知れぬ男の事情

「………………っは…………。」

男の低く色っぽい声が暗い部屋に木霊する。口に含んだ布で極力声を押さえてはいるが、口端から呆気無く漏れてしまっている。布に染みる唾液に刻まれる歯型、そして下からは淫する音、法正は自らを慰めている最中だった。

「…………くっ、……ななし……。」

ある女の名前を呪文のように呟いて、気持ちを高ぶらせては一気に頂点へと上って行く。刹那、脳がびりびりと麻痺し、くらりと目眩が襲って来たと同時に吐出されるねっとりとした白い液体。

「…………っ………………。」

ああ、またやってしまった。法正は自らの汚れた手を見て嘆息する。彼女を想うがあまり行為に突っ走ってしまう事が頻繁になってきてしまっているのだ。噛んでいた布の端でその液体を拭き取り、寝台に敷いていた布を取り払う。逝った最中で片付けるのも億劫だが、誰かが来た時にこれでは流石に不味い。

しかし、募るは彼女への強い恋情、逸る気持ちを押さえようにも自身の熱は再び帯びていってしまう。

「……………ああ、愛とは厄介なものだ。」

処理が追いつかない事に面倒さを感じていると、外から小さな物音が響く。そして控えめに扉を叩く音。

「法正様……いらっしゃいますか?」

びくり、と身体が震える。彼女が此処へ来る事は想定しておらず、どう行動を取ればいいのかと頭は真っ白だ。少なくとも己がしている行為を見られるのは面倒だ、早急に片付けなくては。
いや、居留守を装えば問題はないか、法正は息を押し殺して彼女がその場から立ち去るのを待ち続けた。

「いらっしゃらないのですか……。」

ななしの落ち込んだ声がやけに耳に染みこんでいく。折角会いに来たというのに、顔を見せる事が出来無いのは心底……

「…………っ、」

その瞬間、手が何かに当たり誤って物を落としてしまった。

「………?やっぱりいるんですか法正様。」

ゆっくりと扉が開かれて淡い光が漏れる。咄嗟に大きな布で自身を隠してななしの方へと一直線走り込み、その手を掴んでは乱暴に引きずり込んでいった。

「きゃ………っ!」

「いいかななし、何も言葉を発するな。」

ななしは掴まれる手に違和感を感じていた。僅かに香る独特な臭いと、粘液のような何か。

「法正様…………?」

「黙って、ろ…………。」

鈴のような声が鳴る度に理性が崩されていく。こんな事はしたくないが、やむを得ない。

「…………………!」

暗い部屋に目が慣れた頃、ななしの目に映るのは法正の乱れた衣服に飛び散った白い液体。彼女は瞠目させるが、それ以上は何も反応を示さなかった。

「………あの…………。」

「……ああ、馬鹿にしても構いませんよ。満たされないとこうするものなんです。」

「いえ、その………私の所為で、こんな……。」

「お気になさらず……貴女が駄目というのであれば、俺は気長に待ちますから。」

嘘、気長になど待てないからこんな寂しい行為を繰り返している。恋仲になってからと言うもの、情事一つまともに出来ていない。と言うのは、彼女にそれだけの覚悟がまだ無いらしく、もう少し待ってほしいと言われたからで。

