小さく吐くななし。
これ以上ちょっかい出すと面倒事になりそうだと判断した法正は立ち上がる。と、ななしがどこか名残惜しそうに顔を上げた。
「もう行くの?」
「生憎暇じゃないんでね、精々天日干されないよう気を付けるんだな。」
嫌味の一言を告げて立ち去ろうとした筈だが、
「…もう少しいて……。」
「……!」
思わずぽかんと口を開けてしまった。言い返すどころか思いもしなかった言葉を口にしたからだ。やはり今日のななしはどこかおかしい、自惚れるのもなんだがこれは恐らくああいう意味ではないかと。
はたまた暑さの所為で思考がおかしくなったか、それの可能性もありそうだが敢えて前者で捉える事にした。
「……もう暫く此処にいてください法正様、だろ。」
もう一度隣に座り、庭を眺める。横目で彼女を見やれば少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべてる。ああ、俺もこの馬鹿みたいな暑さでおかしくなってしまったのだろうか。
「熱い。」
違うな、己の口から僅かに漏れた笑声。そうだ、俺はコイツの事を知らぬ間に好いていたのだ。他の奴と居る時とは違った、今も感じる不思議な心地好さ。
悪くない、そう思った俺はななしが飽きるまで暫く隣にいる事にした。
(結局日が沈んだ)