共に在り

「………………。」

法正はどうしようもなく苛ついていた。恋仲のななしと離れての任務は不服な事この上ない。

「全く、どれだけ仕事を押し付ける気だ……。」

しかし離れたのは法正自ら望んだ意志である。どうするか考えをまとめるべく。

周りの奴等の冷ややかな白い目、勝手に一人歩きする根も葉もない噂。しかし法正にとってはすっかり慣れたもので、ましてや己は悪党、そんなのは言わせたい奴に言わせとけばいいと普段なら一蹴するのだが。
しかしそれは無関係なななしにも飛び火した。あんな男に付く彼女の心理が読めんだの、裏ではそういう類の仲間だの彼女への不信感も周りは抱いてしまったようだ。

それ故、かれこれ一月はななしと身体を交えていない。となると身体は無意識に欲情し、吐き出す場もなく毎夜一人で慰める始末。とはいえ知らぬ女を抱こう気にもならない、それだけななししか求めていないのだから。

「この悪党が惚気とは情けないものだ。」

垂れる邪魔な前髪を掻き上げて一息、筆を置いてやけに近い天井を見仰いだ。何をしても思い浮かぶはななしの姿、忘れたくともそれを許さない深い感情。

「…………………。」

ああ、俺といると彼女は不幸になってしまうかもしれないな、らしくもない不安に駆られながら法正は不機嫌に立ち上がって部屋を出た。











「法正さん………。」

それから七日過ぎ、長らく雨が降り続いている。灰色の空を眺めななしは変わらず彼を待ち続けていた。

「……………きっと、もうすぐ帰ってきますよね、大丈夫。」

口元を緩ませそう自分に言い聞かせると、門前でずぶ濡れな影が謎めいて立っていた。

「………………?」

人には見えなくもない影、しかしこんな雨の中雨具も使わずに外にいる人間などまずあり得ないのだが。
ゆっくり歩み寄るその影を見て、ななしは酷く驚いた。

「…………法正、さん?」

髪はぺたんと頬にへばりつき、衣服も水を含んで足取りが重々しい。陽炎のように揺らめき虚ろう瞳に思わず怯んでしまう。どうして一人なのだろうか、他の人は誰一人見当たらない。

「ああななし、ただいま。」

「お………おかえり、なさい……!それよりあの、早くこちらへ、このままでは風邪を召されてしまいます……!」

漸く我に返り、急いで彼の側へ駆け寄る。すると手が伸ばされそのまま引き寄せられた。

「んっ……!」

「ななし………。」

熱に浮かされた様に何度も呼ばれる名前、いや違う、触れる身体が妙に熱い。

「やだ………熱があるんじゃないんですか……!?」

「……かもしれんな、どういう訳か貴女が霞んで見えますよ……。」

「早くこちらへ……!早急にお湯沸かしますから!」

ふらつく身体を支え、何とか部屋まで運び込んだ。急いで用意する為に立ち上がろうとすると

「きゃっ!」

不意に強く肩を押され、油断していた身体は呆気無く倒れこんでしまう。訳も分からず呆然としていると手首を押さえ付けられ、動きを封じられた。

「法正さん……!今は大人しくしてください!」

「それは出来ませんよ……貴女に会いたくなって俺はこんな雨の中帰ってきたんですから。」

倒れ込むななしへ即座に跨がり、口付けを幾度も落とす。濡れている所為か雫が顔に流れ落ち、髪もななしの視界を覆って前が見えない状態だ。くちゅ、と水音を鳴らしては角度を変えて、駄目と拒んでいた気持ちが次第に熱情に傾いていく。

「……はぁ、俺を慰めてくれませんか。」

離れて空気を大きく肺に入れ込むと、法正は休む事無く徐に出した男根をななしの唇に当てた。濡れた唇が僅かに動く度、無意識にぞくりと身体は震える。

「ほ、法正さん……っ!」

もがけど全く効果は見られず、やむを得ず外す視線。それでも目の前にある物が唇を伝い、心臓の鼓動を速まらせる。

「貴女に会えない間、こうして俺は一人で慰める日々を送っていたんですよ。」

そう言って自分の手で掴むと上下に擦る。

「待って……っ、それって……。」

「…………は、意味……分かりますよね。」

強く握っては息を詰まらせ、小さく吐息を漏らす。いつも余裕の笑みを浮かべる彼は、今となってはそんな面影すら見られない。色っぽくじんわりと汗を滲ませて、ぎゅっと唇を噛み締める。

「駄目です……っ、身体を休めないと……!」

揺れる度に唇に当たる熱と滲み出す液、そのどちらもが理性を少しずつ砕いていく。駄目と分かっていても逸らす事が出来ない瞳。苦しむ彼の姿をただ見ているしかなかった。

「……………………。」

「法正さん…………。」

限界が近いのか、手の動きを速めて夢中に腰を揺らす。目の前の物は度量を増し、吐出される寸前だった。

「…………ななし…………っ………。」

「好きです………法正さん、愛しています……。」

堪らず言葉を掛けてその大きな手に自分の手を重ねれば、短い呻きを放ち音を立てて吐出される欲液。微かに開いていた口に入り込み、顔は濃い白濁に塗れた。

「んっ………っ!」

液を直接顔面で受けた事無い彼女にとっては驚愕的な状況でただ頭が真っ白になるばかり。今までにない出来事、かつてない程に攻める彼。それでも嫌という気持ちにはなれないのは、決して口にはしないもの、孤独を心の何処かで恐れているから。

