本気にすればこうなった

「公閭が?」

子上からある事を聞いた。街で賈充が女と歩いているのを見たんだ、と。

「アイツ何か最近コソコソと怪しいんだよな。何やってんだか、こんな事言うのも何だが…賈充は心の中で何考えてるのか分からないからな。気をつけた方がいいぜ。」

肩をすくめ、ま、アイツはお前以外興味無さそうだし大丈夫だろ!とへらりと笑いそのまま向こう側へ行ってしまった。大丈夫なものか馬鹿子上、公閭が女の人といたという前例がないからこそ怖いんだよ阿呆子上。

「どうしたものか…………。」

本人に直接聞く勇気など到底、例えあったとしてもやれば絶対に無事に生きて帰れる保証がない………。
考えれば考える程頭痛が止まない、しかし気になってしまうのが普通。

「偵察しよう…!」

バレないように少し外見を変えて、影で彼の動きを見ていこう。
そして、髪型と服装を変えていざ彼の部屋へ。

「…………。」

公閭の後ろ姿が除く襖の隙間から入る。どうやら一人で執務をこなしているようだ、朝は会っていない…と。

ふと彼が立ち上がった、執務が終わったのだろう、私は急いでその場を立ち去った。

「……………?」

しまった、襖を開けっ放しで逃げてしまった、時すでに遅しだが……。

昼食を素早くすませ、再び彼を偵察、次は街に出るらしい。いつもの黒の衣装を身に纏い門を出たのを確認。

「むぅ………ここからが問題ね。」

「そうだな、こっからが重要だぜ。」

あれ、私、今誰と喋った?
バッと振り返るとそこには子上が、どうやらこっちにはバレてしまったようだ。

「……………おもしろ半分でやってるでしょ。」

「いやー何かお前の事放っておけなくてさ、いいだろ??アイツには言わないから。」

ニカッと笑う彼、あー、もう……ここまで来たらもうどうにでもなりなさい。
溜息つきながら視線を前に戻すと何て事だ、彼の姿がどこにもない。

「………あれ、いない。」

馬鹿子上!!喋っていたら見失ってしまったではないか!!!

「あ、ホントだな」

「ホントだな、じゃないでしょ!?どうしてくれるの…協力しに来たと言うより邪魔しに来たの間違いでしょ!!」

ポカポカと胸を叩くが、彼に反省の色は見えない、それどころか楽しそうだ。
更にこの街は思った以上に広い、一度見失うと厄介なのである。仕方が無いので子上とぶらり歩く事にした(奢れよ)。

「あー、その、肉まんで許してくれ。」

目の前の店に立ち止まり彼が言う。確かに私は肉まんが好きだ、これの兄、子元と気が合うのもこの肉まんのお陰と言っていい程だろう。仕方ない、許すとしよう。

「いいわ、5コで許す。」

「え………。」

刹那、後ろからおぞましい気配を感じた、しかし振り返っても後ろには街の人が歩いてるだけ。気のせいだろうか、出来立ての大きな肉まんをほおばる。隣で財布眺めて子上が泣いている様に見える、これは気のせいだ。

そして夜、私は引き続き一人で偵察、公閭の部屋に行くためひっそり廊下を歩いていると前から見覚えのある人物に出会う。…見つかってしまった、本人に。

「こ、公閭。今日はいい天気ねアハハ………。」

そのまま過ぎ去ろうとしたがそうはいかず。

「外をよく見ろ、雨が降っている。
…街で俺の後を付けていたのを知ってる、一体何が目的だ。」

「別に何も……。」

はぐらかすか、と、ただでさえ目で人を殺せそうなのに、いっそう睨まれると最早庭の池に飛び込みたくなる。怖い、しかし返答しないとただでは済まされない。唇が、声帯が思う様に働いてくれない、蛇に睨まれる蛙とはこの事なのだろうか。

張り詰めた空気の中彼の口が開かれる。

「その後子上と随分仲良さそうに街を歩いていたな。」

「あ………。」

仲良さそうというのは誤解だ、しかしこの事まで知られてしまっている。あの時感じた気配はこれだったのか。正直泣きそうである、しかし公閭に真実を聞かなくては。だが追い討ちをかけるように彼は言葉を続けた。

「子上と交流深められて、俺の事はもうどうでも良くなったか。」

「……違う!!!」

思わず声を張り上げてしまった、私達以外誰もいなかったのが何より幸いであったが。

「子上から、聞いたの。公閭が街で女の人と歩いてるのを見たと。それが本当かどうか知りたくて、…勿論貴方が信用できないとかそういうのじゃない。ただ不安だったから、それで。」

言葉が出なくて止まってしまった。
終わった、私は心の中でそう思った。

「………く、」

笑いにも聞こえるその漏れる言葉、恐る恐る顔を見ると何と言うことだ、笑っている。私は恐ろしさのあまりについに幻覚まで見えてしまっているのだろうか。仮に、本当に、笑ってるとしてもそれはそれで恐怖だが。

「くく………やはりお前は面白い、実にからかいがいのある女だ。」

「は…………。」

からかい?その単語に一瞬耳を疑った。
何がどうなってるの………?

賈充がギシリと足音を立て一歩、そして静かに見下ろす。満足げに浮かべたその笑みは一向に崩さぬままである。

「俺が子上に頼んだのだ。」

「え…………。」

「俺に別の女がいるとなれば、果たしてどんな反応を起こすか。どうやら俺の予想が当たった様だ、平常でいられなくなった、違いなだろう?」

くつくつと口を手で覆い笑う。何と言うことだ、私はだまされていたのか!!こんなに必死に考えていたのが馬鹿らしくなり怒りと羞恥で死にそうだ。

「馬鹿……………!!」

「そんな馬鹿に騙されたお前はどうなんだ。」

「不安だったんだから!!」

逃げるように後ろを振り返るが咄嗟に腕を捕まれ動けなくなった。何度も力を込めたが所詮は男女、振り解けるわけが無い。

「それだけお前は俺に依存してる、それと同時に俺もお前に依存してる。」

後ろから抱き締められとうとう身動きが取れなくなった、恥ずかしさがどんどんこみ上げて、どうしたらいいか分からなくなる。

「ななし以外を愛するなんて有り得ぬ、女がどんなに綺麗に着飾ろうが俺の前ではどれも石同然だ。それに比べてお前は着飾らなくとも十分綺麗だろう。」

ただでさえ低い声で酔いそうなのに、耳元でそんな事を言われてしまったら。

「愛してる。」

深い闇に溺れてしまいそうだ。

(今回のは俺が発案者だ。よって子上がお前の傍にいたのを許すが、別件でお前が他の男といる時などは無性に殺意を抱く。)

(その時はななしに気付かれずそいつを嬲り殺してやろう。)