「覚悟がない半端な状態で貴女を抱きたくはありませんからね……今はこれで良いんですよ。」

「…………法正、様。」

怯えるわけでもなく彼女の、何処か凛とした声が響き渡る。虚ろな目をそちらに向けると、空いている片方の手で衣服をずらすななしの姿。

「………冗談でしょう?」

「冗談なんかではありません。愛する人の苦しむ姿を見せられて……覚悟を決められない訳がありません。」

するり、と躊躇なく脱ぎ捨てれば白い肌が現れ、ふくよかな胸が小さく揺れる。茫然とする法正は思考を停止させ、黙って見る事しか出来なかった。

「いずれ訪れる道です……それに、貴方でしたら……私は幾百でも抱かれたい。それだけ法正様を愛していますから。」

戸惑いながらも艶やかなる裸体を彼に寄せ、甘ったるい息で頬を擽ったくなぞる。当然それに耐え切れる法正でない、瞳を揺らして唇を噛み締めた。

「…ああ………無理はいけませんよ………俺の事はどうか」

気にするな、と言うはずだったのだが、柔らかな唇がそれを拒んだ。視界を埋め尽くす彼女の顔に、理性は遂に音を立てて崩れていった。

首筋に舌を這わせて、下から上へとなぞれば初な反応を見せる。片方の手で柔い胸を包めば喜悦の声を小さく漏らした。

「ん……っ………。」

「………………、」

耳元で喘がれる度に刺激される下腹部、法正は己を呆れる様にせせら笑い、気を紛らわす為に胸の頂を指で軽く摘んだ。案の定身を捩らせて両脚を擦らせる。

「もう、欲しいのか……?」

「……んっ……!…言っちゃ…駄目………。」

欲しいのはお互い様、法正は焦らしながらも何とか逸る気持ちを堪える。急いて彼女に負担をかけまいと。

ふと無意識であろう、狼狽える彼女の手が根に当たり、一層強い刺激が与えられる。当然それに耐え切れない法正は苦悶に息を吐き、眉間に深く影を落とした。

「全く…………わざとですか………。」

「え、あ……やだ……!ごめんなさ……!」

しかし離れようとする手を制止した。

「ああ、このまま耐え切れと……?随分と酷な事を強いるんですね……。」

「そんなつもりでは……っ……。」

目を白黒させて戸惑いの表情を浮かべるななし。未だ細い手に当たる熱は、それに比例してみるみる膨張していく。直接伝わる感触に顔を真っ赤にしない訳がなく、あっという間に耳まで紅潮させた。

「そ、その………っ、貴方の………これは………どうすれば………。」

「どうすれば治まるか……ご存じないのですか?」

「だって……経験した事一度も無いですから……男の人の仕組みは何も……っ。」

勿論それ位は知っている、彼女を困らせる為にわざとこうして問うているのだから。しかし目を泳がせて必死になる姿が何とも可愛らしい事か、法正は口角を僅かながら上げて笑った。

「そうですね、手段としては……貴女の手口で、ご奉仕という形になりますが……どうでしょう?」

「………っ、初めて知りました………ですが、それで法正様が楽になるのであれば……私は……。」

布に隠れる男根を取り出し、そっと両手で包む。それだけで十分な刺激を得る訳なのだが、吐き出さぬよう懸命に堪え切る。

「……どんな動きでも、構いませんよ。」

言われるがままななしはゆっくりと上下に扱き、手に纏わりつく粘液で潤滑に行為を進めていく。見た事のない、した事のない経験に驚きながらも、必死に奉仕を行った。そうしていく中で、徐々に彼の色っぽい声が放たれていく。

「ん、く……………はっ……………。」

「だ、大丈夫ですか……法正様……?」

「構わず、続けて下さい………。」

顔色を伺いながら、時々顔を近付けては舌で優しく舐め上げ、あらゆる形で絶頂へと導いていく。その度にぞくりと身体を震わせて艶かしい表情を魅せる法正。
そうして限界を迎えた頃、法正は無意識にななしの後頭部を押して男根を口に挿し込んだ。当然えづかない訳がなく、ななしはそのまま吐出された精液を喉の奥まで流す事になる。

「…………ん………ぅ……!!」

「……………っは、…………悪い………!」

中に出すつもりはなかったのだが、何処か支配欲に駆られてしまい、意思とは裏腹に大胆な行為を強いてしまった。彼女は噎びながら余った白濁液を口端から垂らしていく。流石に不味かったか、と不安が過るが

「…………良かった、ですか……?」

それでも決して怒る事なく問いかけるななし、彼は己に憎悪を抱きながらもそんな彼女を強く抱き締めた。

「すみません、俺とした事が。」

「えっと……いいんです、初めての経験でしたから……下手だったかもしれませんが……。」

口内に放つ事はなかなかする物ではない。下手な事を教えこまないようにしなければな、と法正は小さく溜息を吐いた。

「貴女を見ていると、狂ってしまいそうですよ………。」

「それはどういう……。」

抱き寄せた身体を押し倒し、開ける衣類の隙間から手を侵入させると、割れ目からはすっかり受け入れる為の液が滲み出ていた。

「奉仕で感じてしまいましたか。」

「………ご……ごめんなさい………。」

「別に謝らなくて結構、寧ろ嬉しいですよ。」

間に指を滑り込ませて中を弄る。そこは誰も受け入れた事のない聖域があり、挿れるには少々苦戦するかもしれない程に狭い。膜を破らぬよう、膣を広げて爪を軽く引っ掛けるとななしは高い嬌声を木霊させた。