「…………法正、さん。」

「…………はい。」

低音で無気力な返事が部屋にぽつりと消えていく。

「一人で辛さを抱え込まないで下さい………悲しそうな今の貴方の姿、私は耐えられません。……貴方の気持ちが満足するまで、抱いて……いえ、抱かれ、たいです………愛してほしい。」

「…………………。」

寂しさを分かち合ってこそ生涯共にする二人なのだから。ななしは笑って頬に手を添えれば、法正は眉間に影を落として黙りこむ。そうして暫し流れていた長い沈黙を彼は破った。

「らしくもないが、今の俺は気が気ではない。」

「………………。」

「いっそ、貴女を苦しめる輩全員を葬ってしまいたい。だが、それでは悲しむだろう?」

「私が…苦しむ?」

「そうだ、俺といる事で貴女を忌避する人が増えている。そんなの知らない、なんて事は言わせませんよ。」

「…………そんなの、気にしません。」

「俺が嫌なんですよ。何も悪くない貴女が悪党と同じ境遇に落ちてしまうのが。」

「いえ、貴方だけが私を信じてくれれば他には何もいらない……。この世で唯一つ、法正さんの愛する心があれば、私は生きて行けます。」

綺麗事かもしれないですけど、と付け加えるななしの迷いのない真っ直ぐすぎる純粋な瞳、思っているよりも強く気高い意志は酷く心を揺さぶった。

「どうしてそこまで俺を信じれるんです。」

「きっと、誰も知らない優しさを知っているからです。心の底から悪党だなんて、私からはとても……。」

俺に対して心から笑いかける人など、恐らくこの世でななしだけなのだろう。

「だから、これからもずっと傍にいます。誰が何と言おうと生涯かけて支えますから……どうか、抱いてください。」

「…………全く貴女という人は…………なら、それだけ恩を返さないといけませんね。」

熱に侵される身体は重いが、それでも強請られた以上抱けずにはいられない。軽く口付けをし、次第に深く唇を重ねていく。

「今宵は存分に報いよう……。」

吐き出した液の苦味を掻き消して新たに唾液を絡み合わせ、そして空いている手で濡れそぼつ丘をじっくりと愛撫していく。触れる度に反応する身体をしっかりと抱きつつ深く指を挿入させた。

「ひっ、ぅ………っ。」

「痛くないか。」

こくりと必死に頷くななし、法正は出来るだけ傷つけないように指の腹で刺激させた。度々迫る締め付けに応じながら一番好がる場所を探り当て、反応が大きい時を見計らって積極的に攻め立てていく。

「あっ……!」

「ここか。」

指の動きを速めて掻き乱せばあっという間に頂へと登り詰めて果てる。この身に全てを委ね快楽に蕩う姿はなんと愛おしいものか。引き抜いた指をなぞり立て溢れ出す液を掬い取り、薄く引く銀糸をじっと眺めた。

「貴女が望むというのであれば、その身に俺の子を孕ませよう。」

そう告げれば顔一面に満悦らしい笑みが浮かぶ。それを肯定と取った法正は頭を撫でて再び熱を持ったそれをゆっくりと挿入させた。久しく挿れた故に中は狭い、彼女を出来るだけ苦しませない様に少しずつ慣らしていく。

「っ、あ……っ。」

喜悦の声を上げて求めるななしと手を重ねて欲のまま律動する身体をぶつけ合う。目に涙を浮かべているのは果たして喜び故になのか、法正は無我夢中に突き上げて何度も欲を中に放ち、体中の精が尽きてしまうのではないかと思う程に彼女を夜が明けるまで抱き続けた。会えなかった日々を一夜にして埋める様に。






















「法正さん、薬です。」

案の定風邪をこじらせた。それもそうだろう、長時間雨に濡れた身体で朝まで情事を行ったのだから。ななしは昼食と薬を置いてこちらを心配そうに見つめる。

「昨日の無理が祟ったんですね……。」

「そのようですね、お陰様でまた返す恩が増えましたよ。」

「もう、こんな事態にまで報恩報復を持ちかけないで下さい。今は自分の身体を治す事に専念して下さいね。」

寝起きで乱れた髪を直し、ゆっくりと撫でる手が不思議と心地がいい。久しく触れていなかった所為でもあるのだろう。

「それでは俺の信条が。」

「信条もへったくれもありません!」

ぴしゃり、と叱咤されれば流石の法正も言い返す気などなくなる。だがそれがいいのかもしれない、こうして分かち合える人がいる事が何よりも幸福なのかもしれないのだ。

「やれやれ、貴女には敵いませんよ。」

「はい、時には女だって強いんですからね。」

それは法正が今吐いた言葉に対して言っているのではない。彼女に起きている出来事に対して抗う台詞であり、何も心配はいらないと言っているのだ。

「ええ、そうですね。」

今は噂や忌避だけに過ぎないが、今後直接手を加える事があるのなら容赦はしない。彼女が見えぬ所で暗躍しよう、誰にもしれぬようそっと劇薬を盛り付ければいいのだから。




(風邪が治ったら何処か出掛けるか)

(はい、楽しみにしていますね)