「あ………あぁ………。」
「そうだ、もっと啼け……。」
今日も聞こえてくる、女の甘ったるい嬌声。その男に愛されて狂ってしまう程に快楽を求めている。
だが、明日になればその女は同じ場所にいない。知らない誰かがまたその男に愛されているのだ。それはどういう意味か、所詮は男に遊ばれているだけ、愛など元よりありはしないのだ。
するとどうだろうか、愛されていた過去の女は嫉妬に狂い、今まさに愛されている女を嫉妬の炎で焼き尽くす。それの繰り返しを幾度も目にしてきた。
まさかそれが、自分にも回ってくるとは思ってもいなかった。
「離して下さい…。」
「嫌ですよ、大人しく抱かれろ。」
目の前の男は法正、己を悪党と名乗り、参謀として劉備の元で活躍している。知略あれど性格は誰からも最悪と言われ、その為か日頃より怨みを持たれる事が多いらしい。
それらの鬱憤を晴らすのに、飽くこと無く女を抱いているのだろう。
「……………。」
右目は髪に隠れ、鋭く冷たい左目が組み敷かれるななしの姿を穴が開く程に見下ろした。すぅ、と妙に整った呼吸だけが聞こえる。
「………最、低です……色んな女性抱いておいて、すぐに捨てていく……そんなの……!」
「勝手に寄ってきて抱いてくれと言われた、だから相手が満足するまで抱いたまでですよ。……最初から興味などあるか。」
本当にどうかしている。
「なら、私は違う筈です。自ら貴方を求めていません。」
「ああ、これは俺の抑え切れない欲ですから。」
服の隙間に手をするりと侵入させる。あまりの出来事に足をばたつかせ抵抗するが、何一つ効果が見られない。悲鳴を上げようと喉を動かすが、見事に塞がれてしまう。それは彼の唇で、嫌という程堪能させられた。
「んん…………っ……ふぅ……!」
「唆るな……早く啼かせたい。」
きっ、と睨み唇を噛んだ。すると切れた傷からじんわり流れていく赤い血。法正はそれを静かに舐めた。
「こんなに抵抗するのは貴女が初めてだ。」
「当然……です……っ……好きでもない人に、口付けされても……!」
「感じないと……成程、ではそれが本当か……下に聞いてみるとしましょう。」
空いてる手を下半身に這わせて丘に触れた。びくりと身体が震え何とも言えない感覚が電流の様に走っていく。撫でる指がぐっと中に入り込めば当然悲鳴が上がる。
「いや、っ……ぁっ!!」
「……ふ、嘘は頂けない……こんなにも濡らしておいて。」
法正は嬉しそうに中指を捻じり入れ、狭い中を引っ掻き回していく。その度にななしは痙攣に似た衝撃を引き起こして激しく跳ねた。
「あっ…!や、そ……れ……いぁあっ!」
「何が嫌だ、だ……欲しそうにしゃぶりついてるだろ。」
初めての行為に頭が追い付かずなすがまま。抵抗する事も忘れる程にそれが刺激的だった。指を引き抜いて纏わり付いた欲の液を舌で舐め取る。ちゅっ、と態とらしく音を立てれば羞恥に目を固く閉ざした。
「そうか、初めてか。」
「………は、……。」
これだけで疲労感が尋常じゃない、最早彼への憎しみが薄れかかっている。いけないと、認めたくないと気持ちは重々分かっているが、それでも身体は呆気無い程素直だった。
「どうですか……もっと知りたいと思いませんか。」
「………いら、ない………。」
自分に残る僅かな力で首を横に振るが、それを断ち切らせる様に再び指が勢い良く挿入された。
「いっ……!!……やめてぇ!!」
涙を流して懸命に希うが、お構いなしに逞しい指は曲がり、蠢き、良い所を突いて快楽へと誘っていく。それだけで彼女は呆気無く一度目の絶頂を迎えた。頭は真っ白に何も考えられなくなった。
「もう逝ってしまったんですか、いけない人ですね。」
くつりと喉を鳴らし耳元で擽る低い声が何故か愛おしく感じてしまう。まるで薬を盛られた様に、もっと最奥まで知りたいという探究心や好奇心が押し寄せてくる。
いっそ、騙されてみろと悪魔が囁いた。すると自然と喉から這い出てくる欲する台詞。
「………もっと………。」
もっと、それは彼が最も聞きたい言葉。
「………仰せのままに。」
待ち望んでいた口は美しく三日月に割り、ななしの身体を押し倒す。法正の服がはらりと開けて、逞しい肉体を覗かせる。ああ、これが幾多の女を魅了してきた身体。なんとなく納得出来る、彼女は朦朧とする意識の中そんな風に考えた。
「俺を見ろ。」
