私が廊下を歩いていると、よく後ろからドンという軽い衝撃を食らう。今もまたそうだ。
「ななしですね?」
「はい。」
後ろを振り返らなくとも分かる、こうするのはななししかいない。
彼女は私をみるや否や背中に抱き着く習性があるらしい、最初は何事かと驚いてはいたが、今ではすっかり慣れてしまった。慣れとは少々恐ろしいものだ。
「文鴦は抱き締めがいがあります。
こうしていると凄く落ち着いて、離れるのがつい惜しくなります。」
腕に力がこもるのが伝わる。
「それに世は戦乱、いつ何が起きてもおかしくはない時代。だからこそ、私は貴方と一秒でも一緒にいたいのです。」
確かに最もな言い分だ、もしかしたらこれが最後になるのかもしれない。それだけ今の世は乱れているという事なのだから。
「私も、そう思ってますよ。貴女と離れるのが怖いと思った事もありますので。でも、後ろからじゃ……。」
腰に巻き付く彼女の腕をそっと離し、向き直る。すると憂いを帯びた瞳でそっと見上げてくる。
「そういえば、貴方は正面から抱き着かないのですね。」
そう言うと頬を染め、俯いた。
「それは…………。」
言おうとする前に彼女をそっと抱き締める。華奢なこの身体は少し力を入れれば壊れてしまいそうだ。
「ならば、私は正面から抱き着きます。」
表情は見えないが、何となく分かってしまう。正直私も恥ずかしかったりするのだが。
「貴女が背面なら、私は正面で異論はないですよね?」
小さく頷く動作が伝わった、なんと愛おしいんだろう。
「なら、会う度にしてくれますか?」
「そ、それは……周りの状況によって、ですかね……。」
「文鴦ってば、これは冗談です。人前ではさすがの私も恥ずかしくて死んでしまいます。」
死ぬのは駄目だ、と再び真剣に答え腕に力を込める彼、私はついクスリと声を漏らした。
(正面から抱かなくとも、とっくに本気で向き合ってた)