薬の効果

「…………………………。」

風邪に良く効く薬を調合した筈が、どうにも体中の熱が治まらない。むしろ悪化しているというか、兎にも角にもまともに息をするのもやっとだ。法正は苦しげに咳しながら仰向けに寝転がった。

「やれやれ………よもや相当重症な風邪か……?」

視界が霞む、というより視界が滲んでいる。どうやら生理的に溢れる涙が眼球の膜を覆ってしまってるようだ。風邪をひくと目が潤むとは言うが、いや、どうにも全てが可笑しい。

「………ああ、こんな時に疼くなんて滑稽だな…。」

異様に下腹部が疼いて、みるみる熱くなっていくそれ。誰もいないし何も考えていないのに勝手に欲情するとは何事か。

「まさか………な。」

薬の作り方を間違えた、原因はそれか。誤って媚薬…もとい精力剤に近い薬が出来上がってしまったというのであれば、この身体に起こる異常は納得出来る。

「………くっ…………。」

我慢ならぬと言わんばかりに痛みが現れ始め、苦悶の声が虚しく吐出される。一人でどうにか出来たらいいのだが、風邪もこじらせている所為か慰める気力も沸かない。

だらんと腕を伸ばして深呼吸を繰り返し、瞼を閉じて必死に現実逃避を図ろうとするが

「…………………。」

ふと、瞼の裏に映し出されるは恋仲であるななしの姿。こんな厄介な時に彼女が現れたら、当然気持ちは落ち着くどころか抱きたい衝動に走ってしまう。

抑えろ、わざと咳き込んで何度も空想を吹き飛ばそうとするが、感じやすくなっている身体は素直に反応してしまい、可笑しな声が発せられた。

「………っ………ななし………。」

時間が経過する毎に息遣いは荒くなるばかり。胸を強く押さえると重い身体を引き摺るように扉の前に立ち尽くし、

「悪いが………お前にしか、出来ない。」

覚束ない足取りと無我夢中さで彼女の部屋まで足を運んだ。灯りが見えるという事はどうやらまだ就寝していないようだ。

「…………………。」

いる事を確認する事なく無断で部屋に入れば、寝る支度をしていたであろうななしが驚きに目を見張って苦しむ法正を見上げた。

「ほ、法正さん……!?どうしたんですかこんな遅い時間に……!それに、顔が紅潮して苦しそうです……!」

慌てて梳かしていた櫛を放り投げて彼の元へ駆け寄れば、火照る頬に己の手を宛てた。

「これ……凄い熱が……!待ってて下さい、今効き目のある薬を用意ーー」


どさっと何かが倒れる音。気が付けば、彼女の身体を組み敷いていた。


「…………って……法正さん!一刻も早く休まないと……!」

「ななし…………。」

己の中の血が煮え滾るように熱が暴発している。痺れるような陶酔感、これがもう風邪なのか何なのか分からない程に理性が狂いに狂っている。

目の前で開けた衣服から覗かせる白い肌にぞくりと脊髄が粟立ち、真っ赤な舌を突き出してその柔肌に吸い付くと、彼女もまた悲鳴に近い声を漏らした。

「ひゃっ………どうしたんですか……ん……!?」

「どうもこうも……変な薬を飲んでから、貴女の事ばかり考えてしまうんですよ……。犯したくて、頭がどうにかなりそうだ…………。」

「一体、どんな薬を飲んだらそんな事に……!」

「ああ、何処かで調合を間違えてしまったんでしょうね……風邪もある所為で色々吐きそうですよ……全く……。」

まるで他人事のように吐き捨てる法正。ゆっくりと濡れた舌を下ろして胸の飾りを舐め上げれば、膨れていた突起はぎゅっと硬さを帯びる。ななしは頬に含羞の色を浮かべ、止めてと何度も首を振った。しかしそれを否定出来ない自分も奥底で潜んでおり、頭を掴む手はゆるゆると力が萎えていき、指先のみしか動かなくなった。

「…あっ…。」

「……っふ……その声、聞く度に痛みが増しますよ……。」

虚ろな瞳の中で尚射抜くような鋭い眼光に、ななしも思わず喉を詰まらせた。

「何処か……痛むのですか……。」

「さて、何処でしょうねぇ……。」

げほ、と何度か咳き込めばななしは不安の表情で法正の胸辺りを優しく擦った。

「まさか喉が……無理しないで下さい……寝床用意してありますから、良ければ今日はここで寝て下さい。」

「……………………。」

こんな興奮状態で寝ろというのは生殺しにも程がある。喉を抑えながらも法正は彼女の後頭部を引き寄せて荒々しく口付けを施した。

「……んっ…!」

「…………こんな、半端な状態で……寝れるか………。」

くちゅ、一度聞くだけですぐに感じてしまう厭らしい水音。暇を持て余す左手で彼女の下腹部に手を這わせれば、身を捩らせて胸板を叩き始める。が、あまりにも弱々しい叩き具合に何の痛みも感じない。

