「どうも。」
朝になり、法正は早速ななしの部屋に顔を出す。
「……!お、驚きました。」
昨日の件がある所為か、ななしは思わずどぎまぎしてしまう。茶を用意しようと立ち上がれば彼もまた部屋に入る。
「中々整頓されてますね。」
「そ、そうですか…?掃除は結構好きですが…誰かに褒められるのは初めてです。」
ぐるりと周りを見渡し、そして彼女にぎらりと鋭い目を向けた。
「今日は悪戯、しないんですか?」
と、態とらしく聞けば途端に動作がぎこちなくなる。
「少なくとも貴方にはしないつもりです……。」
「他の奴にやるのか……懲りませんね。まぁ、嫌いじゃあありませんよ。」
息をつくと同時に湯気のたった茶が差し出される。法正は頂戴しゆっくり一口。
「何故そこまで拘るのです。」
「……理由を言えばきっと、馬鹿にされてしまいますので内密です。」
成程、湯呑みを置いてそっと目を閉じる。そして徐ろに人差し指を立てた。
「…それで話は変わりますが、これから俺に付き合ってくれますか。」
「あ、何処かに行くのですか?」
「街で買いたい物があってな、量が大分多いので荷物運びをしてもらいたいんですよ。
これが今日の頼み事、勿論簡単なので手助けしてくれますよね?」
一週間こういった仕事をこなすだけで良い、確かに楽であるが果たしてこの程度で済まされるのだろうか。
それは日を重ねていくうちに真実が分かってくる。
「分かりました!任せてください。」
「これは……。」
「見ての通り、獣ですが。」
ありとあらゆる獣、思わず悲鳴を上げそうになった。幼い頃に撫でて引っかかれ、それ以来動物が好きではないのだ。
しかし法正は一匹の小さな猫を抱えてこちらに差し出す。
「私………獣…無理です怖いです!!」
「何でもする!と、威勢よく仰ったのは何処の誰でしたっけ。」
「そもそも荷物って言いましたよね!これのどこが荷物なんですか!」
「俺からすれば獣も荷物みたいなものですよ……ほら、早く抱えてください。」
小さな猫と言えど何を仕出かすか分からない。獣は襲うものだ、そう自分の中で決めつけている為どうしても手を伸ばすことが出来ない。
「縄に括られるのとどちらがいいか……ここで決めますか。」
このまま駄々をこねれば本当に獣ではなく自分に縄が回りそうだ。町中で動物達と一緒に歩くのは流石にまずい。
怪我をするのを覚悟で渋々猫に目を向けた。
「それもそれで嫌です…!!
うう……分かりました、頑張りますから…。」
恐る恐る抱えて自分の所に寄せる。
目を閉じてじっと動かなければ不思議と大人しく、毛がふわふわしていてとても心地よい。
「わ…………。」
「思ってるよりも、悪くないだろう。
さぁ帰りますよ。」
他の獣もいくつか連れて法正は歩き出した。遅れを取ることなくななしもその背を追いかけて行く。猫は腕の中で気持ち良さそうに眠りについていた。
馬や鷹など大きな物の中にたった一匹の猫。
「あら、ななし様……その腕に抱えているのは……。」
掃除をする怜が腕に眠る猫に気付いた。
「あ、これは法正さんに頼まれて……。」
「獣を買いに町まで行っていたのですね、お帰りなさいませ。
……ですが、猫も…ですか?」
こてんと首を傾げるが、後者は独り事のように小さく呟いたので彼女には聞こえていなかった。
「まさか獣苦手なのに持たされるなんて思ってもいませんでした。でもどうするんだろう……馬や鷹などはともかく、猫なんて…何かの役に立ちましたっけ…。」
首をひねってそのまま歩いて行ってしまった。どうやら彼女も同じ気持ちだったようだ。
「もしかして……この前皆が話していた、ななし様の獣嫌いを直したいという話を法正様が聞いていたとか……?」
まさかね、と一人で笑ってその背中を見送った。
猫はその日からななしの部屋に住む事になる。
(ななし様が猫と戯れておりますぞ…!我らの願いが届いたようです…!)
(引っ掻いてこないよね…平気だよね…)