「ん………。」
煌々と光るパソコンとにらめっこ、大学の課題が終わらずサイトとエクセルが延々と重なっていた。
カタカタとキーボードを打ちながら溜息を付いていると椅子に何かがのしかかるような負荷がかかる。
見上げれば少々不機嫌な法正の姿。
「……法正さん…もう少し待ってくれますか?」
申し訳なさそうに眉を下げて再びディスプレイに視線を戻すななし。
「………俺はななしといたいんですよ。」
子供の様に駄々をこねる彼に思わず心の中で笑ってしまった。無表情で堪えるが、あまりにもそれが強烈で、今すぐにでも抱きしめたいのに。
課題の馬鹿野郎、だなんて考えていたらクルリと椅子が回った。目と目がばっちりと合う。
「………法正さん、何だか今日は甘えん坊ですね。」
「誰の所為ですか。」
「だったら代わりに課題終わらせて下さい、これさえ無かったらとっくに一緒にいるのに。」
「家に持ち帰る貴女がいけないんですよ。」
普段会社で働いている法正は全て社内で仕事を済ませてしまう人間なので、家には一切仕事を持ち込まない。それと反対に自分は課題を学校で終えずに家でやるタイプ、だからこそこうして構う事が出来ない。
「…………ななし。」
大の大人が寂しそうに名を呼ぶと、本当に可愛くて仕方ない。きっと本人にそれを告げたら怒ってしまうだろう。
「何ですか、甘えたがりな孝直さん。」
からかう様に首を傾げて返答すれば、身体に力が加わった。その逞しい腕で抱き着かれてしまい、一瞬体勢がぐらついてしまう。
「わ……。」
「俺の事、好きですか。」
「え………?はい、凄く大好きです。」
「………課題は後々手伝ってあげますから、今だけは俺に時間をください。」
身体が離れたかと思うと、ネックレスが全て見える位にシャツを開けさせた。浮き出た鎖骨や胸板をちらつかせる艶めかしい身体は目のやり場に困ってしまう。
「ま、待って……さすがにそれは駄目です。」
「嫌と言っても俺は、聞かない。」
膝を付いて彼女の素足をそっと持ち上げ、爪先に口付ける。それに驚いたななしは擽ったい様な恥ずかしい様な感覚を覚えて思わずたじろいだ。
「法正さん…!?」
「足の爪先は崇拝だそうだ、どうせなら片っ端からしてあげましょう。」
そう言って甲や膝、太もも、腰、手等あらゆる箇所を隈無く施し尽くし、最後に待ち望んでいたであろう唇を堪能する様に塞いだ。
どの箇所も色気を含んでするものだから、こちらとしては身は持たない。100人中100人が酔い痴れてしまうだろう。
「ん………。」
「そうだ、その顔が堪らなく見たかった。」
どんな顔かは本人しか知る由もないが、恐らくふにゃっとした情けない表情をしているのだろう。顔がやけに熱いのもその所為、体中にキスをするなんてどれだけ触れたかったのか。
それだけ愛されている、と考えたら胸が焦がれる位に愛おしくて仕方ない。ななしは法正の喉に近付いて薄い唇を軽く押し付けた。
「…………。」
「喉は欲求らしいです……よ。」
仕返しとまではいかない、が、それでもやってやりたかった。するとそれをも満足そうに微笑む彼、彼曰くこんな顔は家でしかしないらしい。会社ではいつも悪人の如く部下を苛めているとかなんとか。こんな姿も仕草も全て自分だけの特別なんだなと勝手に自惚れたりして。
「欲求……か。するとあれか、それはしたいという事で。」
「ち、違います……!いえ、欲しいですけど……違いますから…!」
ぶんぶんと否定する様にななしは首を振るが、そういう風に受け取ってしまった法正は完全にスイッチが入ったようだ。
舌なめずりをして温かい舌をじっくりと首に這わせる。先程までの愛らしいと感じていた思想はあっという間に崩れ、ぞくりとする寒気が襲いかかった。
「わ………っ。」
してやったりといった目付きは本当に嬉しそうで。
「ああ、そんなに背中がぞくりとしましたか。震える身体が俺にも直に伝わってきました。」
「うう……急に意地悪な法正さんになりましたね。」
「それはずっとななしが構ってくれないからです。」
孤独を消す様に胸に顔を埋めて静かに目を閉じる。それが恥ずかしくてななしはあちこち目を泳がせるが、彼の言葉に答える様に背中にぎこちない手を回して優しく抱きしめた。
「……うん………やっぱり可愛いです。」
「……何がですか。」
「…えっと…貴方の全てが、です……。」
怒られてもいいと覚悟して告げるが、何故か決して不快な表情をしなかった。
「怒らないんですか?」
「………別段怒るような話でもありません。まぁ、強いて言うならば…俺なんかよりも貴女の可愛さを見たいのが本音ですが。」
例えば、と法正は続けて見上げる。彼の眼の中に映る自分はより頬を染め上げていく。
「誰も知らないななしにもっと…触れたい。」
そう低い声で心から望む様に言われてしまったら、
「………誰も知らない私を、見てみますか?」
大人な貴方に全てを捧げたくなってしまう。
そうして柔肌に刻まれていく無数の赤花弁。今すぐにでも子を成してしまいそうな程に迫り来る欲望の塊。耳元で囁かれれば孕む様に甘美な声色。
そんな彼女の嬌声に喜びを隠せない。
行為が終わってみれば可愛いなんてそんな幼稚な言葉では言い表せない程に彼は大人で、やはり男だった。
(これでどちらが可愛いか……存分に知る事が出来たかと)
(うう……やっぱり法正さんは大人でした…それに課題も結局終わらなかった…)