ぐっと下着をずらして指で弄れば、そこは思っていたよりも水濡れしていてぬるりと生暖かい。

「ん………ぅ……!」

「受け入れる状態では、あるようだな……。」

前戯の余裕がない法正は、雄々しく痛々しい魔羅を解放して深々と突き刺した。よく濡れているお陰か、摩擦抵抗はそれほど無く内部の粘液とよく絡み合う。

「そんな……っ、いきなり……あぁ!」

「呑気に話し込んでる……余裕は、ありませんからね………。」

前後に律動する度に締め付ける感覚が襲い、吐出寸前の法正にとってはそれが快楽に潜む苦でしかなかった。無意識に彼女のがくつく脚を上げては押さえつけ、何もかもが顕になった状態で出し挿れを繰り返す。されるがままのななしも成す術なく、激しい打ち付けに死物狂いで応えた。

「………はっ………堪らないな……犯す感覚が……!」

ずぶずぶと泡混じりの液体が飛散し、彼女の綺麗な寝台はすっかり変わり果てた姿に変貌を遂げていた。声を抑えようと手で覆い隠そうものなら法正は決して許さない。打ち砕けんばかりに突き上げ、何度も甲高い嬌声を喘がせる。

「あぁ……法正、さ……!」

「………………っ…………。」

締め付けに脈を打ち、これが一回目。薬を飲んでからだいぶ時間が経ったが、どうやら猛威は収まらないようだ。白濁の液体を奥に注いでも冷めやらぬ根は、狭い壁を押し広げるように再び膨張する。

「あ……嘘……っ……待って、それ以上……!」

風邪の影響か射精後の気怠さか、頭痛と目眩が襲ってななしの姿がひっくり返っているような錯覚を起こす。法正は何とか意識を保とうとゆるゆる腰を動かし始めた。

「まだ………冷めないんですよ………まだ………。」

譫言のように呟く彼は、もはや現世とあの世を彷徨う霊のようだ。それでも逞しい肉体には色気を感じ、ななしの心を擽らせる。果実のように熟れた唇に鋭く凛々しい目、筋通る高い鼻、見れば見る程にそれら全てに惹かれ、彼が病人でありながらも最後まで愛されたいと思ってしまった。

風邪で苦しむ事と収まらぬ興奮状態で苦しむ事、少しでも楽に出来たなら。

「………来てください………貴方の中の熱が冷める、その時まで……。」

頬を両手で包んで優しく口付けを施し、首に巻き付いて短い髪を撫でた。

「………ああ。」

自分を嘲笑うように、法正は低く返事をした。かろうじて残る意思が自分の行いを悔いている。しかし、この状況を打破するには彼女しかいない。

「………愛してますよ……ななし………。」

例えこの衝動が失われたとしても、次は必ず優しく抱こう、と。





















「……………死にそうだ…………。」

体中の精を絞り尽くしたと言っても過言ではない程にななしを散々抱いた。気が付けば彼女の意識は吹っ飛び、それでも人形のように草臥れた身体に痕を数えきれない程残し、下腹部に入りきらなかった液体が無限に溢れて無惨な状況。

「…まず…起き上がれるかどうか……だな。」

普段では有り得ない位の量が彼女の中に吐出され、このままだと確実に孕んだかもしれないと法正は気怠い身体を倒して深々と息を吐いた。子を作るのはもう少しばかり後と考えていた為に、敢えてあまり行為をしていなかったのだ。するとしても外に出していたので、これは想定外の事態である。

「ななし。」

「…………はい………。」

声はすっかり枯れて、短い返事をするのもやっとだ。ななしは何とか身体を起こそうと上半身に力を入れてみるもの、うんともすんとも。それを見て法正は渋い顔をした。

「……………悪かった。」

「いえ………それより治ってよかったです………風邪の方はまだありますが………。」

薬の効き目がなくなったのは夜明け近く。それまで立て続けに欲情してたとなるとつくづく恐ろしい。腰が痛い程度では済まされない筈だ。

「ご安心を…二度とあんな薬飲みませんよ………。」

自分で作ろうと下手な知識で挑んだ己が馬鹿だった。

「……はい、今度は理性のある状態で愛してくださいね。」

柔らかい微笑みを見せるななし、それに応えるように法正は優しく抱き締めた。







(なんと法正……酷く窶れた顔だが、大丈夫なのか)

(ええ……少しばかり寝不足でしてね。風邪も若干ありますし、ご心配なく)

(そうか………(這いずってななし殿の部屋に行く所を目撃してしまったのだが、それと何か関係があるのだろうか))