「あぁ………!」

「液は十分に満たしてはいるが、はてさて……受け入れてくれるかどうか……。」

脚を大きく広げればななしは恥ずかしそうに瞼を閉じて顔を逸らす。あられもない格好に羞恥を感じてしまうのは分かるが、今更止める事など出来はしない。

「痛かったら、俺の腕でも抓って下さい。」

再び根を出すと、そこに宛てがって肉壁を押し広げていく。案の定痛みに声を張り上げて涙を流すが、後戻りは出来無い。膜を引き裂いて押し込めば、半端無い締め付け感が襲いかかり、動く前から逝ってしまいそうな勢いだ。

「力抜け………!」

「無理っ……無理で、す………!」

絞り尽くされるのではないかという快楽を前に法正はくらりと目眩を引き起こした。何とか意識を保たねば、息を大きく吐いては腰を引いてゆっくりと律動を始める。

「んっ、や………ぁ……!」

「嫌な訳、ないだろ……?どうせ気持ち良くなる……!」

抜き挿しを幾度も繰り返していけば、恍惚とした眼差しでこちらを真っ直ぐと見つめるななし。その口からは先程浴びせた白い液と混ざった唾液が零れている。激しい律動に口すら閉じる事を忘れ、ただ甘美な声を奏でる事しか出来ないのだ。

「あっ……あぁ……!」

「嫌だと背いていた目も、すっかり病み付きになってますよ。どうやら素直に快楽を得たようだな。」

濡れる唇に唇を重ね、深く喉に入り込みそうな勢いで舌を侵入させていく。生暖かい舌と苦々しい液を存分に絡み合わせ、緩やかに摩擦を起こしていく。息をするのも忘れ、互いが互いを求め合い、容赦無く突き上げる衝撃に快感を呼び起こす。

「あぁ………っ、変なっ、感じが……ぁ!」

「それでいい……徹底的に逝ってしまえ!」

今後は心置きなく彼女を愛し犯せる、法正はその悦びに喉を鳴らして渾身の力で突き挿した。すると彼女は脚を伸ばして弓なりに反らすと始めての絶頂を迎える。続いて彼も逝ったばかりの彼女の中で幾分か腰を揺らして果てを迎えた。
漸く彼女の中で吐出す事が出来、行く先の決まった精子を流せる満足感に乾いた笑い声を漏らした。

「これで、貴女を存分に愛せる……これ程嬉しい事はないですよ。」

未だ繋がる場所からは、血を含む混合液が止めどなく溢れていく。激しさを物語る様に液には撹拌して生まれた泡が混じっていた。

焦点が合わない彼女の目は天井を仰ぎ、酸素を求めるように胸辺りを上下させている。

「法正様…………。」

「大丈夫か。」

「………はい、少し痛い…ですけど。」

感じた事のない下腹部の満たしに、ななしは静かに瞼を閉ざす。法正もまた彼女の頬を撫ぜてじっと見つめた。

「………婚姻しませんか。」

唐突ながらそう言えば、彼女は驚きながらも微笑んで手を伸ばした。その手を掴んで緩く指を絡ませる。

「はい………喜んでお受けします……。」

恋仲でいるよりも更に距離感が縮まるだろう、そして悪党の妻となれば誰も彼女に近付かないだろう。ななしは生涯誰にも触れさせない為にも、傍に置いておきたい。

「あの、法正様……。」

「……なんだ。」

「一人で……抱え込まず、頼って下さいね……?」

「ええ、勿論これからは色々と頼りますよ……。」

慰めの日々から抜け出して、貴女に深く依存する為に。




(さて、貴女のその言葉に甘えてもう一度しますか)

(ええ………!これ以上は私の身体が持ちません……!)