雨は滝の様に流れ、雷は怒涛の如く轟く。長く続く不安定な気候の所為なのか、気分や足取りが酷く重々しい。
徐庶はいっそこのまま世界が終わってしまえばいいとすら考えていた。
「どうして俺は君を好きになってしまったのだろう。」
想いを上手く告げられず多くは空回り、他の男と仲睦まじく笑い合い決して独占的に振り向いてくれない。それを見るのが辛くなり、何度部屋に置きっぱなしの書簡を投げた事か。そんな行為が終わりふと我に返ってはしまった、と後悔して、泣いてしまう日々の繰り返し。枕は涙に濡れてすっかり草臥れてしまっていた。
俺はいつから頭がおかしいのだろう、そんな事も考える様になっていた。
「徐庶様。」
部屋の外から聞こえてくるのは君の声じゃない。それでも開けてしまうのはこんな惨めな俺を慰めてくれるから。
目の前に佇むは徐庶の事を大切に想い慕う女性。
「ああ、君か……いつも会いに来てくれるのは嬉しいけど……。」
「今日も苦しんでいるのでしょう……ですから。」
長い髪を靡かせて頬を染める彼女は未だ少女の様な仕草を見せる。
「それに、私は貴方を好いていますから……ずっとお側にいたいんです。」
頬を触れる彼女の手は滑らかで、真珠の様に美しい。それでも、懸命に愛してくれる彼女を愛でる事が出来ないのは何時までも消える事のない光があるから。
「徐庶様………。」
徐庶の僅かに開いた唇に口付けを施し、二人はゆっくりと倒れ込む。彼女は自分の服に手を掛け、絡まった紐を解いていく。開けた服から覗かせるは絵に描いた様な一層美しい裸体。程良く膨らむ胸はしっかりと輪郭を出し、いつの間にか徐庶の手は取られそこに当てられる。
「聞こえますか……私の心音が。」
「…えっと………うん、しっかりと聞こえる、けど……。」
恥ずかしくなった徐庶は思わず目を逸らすが、それを許さない彼女は更に近付き、胸の形を変えるくらいに強く握らせる。そしてもう片方の手で下半身に触れ、男根を取り出した。
「待ってくれ……っ……俺はそんな覚悟……。」
「いえ………私だけを見て欲しいのです……これ以上貴方が苦しむ姿は見たくないから……。」
嫌でも熱を帯びるそれは滑らせる指に反応し、びくっと震える。徐庶は下唇を噛み締めて声を出さぬ様必死に堪えた。
「だ、めだ………頼む……っ。」
「嫌………早く貴方に楽になってほしいの……!」
上下に擦る手があまりにも刺激的で、頭の感覚を鈍らせては狂おしい程の感情が沸いて来る。限界に近いのか、眉間に皺を深く刻ませ、みるみる紅潮させていく頬。
しかし、それでも愛おしい、目には見えぬ、脳裏に焼き付いた彼女が。
「く……っ、は…ぁ……ななし………ななし………っ!!!」
そこにいない少女の名前を何度も叫び、大量の精が放たれる。ちかちかと目が眩む程快感的で、堪らなく癖になりそうだった。
「………どうして、ですか……。」
彼女は呆然として、哀しみに満ちた目を見開く。それもそうだ、側にいる彼女の名前ではなく、別の女の名前を腹の底から叫んだのだから。
「………すまない………君では駄目なんだ……俺は、あの人じゃなきゃ…。」
「何故です!!何も分かっていないあの女を愛するだけ無駄だって事分からないんですか!!私はこんなにも愛おしいのに……死んでも良いくらいに貴方だけが愛おしいのに……!!
