「……。」
睡眠を妨げる様な重みがのしかかり、すっかり覚醒してしまった。
暗く薄ぼやけた視界に捉えるのはもぞもぞと動く影。またか、と心の中で大きく溜息を零した。
「怖いのか。」
「………ん。」
布団をくしゃりと握って上半身のみ上に乗っかってる状態。ななしは夜が来るのが怖いらしく、こうしてやって来る事が度々ある。とりあえず気怠い身体を起こし、話し掛ける。
「……いっそこっちに移ったら話が早いんじゃないんですか。俺は歓迎ですけど。」
無言で見てくるが、長い髪が前に垂れて表情が見えない。普通の人間であれば金縛りなどと言う怪奇現象の一つに挙げられそうだ。
馬鹿な話はどうでもいい。今日は激務で疲れも相当溜まっている、早く寝たい気持ちで一杯だ。
「俺は疲れてるんで、だから寝るまで面倒は見れません。」
「…法正がいなくなる夢を見たの……。」
俺がいなくなる夢を見ただけでこの有様か。本当にいなくなった時はどんな顔をするんだか。
夜が怖いに加えて今日は悪夢、何とも参った状況だ。
「平気ですよ、簡単には死なないつもりですから。」
「分かってる……けど、それでも必ずという保証はできないでしょう……。」
「ああ、ご安心を。憎まれる人間程、世に残りますから。」
「憎まれるからこそ誰かから命を狙われたら……。」
「徹底的に報復しますから大丈夫ですよ。」
ああ言えばこう、こう言えばそう、眠い中どうにか考えを巡らせて行きななしの考え事を次々と打ち消していく。声が次第に小さくなっていくのが分かった。
「………ななし。」
返事はない、安心したのかどうやらそのまま眠りについてしまったようだ。しかし乗っかったまま眠るのだけは勘弁して欲しかった。風邪を引かれては困る、布団をゆっくりと引っ張り何とか上に被せるが、布団は生憎一つしかない。
「…………。」
このまま一緒に寝てもそれはそれでいいのだが、明日が色々面倒になる。
「この恩は必ず返してもらうぞ、ななし……。」
耳のそばでそっと囁き、壁に寄っかかって眠りにつく。
「……やだ、私ってば。」
「本当ですよ、お陰で身体の節々が痛い。」
朝になると俺より大分後にななしが目覚めた。態とらしく腕などを擦れば申し訳無さそうに頭を垂れ、口をつぐむ。
「別にいいですよ、全く気にしてませんから。」
「全くを強調している地点で気にしてますよね……ごめんなさい。」
深々と下げる頭をじっと見る。
「ああ、言葉でより行動で示してくれませんか。」
頭を上げればきょとんとななしは首を傾げた。
最も、言葉なんてものはいくらでも出てくるものだ。だからこそ本当に申し訳なく思ってるのなら行動で示せば納得出来る。
腕を掴んで引き寄せれば驚く表情を見せるが当然お構いなし。
「…………敢えて俺は昨日手を出さなかった。」
そう言えば察したのか、一気に火照る顔。理解出来た所で耳をそっと噛めば甘い声が鼓膜に響く。その声が心地良い所為か、ますます責めて攻めたくなる。
「ようやく分かりましたか、全く出来の良くない頭だ。」
「法正……まさか!」
「そのまさかだ、気が済むまでたっぷりと返してもらうからな。」
寝間着から覗かせる鎖骨に唇を這わせ、紅い華を咲かせるのが始まりの合図。
その後の軍議に少々遅れはしたが、気分は驚く程清々しかった。
(法正殿、いつもと違って機嫌良くありませんか?)
(ええ、自分でもぞくぞくします。)