一途

「賈充様……私を抱いて下さい。」

か細い声で囁いて女は穢れ無き清らかな上半身を曝け出す。賈充と呼ばれる男は眉を顰めてその女の姿を蔑む様に射抜いた。

「……俺はお前を知らない。何処の愚かな遊女だ、もしそうだとすれば興味は無い。」

「遊びではありません…貴方を慕っているからこそ私は全てを委ねたいのです。誰も触れた事のないこの身体を捧げたいのです。」

ふくよかな胸は月に照らされその輪郭をはっきり映す。女は甘い吐息を男に吹きかけ、細い指を頬に滑らせる。

「俺がそんな安い色気で釣られると……殺されたくなければ冗談も大概にするんだな。」

「これが冗談であれば、私はいとも容易く死ねます。」

男は拒絶していたその身体に触れる。するとぴくりと跳ね上がる引き締まった四肢、彼女は嬉々と笑みを浮かべた。

「その気になったんですね。」

「くく……そんなに欲求不満なら、それに付き合ってやらん事もない。」

乱れた黒髪を掻き上げて彼は不気味に笑う。それを見た女は胸を高鳴らせて途中だった服を全て脱ぎ、身体全体を密着させた。胸は柔く潰れて硬くなった突起が厭らしく当たる。

「一夜なんて…焦れったい…私はずっとお側にいたいんです……こんなにも好きになった人は、貴方が初めてですから。」

男の纏っていた服をゆっくり開けさせ、鎖骨辺りを舌でなぞる。唾液を含ませた舌を移動させる度蝸牛の様に液跡を付けていった。

「ん、………。」

ぞくぞくと身体を震わせて次第に脚を擦りだす。それでも何食わぬ顔で眺める男。

「自分でやって、感じてるのか。」

「は、い……っ……。」

声に反応した彼女は彼の下半身に跨がり膨らみに触れる。しかし賈充は情を宿す事なく至って冷静だった。

「……貴方は何も、感じないんですか。」

「………ああ、俺は何も感じない。」

酷く乾いて冷め切った黒い瞳は目線を外して外に見やる。

「そん、な。」

彼女は酷く落胆し、それを見て彼は三日月の様に口に弧を描く。そして低く、くつくつと笑った。

「言っただろう…付き合うと。だがそれは勝手に満足して帰ってもらえば良いと言う解釈だ。誰も俺からお前と交わるとは言っていない。」

賈充は懐から刃を取り出してそれを彼女の首元に宛てがった。女は小さく悲鳴を上げて硬直する。

「俺の身体を犯していいのはななしだけだ、お前ではない。」

名指しするななし、と呼ばれる女の存在がふと頭に過る。浮かぶは彼の後ろに付いていくあどけなさを残した少女。笑顔を振り撒いて彼を誑かし、心を虜にした憎たらしい女。

「あの女の………何処がいいのですか。私なんかよりも醜くて、弱そうで、つまらなそうな女の…!!」

「そう陰口を叩くお前はどうだ、その方が余程醜くて、弱そうで、つまらないと思わないのか。っく……実に浅はかでその言葉が今のお前にぴったりだ。

………今度俺の女を穢してみろ、その時は」

真っ先に嬲り殺してやろう、と冷徹さに何処か怒りを含ませた瞳で言い放つ。女は蛇に睨まれて石にされた様に動かなくなり、息も出来なかった。本当に殺しかねない、嫌な汗が噴き出して流れる。

「あ……………。」

「さぁ、もう一度言え……好きなだけ言っていい、その時に首は胴体と繋がっている保証は無いがな。」

その言葉に彼女は直ぐ様退き、床で四つん這いになって必死に部屋から離れようとする。手足を懸命に動かして命からがら立ち去るそんな姿を見て賈充は満足そうに笑んだ。それを一つの壊れた玩具として愉しむかのように。



「…………公閭様…?」

名を呼ぶは控えめな女の声、それを彼は聞き逃す事なく嬉々と返事する。女が逃れていった反対側からやってきたのは先の彼の言葉に名が上がった少女。
長い髪を靡かせておどおど顔を覗かせる。