私だけを見てください……死ぬまで私だけを愛してください……!!」
分かっている、ななしと結ばれない事くらい、それに比べて彼女といれば永遠に愛してくれるのは重々理解している。幸せは手が届く範囲にある事も。
分かってはいる、分かってはいるのだ。
ああ、それでも、やっぱりこの手は伸ばせない。
「ななしがどうしようもなく好きなんだ……本当に…すまない。」
「……………っ!!」
ついに心の限界が来たのか、徐庶は目を強く閉ざし涙を流した。そして何を思ってか勢い良く立ち上がると、近くに落ちていた布を荒々しく巻いて部屋を飛び出す。
「…待って…徐庶様………っ!!」
手を伸ばせど呆気無くすり抜けて、彼女は何も答える事が出来ずに同じく苦しみに満ちた涙をはらはらと零した。
「…………………。」
針の様に鋭い雨に打たれ波打つ池を眺めて、静かに目を閉ざすななし。こうする事で自分の中に在り続ける複雑な気持ちが浄化される様な気がしたのだ。
彼に言いたい事がある、だけど言えない。彼には既に大切な人が出来てしまっているから。
「………見つけた………。」
少々肌寒くなり部屋に戻ろうと思った矢先、突然放たれた男の弱々しい声。振り向けば涙を止めどなく流し続け立ち尽くす徐庶が目に入る。何が起きているのか分からず言葉を失っていれば、彼は辛そうに顔を歪めて笑った。
「ななし………。」
「徐庶さん……?そんな、涙を流して、一体どうなさったのですか……!」
「ええと、隣……いいだろうか。」
こくりと頷いて彼を隣へ招けば、優しく微笑んで腰を下ろした。何と声を掛けていいのか分からずに暫く静まる空間。しかし次第に涙も収まり、心も不思議と穏やかになっていく。そう思っていたのだが。
「……ああ…やっぱり…愛おしいです。」
「…………?」
ななしの口から小さく出た、理解出来ぬ言葉が雨の音に掻き消される。それでもはっきりと聞き取った、愛おしい、と。一体何が愛おしいというのだろうか。
「………何が、だい。」
「………何もかもがです。叶わぬ願いも含めて、全てが愛おしくて仕方ない。」
「ななし………殿……?」
「好きと言ってしまえたら、楽になれるのに……。」
「…………!」
それは俺以外の男に向けての言葉なのだろうか。晴れやかになっていた気持ちは再び淀んだ感情へと変貌していく。嫉妬、これが強くてどうにもならない程抱きたい衝動に駆られてしまう。
そんな事すれば、きっと君は俺を嫌悪してしまうだろうに。
「好きな人がいるのかい……。」
「はい、とても優しくて、頼りになる人で、でも時々情けない所があって……それでも任された仕事は責任持ってやり遂げる素晴らしい人です。」
「そうか………何だか、似ているな……その、情けない所とか。」
「そうですよね、そっくりです。何もかもが、一つも狂いなく、貴方と。」
そう言ってななしは太陽の様なあどけない笑顔を見せる。
ああ、もう駄目だ、これ以上は聞いていられない。
「ん…………っ、ふ………っ!!」
「ななし…………っ………!!」
怯える彼女にのしかかり、自分の肉棒を口へと押し込んだ。涙を流して必死に咥える姿に唆られ、みるみるそれは熱く膨張していく。
「すまない、もう我慢出来ないんだ……。」
腰を揺らせば時々ななしの歯が当たり、びりっと痛みが走る。それでも止められない程に快感が襲い、勝手に律動する身体。飲み込めない唾液が溢れ、じゅぶっと厭らしい水音を生み出す。
「ぅ…………んぐ…………っ。」
「ななし…………ななし…………!」
眉尻下げて息苦しく名を呼ぶと同時に吐出される精液、口内にどろりと流れ噎びながらも喉を通った。勢い余って飛び散った白濁は彼女の顔全体を犯す。
「は、ぁ…………っ………。」
「徐庶、さ…………。」
先とは違った現実味を帯びた快楽、彼女に見られ、彼女の中で吐き出して。どれだけ依存しているのだろう、君が愛おしいあまり一方的な愛をぶつけている。
しかしそれと同時に背徳感だって覚える、こうして無理に犯す事で抉る様な傷を刻み付けている事だって。
「だけど、君が俺以外の男を好きになる位なら………いっそ………。」
「待って………っ、私は………!」
「手加減は出来ない……俺の想い、今だけでも受け止めてくれ………。」