言われるがままその目を見ると、闇の様に妖しく魅せる。操られたようにただ見つめ返せば、目の前はあっという間に法正の顔で埋め尽くされた。優しい口付けが何度も降り注ぎ、甘く吐かれる呼吸を余す事無く奪っていく。
「ん………。」
「ななし…………。」
名を呼び、出した舌を器用に絡ませる。くちゅ、と音を鳴らせて互いの液を絡め合わせた。すると、じんわりとななしの中で潤っていく何か。
「………あ、………。」
「いい顔している……堪らないな。」
胸に手を滑らせて、やんわりと揉み解す。形を変えて突起を甘く噛めば身体をくねらせてたじろいだ。
「や、ん………っ。」
舌で先を転がして遊べば、自然と擦れる太腿。それが何を示しているのか、法正にはしっかりと分かっていた。故に、まだ触れない。もっと焦らして、もっと求めてほしい。
「どうしました……随分と苦しそうだが……。」
言葉に出すのも恥ずかしいのか、頑なに口を閉ざす。そんな姿を上目遣いでじっと見れば顔を赤くして目を逸らした。
「全く、可愛い人だ。」
ぺろりと舐めて次に首筋に赤い跡を残していく。ちくりと刺す痛みがある度に短い言葉を漏らして耐える姿が何とも初々しい。今までにはない女だ、と満足そうに目を細めた。
そんな姿に法正のそれは雄々しく反り、未だ受け入れた事のない世界へと触れた。
それに敏感に反応したななしは咄嗟に
「……………っ、やっぱり……やめ……て!」
突然の制止に、ぴたりと身体が止まる。
「………何故です。」
「一夜だけの愛なんて……悲しすぎるから……先に行けばきっと私は後悔してしまう……。」
官能的になっていた己はかろうじてまともな意識を取り戻した。
本当を言えば法正に好意を寄せている。しかし女癖の悪いのは知っていた故に、自分が行った所で良い様にあしらわれるだけだと諦め、思いを隠していた。今回もきっとそう、一夜だけ良い思いをすれば後々に苦しみを味わう。
それが怖くて必死に拒んでいた。
好きでもない女を抱いて、満足する男ではないと。
こうして求めるのは、欲求を満たすだけの道具なんだと。
「お願いします………見逃してください………。」
「………………断る。」
きっぱりと断る法正の表情は、未だ嘗てない程に苦しそうである。悲しいが今は所詮彼の遊び相手、何をそんなに苦しげに断るのか、ななしには理解出来なかった。
すると、乱れた髪を掻き分けて隠れていた儚い瞳を見せる。
「他の奴にそう言われたら簡単に捨てるが……そうですね、貴女だけは死んでも離さない。」
「…………意味が……分かりません。私は所詮貴方の性道具に過ぎないのでしょう……。どうして、そんな事言うんです、それも演技なんですか。他の人にだってそう誑かして結局……!」
「言うな!!!」
冷徹な彼が心を乱したのを、生まれて初めてこの目で見た。本当に心から叫んでるかの様で、あまりの出来事に続きの言葉が言えなくなってしまった。
動揺してる所為か、揺らぐ瞳。息も不規則になり、焦燥に駆られて心が激しく掻き乱されている。
「……………はっ、確かにそうだろうな………散々女を食い漁って、満たされぬ欲求を求めて、好いた女もこうして無理やり犯して。下衆なやり方で得る愛なぞ、幸福にはあまりにも程遠い理想郷だ。」
「……………。」
「言いたい事はこうだろう。物事を冷静に考える軍師であっても、こうして理性すら失って貪る姿は何とも甚だしい、と。………成程、背徳か。」
呆れた様に、己を嘲笑う。しかし一つの単語をななしは聞き逃さなかった。
「私を……好いていると、言いました……?」
「………ええ、そうですよ。俺は本気で好いている。今までにない程、貴女に溺れています。一方的な愛という歪んだ物ですが。」
何故か、今の彼の言葉は嘘を付いているようには見えない。
「…………法正、様。」
決して呼ぶ事の無かった名前を恐る恐る呼べば、虚ろな両目をこちらに向けた。
「………それが嘘でないのであれば、このまま先へ行ってください。私は受け入れる覚悟が出来ています……私も、貴方を、ずっと前から好いていましたから。
ですが、それが嘘だったのなら、二度と私の前に現れないで下さい。
偽りの愛に初めては捧げたくない……。」
法正は目を見開く、まさかななしの口から好きという言葉が出ると微塵も思っていなかったのだ。
