心酔

「おかえりなさい、法正さ……ん!?」

宴を終えて、部屋に戻った法正。しかしその足取りは覚束なく、今にも酔い潰れそうだ。唐突に抱き締められ二人ごと倒れそうになるのを何とか堪える。

「………なんですか、人の顔をじろじろ見て。」

「い、いえ……そんなに見てはいないと思いますが……。それより法正さん、結構お酒入っていますよね。」

言われて恐る恐る顔を見れば頬を赤く染め、目はすっかり座って相当重症だ。そんな彼に水を一杯渡そうともがくが、微動だにしない。

「あ、あの…!!」

「…………ななし。」

名を呼ぶと同時に唇が塞がれる。独特の匂いと苦味が唾液と混じって口内に広がっていった。

「ん…………っ!」

「………お前が、欲しい……。」

熱っぽく低い声は耳を孕ませるような色っぽさを纏っている。このままでは押し倒されてしまう。

「お、落ち着いて下さい……!!」

「ああ、俺はいつでも冷静ですが……。」

そう言いつつも力強く押し倒され、手首を布で巻かれる。酔っている割には行動が俊敏で、あっという間に身動きが取れなくなった。
腰にどっかりに座られ、重さが華奢な身体を軋ませる。

「い、……痛いです、法正さん…!」

「……安心しろ、すぐに気持ちよくなる。」

餓えた獣の様に恐ろしい表情で見下ろす法正。何言っても会話が繋がらない、未知なる行動に冷や汗が流れていく。

「たっぷりと味わえ……。」

「…………!」

乱れた服に手を掛けた瞬間









「…………ひっく、ええと……あれ。」

「……………。」

扉が控えめに開いた。目を向けると、そこには徐庶の姿。しかし彼もまた酒に飲まれてふらふらと、口元は緩みきって嬉しそうな表情を浮かべている。
法正は今までに無いくらいに睨みを利かせ、眉間に大きく皺を作った。

「………邪魔だから、出て行け。」

「………法正殿………まさか、ななしを……!」

「察したなら尚更だ。」

「待って下さい徐庶さん………!!」

組み敷かれた状態で必死に懇願する。しかし、二人共泥酔しきっていつどちらが手を出すか分からない。だからといってこのまま犯されてしまうのは色々とまずい。神経を逆撫でしない様に、出来るだけ優しめな口調で宥める。

「ええと……俺はどうすれば……。」

「後で散々報いられたくなくば、さっさと目を逸らせ。お前の真似じゃないが…手加減は出来ないぞ。」

「一旦お話しましょう!それから今後を決めていくという形で……!」

布で縛られた布が存外きつく、血が止まるんじゃないかと若干焦りを感じる。それを何とか目で訴えれば、彼は渋々ながらも解いた。

「でも、ななしが困っているじゃないか……やっぱり、見捨てられないよ。」

痺れを切らしたのかすっと静かに法正が立つ。ついに訪れて欲しくない瞬間がやって来てしまった、と今にも泣きそうな顔で見つめた。
しかし彼は口角を上げて

「………お前、ななしが好きなんだろう……。」

「………え?」

言い放てば徐庶は目をぱちくりさせて固まってしまった。それにはななしも驚かざるを得ない。
そんな事も気にせず法正は話を続ける。

「図星だろう、そうだろうな……いつもうわ言の様にななしの名前を呟いているのを知ってるぞ。」

「えっ……あ、いや……その!違うんだ!」

「ひっく、いつの日か俺に話したことあっただろう……ななしは素晴らしい女性だだの、こんな俺にも優しくしてくれるだの……。知らないとでも思ったか馬鹿が。」

呆然と聞くななしはそんな暴露の状況に追いつかない。それを満足そうに見た法正は彼女の上半身を起こして再び深く口付けを施した。人前でする事に羞恥で抵抗をするが、後頭部を押さえつけられ離れることが出来ない。

「んん……っ!?」

「………ふ、だからだ……だからこそ渡したくないに決まっている。」

「………法正殿……っ。」

彼は見せつけるようにななしの潤った唇を一舐めし、勝ち誇った顔をする。案の定徐庶は今にも泣き出しそうな顔で唇を震わせていた。
酔っていると何でも言い放題やりたい放題だ、深い口付けのお陰でこちらまで酔いが回る勢いである。思考が定まらず、脳がじんわり麻痺してきた。

「うう、酷いですよ……法正殿!」

ついに徐庶は泣いてそのまま外に出て行ってしまった。千鳥足だった為に、倒れそうになりながらも逃げる様に去ってしまう。

「あっ!徐庶さん!待って!」

息を乱しながら名を呼ぶが、それも虚しく既に視界からいなくなっていた。

「ほうせ……さん。」

「俺の事、嫌いですか……。」

先までの威勢は何処かに消え、今度は憂いを帯びた寂しい目を向けていた。消え入りそうな声で言うものだから、つい気を許しそうになってしまう。

「いえ………ですが、お酒飲むと普段見れない姿ばかりです……追い付きませんよ。明日、どういう顔して謝ればいいか……。」

「ああ、どうせ記憶にないですよ……。」

とんとんと彼女の膝を軽く叩く、意味が分からず首を傾げているとそのまま勢い良く頭を乗せた。
虚ろな細い目でななしを見上げて、ゆっくり瞼を閉ざす。

「ですが……俺の気持ちに、偽りない事を……お忘れなく…………それと、ななし……。」

後半何かを言いたそうに僅かに唇を動かすが声は無く、意識を手放してとうとう眠りに就いてしまった。嵐は過ぎ去った、とななしはほっと撫で下ろす。

「………今度はお酒でなく、本当の気持ちを伝えて下さいね。」

右目に被さる髪をそっと撫で、額に口付けを落とした。




(おはようございます、先日は迷惑かけました)

(い、いえ大丈夫ですよ(それより徐庶さん大丈夫でしょうか…))