徐庶は何処からか液体を取り出して己の口に含み、深く口付ける。拒む事も出来ずに流れていくそれは、すぐに効果を現した。不規則で荒い呼吸、目尻に溜まる涙、紅潮する頬、それが何を意味するか……。
「効いてる、ね。」
腰に指を滑らせれば畝って敏感に反応しだす。
「はっ………ぁ…ぅ…っ!」
薬が効いている事を確認し、閉じていた脚を思い切り広げる。曝け出される秘所、押し広げて生暖かい舌を侵入させた。
「やっ………ぁ……っ…駄目ぇ……汚い……っ!!」
「そんな事ない…凄く、綺麗だよ……。」
捩じ込めばぬるりと感じる別の粘液、それは彼の唾液ではない。感じてくれている、分かると途端に嬉しくなってつい温い息を吐き出す。すると即座に反応して震え上がる身体。
「あ、ん……っ……徐庶、さ、ぁ……っ…。」
「ああ……嬉しいよ………俺の行為を感じてくれて……。」
上目遣いで微笑めば、顔を真っ赤にして目を逸らすななし。そして再び行為を続ければその分液は嫌でも溢れていくばかりで。
「ななし………愛しているよ……愛している……誰にも渡したくないんだ。」
「ん……ふぅ………っ。」
舌を絡ませて塞いでしまえば、酸素欲しさに激しく上下する胸。眉間に線を刻み、徐庶の後頭部を強く抱いて掻き毟った。苦しさ故に離れたいのに離れたくない、もっと触れていたい、意識が朦朧する中ななしはそんな事を考え続けていた。
そうしてどちらともなく離れればななしは乱れんばかりに欲した。
「あぁ………っ、早く………貴方が………欲しい…っ。」
想像以上に攻め立て煽らせる台詞、恐ろしい位に薬はななしの身体を蝕み巡らせている様だ。
そんな風に強請られてしまったら徐庶だって黙ってはいられない。未だ萎えぬ己を中へ突き入れれば床を叩きつける様に跳ね上がった。
「あぁ……んっ…!!」
「君の中を俺で満たしてくれ……!」
片脚を持ち上げ肩に置くと、存分に攻めていく。その激しさ故身体は悲鳴を上げ、ぶつかる音は聞いていて痛々しい。
壊れてしまうのではないか、と時折不安に駆られながらも尚行為は続けられる。
「ひぅ………っ、痛……ぃ…っ!!苦し……きもち…っ、徐庶、さ……ぁあっ!!」
「……………は、ぁ………っ!!」
ごめん、目覚めた時から生涯俺を憎んでも構わないから。殺しても決して君を責めないから。
「こんな愚かな俺を………っ、許してくれ…………ななし…………っ。」
苦しみながら、堪えていた涙を伝わせながら、今までの思いをぶつける様に欲は中へと送られた。
「……………。」
今日も綺麗な女性といる彼。仲睦まじく歩く二人はとてもお似合いで、私なんかじゃきっと似つかわしくないだろう。
彼から話しかけてくる事もあったが、側にいる女性の事を気にして控えめな笑顔しか向ける事が出来なかった。
だからこそ告げられない、だからこそ他の人に笑顔を向けて必死に堪えている。愛しいと思う彼だけを見てしまったら泣いてしまいそうだったから。
「どうも、ななし殿。」
「法正さん、こんにちは。」
満面の笑みで答えれば、怪訝そうに見つめ返してくる。きっと彼は察しているのだろう、このやるせない気持ちを。
「いい加減その笑顔やめませんか、見るに耐えかねますよ。」
「そ、そうですか……?私は普通に接しているだけですが……。」
「まぁ、貴女の気持ちは理解しますよ。……あの男も大体そんな所ですし。」
「……何か言いました?」
いえ何も、と肩を竦ませて通り過ぎていく法正。そして離れた所で呟かれる独り言。
「ですが、早く言った方が身の為ですよ。貴女がきちんと想いを言わなければ、何も知らぬあの男は恐らく―――。」
気が付けばななしの意識は完全に吹っ飛び、疲労に項垂れ動かぬ四肢。見渡せば徐庶が付けた赤い花で埋め尽くされて独占しきっていた。周囲も激しい情事を物語り何もかもが滅茶苦茶だ。
「………………。」
何度謝った事か、いや、何度謝っても許される事ではない。好きでもない男に抱かれて、明日から彼女は病んでしまうのではないだろうか。下手したら身を投げてしまうかもしれない。
心と身体に負った傷は決して消えない、それは徐庶が死ぬまで背負い続ける重き十字架。
「……もう一度だけ……君の笑顔が見たかった………。」
手を強く握って、願う様に頭を深く垂れた。
(相思相愛でもすれ違う運命だった)