しかしそんな彼に悩む時間は少しも無かった、気が付けば彼女を再び押し倒して口付けを落としている。
「…………なら、必ず証明してやる。」
改めて帯びた熱を宛てがい、ゆっくりと侵入させていく。指で既に破れていた膜が完全に裂ける感覚を味わいながら真っ直ぐ突き刺す。
「………っ、ぅあ……っ!!」
すると彼女はあまりの痛みに首を激しく振った。潤っているとはいえ、狭い壁を潜り抜けるのは至難である。初めての異物は激しく拒まれていた。
「………く、」
奥へぶつかる位に限界まで行けば、苦痛に息を荒らげるななし。出来るだけ意識をこちらに持っていくように何度も唇を重ねる。時々流す涙を拭い取り、優しく頬を撫でた。
「平気、か。」
「……………は、い………。」
下手に動かせば再び激痛が走ってしまうので、彼女が落ち着くまで暫く待つ。色っぽく汗ばんだななしは顔を紅潮させ、法正を静かに見つめた。そんな姿に理性は少しずつ削られていく、見るに耐え兼ねた法正はそっぽを向いて視界を変える。
「……もう……大丈夫ですよ……我慢しないで、早く……来てください。」
小さく呟かれたななしの言葉に揺さぶられ、意思もなく腰は動く。一度ぶつければ短い言葉を辛そうに吐いた。
「……っんぅ……!」
「……ああ、確かにもう我慢は出来ない。」
激しくぶつけないように配慮しながら程良く突き上げる。案の定ななしは痛いと何度も叫んだが、最早この状態で止める事は不可能だ。煽る様な甘美な嬌声、揺れる引き締まった四肢、どれもが法正の熱量を増す物となる。
「あっ……あぁ……っ……!!」
「いいぞ………もっと啼け……。」
涙で濡らした目尻に口付けして何度も囁く。早く痛みを快楽に変えたい、そんな思いで律動を繰り返せば、次第に甘い声へと変わっていく。この良さが分かってきた所で更に行為を速めた。
「あっ…や…あ……!!…もうっ、駄目ぇえ!!」
「ああ……逝け、快楽に果ててしまえばいい。」
一際高い声を張り裂けそうな位に叫び、本当の絶頂を迎えた身体は一瞬で石の様に強張る。耳に残る程の叫びは今も内側で反響して強く焼き付けた。
「…………っ………く……。」
唯でさえ狭い場所なのにこうも締め付けがきついと、嫌でも溜まり切った精が吐き出されてしまう。苦々しく顔を歪め、大きく息を吐いた。どく、と鈍い音を立てて流れていく大量の液は思っていたよりも濃い。
「ああ、それもそうだ………唯一最後まで一緒に逝ったのは、ななしだけだからな。」
法正は何処か嬉々とした表情で納得する。そう、今までは相手に出して欲しいと請われても決してそれだけはしなかった。
だが、好いて好かれた同士なら。
「………ん、ぅ……苦しい……。」
「それだけ溜まっていたからな、悪く思わないでください。」
ずるりと引き抜けば入りきらない液が音を立てずに溢れていく。それを見て意識を朦朧とさせるななしは恥ずかしそうに顔を覆い隠した。
「………………。」
「ななし。」
名を呼べど、顔は合わせない。
「………………。」
「……愛していますよ。」
そっと指の隙間から覗かせる潤んだ目、嬉しいのか悲しいのか見分けがたい。
法正はその指を一本ずつ退かして表情を伺う。
「嘘はついてない。……が、どうしても報いたいと言うのであれば俺は何も言わず受けますよ。それだけの事はしましたし。」
「…………もう、女の人は抱きませんか。」
やはりそこの心配は拭い切れないらしい。今までの蛮行に法正は溜息をこぼして少しだけ後悔し怨んだ。
「不安だと言うのであれば、俺を永久に鎖か何かで縛り付けて下さいよ。」
若干不貞腐れる感じで彼女の髪を指で遊んでは梳かす。時々絡まる毛を直してただ黙々と返事を待った。
「……………いえ、信じてみます。」
「なら良かった。」
額に軽く唇を押し付け、眠りに誘われている彼女の瞼をそっと撫でた。
約束通り、それからは女の連鎖を断ち切った。時々寄ってくる輩もいたが、全てあしらい冷たい言葉で追い払う。となると、嫌でも標的になるのは恋仲であるななし。憤怒の形相で迫り来るのを守り葬り去るのも生き甲斐となり役目となった。
「…………嫉妬ほど醜い物はないですよ、そうでしょう?」
低い言葉の音程が上がる位嬉しそうに悪党は笑った。本当に愛する者が出来ると人はここまで変われるのか、と。
そして劇薬は今日も人の中を蝕む様に流れていく。
(怨むなら、愚行を犯した俺を怨めばいい)