「ななし、これは何と言う物だ。」
今私は賈充とデパートに来てる。
賈充とは三国志の人物で、朝目覚めたら隣にいるという何とも有り得ない驚きの出会いだった。
この世界についての知識が全く無いので、私がこうして外に連れていく度にどういう物か教えてあげている。
「それは掃除機ですよ。床にある埃や塵を吸い取ってくれるんです。」
「ほぅ…………中々便利な物だな。」
掃除機をまじまじと見つめる彼、機械は1800年前の人物にとっては大変珍しい物だろう。
「そろそろ昼食にしましょうか、時間も丁度いいし。」
分かった、と彼は家電の棚から離れ、私の隣に来る。
そしてレストランに入り席に着く。
「どれが食べたいですか?何でもいいですよ。」
「…………。」
彼が指さしたのは焼魚定食。いつもそうだが、洋食は未知なる物なのか、中々食べようとはしない。
「じゃあ私はオムライスにしようかな。すみません、これとこれ下さい。」
暫くして机に置かれる食事、手を合わせて頂く。
「んふふ、美味しい。」
ふわとろなオムライスに思わず口が綻ぶ。ふと視線を感じたので彼の方を見ると、此方のオムライスを見つめている。
「…食べますか?」
「いや…。」
「いいですよ、良かったら一口だけでも食べてみてください。」
スプーンで掬ってあーん、と彼の口元へ運ぶ。一瞬目を丸くしたが、口を開け食べてくれた。
「…………美味い。」
「本当ですか?良かったです。」
初めて食べてくれた事に私は喜びを感じた。
「賈充、少しここで待っててくれます?その……下着を買いたいですので、すぐ帰ってきます。」
「構わん、行ってこい。」
ありがとうございます、と頭を軽く下げ小走りで下着コーナーに入る。彼を待たせてしまうのは悪いので急いで選ぶ。
「よし終わり…賈充!待たせてごめんなさ…………、」
言葉が詰まったのは賈充の周りに女性が。
「お一人ですか?良かったら私達とお茶しませんか。」
所謂逆ナンパという物か、何と言う小説等で有りがちなシチュエーションだろう。案の定、彼は足を組んで全く相手にしてないみたいだが。
しかし私は足が竦んで割って入れない、何とも情けないのだろう。
「……………。」
「ねぇ?行きません?」
積極的にアピールする女性達の後ろでおどおどする私の姿が見えたのか、彼は立ち上がると彼女達を冷たく見下ろす。そして、
「消え失せろ、お前達の様な女に興味はない。」
そのまま間をすり抜けて私の目の前に来る。
「行くぞ。」
手を掴まれそのまま足早に立ち去る、男女の歩幅が違うせいで何度も足をつりそうになった。
「………賈充、その……。」
「…………。」
その事に察したのか、速度が徐々に遅くなり握る手が緩む。
「ごめんなさい、助ける事が出来なくて。」
「………構わん、ななしに罪はない。」
人気の無い端の方で息を整える。心なしか手と顔が熱い、沢山動いたせいだろうか。
「ああいうのは好かん。それに、お前でなければ。」
「……何がですか?」
何で笑っているのだろう、こてんと首を傾げると彼が私の頬に手を添えた。突然の事に肩がビクッと上がる。
「くく……さて、何だろうな。」
顔が近付き思わず目を閉じてしまった。唇に何か感触を感じる、これはもしかして。
「………………!!」
初めて男性から口付けされた…!!熱い、兎に角熱い。離れるのが分かって目をそっと開ける。
「賈充………!!ここ、外………!!」
「だから何だ。……ああ、俺にされたのが嫌だったか。」
私は無言で首を横にブンブンと振った。不思議と嫌ではなかった、むしろ嬉しいという感情が正しい。
「……くく……だろうな。」
「今日も楽しかったです、初めてオムライス食べてくれたり、それに貴方の新しいワイシャツも買えましたし。」
「それだけか?」
横目で見てくる彼、その言葉であの事を思い出してしまった。それと、
「……………。このまま賈充が向こうの世界に帰って欲しくない、だなんて思ってしまいました。こんなの、我儘ですよね、貴方には貴方の守るべき物があるのに。」
「そうだな、だがこちらの世界でも、守るべき物が出来た。」
顔を上げると視線だけでなく、しっかり私を見ていた。
「言わずとも分かるだろう。」
日が沈んでいく中、二つの影が一つになった。
(いつか帰る時が来ても、手放すつもりはない。)