「賈充、どうかしました?」
「………。」
賈充の機嫌が最高潮に悪い。先日の任務が上手くいかなかったのかと問えばそういう訳ではないらしい。
では子上殿がまた面倒だとか言い始めたのかというと、それはいつもの事だと流された。
では何でそんなになるまで怒っているのか、賈充はじろりと睨みつけた。
「鈍感め。」
「え…私の事でもしかしてそんな世界を憎む様な目をしているんですか?」
「お前以外に何がある。」
思い返してみるが、何一つ悪事を働いてはいない。というより働く程ななしは器用な人間でもないのだ。
「無防備にも程がある、弁えろ。」
「……と、言いますと。」
これ以上言えば彼は本気で襲い掛かってきそうだ、しかし本当に見に覚えがないのだからどうしようもない。しかし自然に身体が強張るのが分かった、それだけ事態は大きい。
賈充は薄い唇を重たく開く。
「昼寝をするのなら部屋でしろ。」
昼寝、賈充はななしの何処でも寝てしまう悪い癖を快く思っていなかったようだ。それでこんなに怒っていたのか、自分ではそこまで大した事と思っていなくとも賈充にとってはとんでもないらしい。
「昼寝はいけませんか?」
「そうではない……あんな人の通る所でよく寝れるものだな、俺が通ってよかったが。」
「そんな、私みたいな阿呆な女を襲う者などこの世に」
少なくとも一人だけいる、と口を挟む賈充。
「俺の存在を消すつもりか。」
「賈充はそんな事するはずないでしょう。これだけは確信を持って言えます、貴方は真面目な人間ですから。思えばその時だって襲ってなかったじゃないですか。」
「お前が思う程俺が白に見えるのか。」
ぎしりと音を立て、ゆっくりと近付けば妖艶な笑みを浮かべて笑う。
「見てはいけないんですか。」
「そうだな、見てはいけない。
お前はそうやって白を見るばかりではどうにもならん。黒も知る事は必要だ、くく……言わずとも分かってるだろう?」
なんとなく察しはついた、ななしはそう思っても時既に遅し。賈充とななしの距離は零に等しい。
「当然馬鹿共とは違って理性は抑えている、人前で襲う程俺は愚かではない。何故なら俺は冥い影だからな。
くく……一から身体に教え込んでやる。」
その後、ななしは一切昼寝をしなくなったそうだ。
(賈充の黒を見てしまった)