「あの………先程の方は……。」

暗闇に溶け込む彼は妖しく笑んだ。

「ああ、馬鹿な女だ…気にするな。」

その言葉に一瞬戸惑うが、賈充は手招きしてななしを側に誘き寄せる。恐る恐る歩み寄るその身体を痛い程抱いて首元に顔を埋めた。

「こ、公閭様…!」

「くく……そうだ、いつだって俺はお前でなければ駄目なのだから。」

歯を立てて軽く甘噛みすれば、ぴくりと肩が上がり反射的に目を閉ざす。

「…っ、どういう事でしょうか…私でなければ駄目というのは……。」

「簡単な話だ、生涯共にする女……それしかない。」

「………!…えっと……その、いきなりすぎて……なんと言えばいいのか…。」

突然の告白に頬を染めて目を逸らす。それでも彼はじっとその赤らめた顔を見続けた。

「そうだ、そういう初心なお前だからこそだ、余計に犯したくて堪らなくなる。」

そう呟いて彼女の唇を貪った。噛み付くように、求めるように舌を入れて歯をなぞりあげる。すればななしの全身にこもる力はだらんと抜けてそのまま倒れるように身を委ねた。

「ん………ふっ……!」

「そうだ……ななし、その素顔をもっと見せろ。無垢な姿に隠された本能を、白い花から零れる甘い蜜を。俺の闇に相対して照らすのは」

いつだってお前なのだから。胸から首にかけてその朱い舌を長く、艶かしく這わせた。















「…………っは、ぁ。」

「くく、いい目だ……その情を含ませた麗しい瞳は俺をこんなにも踊り狂わせる。」

腰のぶつかる音が激しく響き、結合部からは水音と白濁した液が止めどなく溢れ出ていく。ななしは顔を真っ赤にしならがらも必死に首を絡ませて応える。ぐちゅ、と鳴らす度に潤う瞳を揺らして恥ずかしそうに顔を隠した。

「顔を見せろ……。」

「……駄目、です。」

「そういうのなら俺にも手がある。」

敢えて自分の身体を後ろに倒して彼女が上に跨る様な体勢にする。両の腕をきつく押えて抵抗出来ずに顔も逸らす事が出来ない様にした。

「お前の淫らな情事がよく見えるな。」

「ん…そんな……っ。」

「ほら、動かないと終わらないぞ……。」

珍しく汗ばんで色気を出す賈充に目を奪われてしまう。ずっとこのままなのは流石に不味い、しかし目の前で自分の身体を求めて動かすのは消え入りたい位に恥ずかしい行為だ。そう考えていたら無意識に中がぐっと引き締まる。

「………見られる事で中の締め付けが強くなった、余程これが好きらしいな。」

「違いま……す…っ…。」

自分でも加減が出来ずに緩めようとするがそうしようとする度に雑念が頭を巡っていく。次第にどうしていいか分からず不意に涙を流してしまう。それをみた彼は驚いて少し目を丸くした。

「………くく、悪い。少し苛め過ぎたか。」

「………う、………私…こういった事には慣れていないので……どうしていいか分からなくなるのです。泣くつもりはないのですが、ごめんなさい……素直に従えずに。」

言葉を詰まらせながら嗚咽をもらす 。そんな初な姿に愛おしく思う感情がふつふつ湧き上がり、身体を抱き寄せて倒れ込む。

「こう純粋すぎるのも困り者だが、それがいいのかもしれん。」

子をあやす様に背中をさすり、落ち着くまで待った。次第に上擦った声も落ち着きを取り戻すと彼女は首を横に振った。

「………それでも、愛される事は嬉しいんです。公閭様がかけがえなく愛おしい……どうか、許してもらえるのであれば」

言いかけた唇を止める様に塞いだ。

「お前であれば俺は何でも許せる……。安心して全て委ねろ、すれば俺が万遍なく愛し尽くしてやろう。」

こくりと頷いて胸板に擦り寄る。そんな彼女の後頭部を抱いて頭に口付けを落とし、再び腰を揺らし始めた。
























「………公閭様。」

上半身を起こして眠りについている賈充の名をそっと呼ぶ。

「こんなにも人を好きになったのは死ぬまで貴方だけです………心から、愛しています……。」

誰にも触れさせたくないという独占欲、先の女の行為を見ていたからこそ言える言葉。

「ですがあの方も、強く思い慕っていた……貴方を心から好いていた……故に、私は……。」

切なく、そっと目を閉じる。


「故に、何だ。」

「………!」

ずっと起きていたかの様にぱちっと目を開ける。てっきり寝ていると思っていたななしは驚いて退くが、彼の手がそれを阻む。

「………見ていたのか。」

「………少しだけ…見てました。」

「愛している、そう言ったのはお前の純粋で真っ直ぐな意思であろう?なのにどうしてそう怯えて、迷っている。」

「………………。」

「俺のお前への言の葉も無に還す気なのか。」

「違います!……だからこそ今言われて漸く決心しました。」

ななしの手は賈充の頬に触れてそっと撫でる。

「もう迷いません、多くの障壁に行く手を阻まれようとも……必ず貴方の光となって、生涯を共にします。」

逸らさず、しっかりと闇色の瞳を見る。すると口元を緩ませ

「そう、それでいい。」

今までにない程の笑みをたたえ、優しく口付けた。



(他者の為に自分を押し込めるな、お前の愛がなければ俺は生きて行けぬのだから)