離別と私

あれから丸一日経った、誰にも告げていないお陰で今は平和に過ごせている。
彼がいないと忙しくなく、一日がゆっくり出来るのに、何かが虚しい。

「はぁ、後何日こうしていればいいのでしょうか……。」

すると扉越しに女中の怜の声。

「ななし様、私でございます。」

「あ、どうぞ、入ってください。」

いつもの信頼出来る彼女だと分かると言葉だけで簡単に許可を出す。
しかしそれがいけなかったのだ。

「……………見つけたぞ。」

聞きたくなかったその声に身体は一瞬で氷の様に硬直した。

「………法正、さん。」

「ななし様、大変申し訳ありません……!」

怜は必死に頭を擦り付け土下座する。法正はそんな彼女の肩を軽く叩いてその場を立ち去る様に促した。
そして訪れてほしくなかった二人だけの時間がやって来る。

「何故、あんな事を言ったんですか。」

口調は丁寧だが静かに怒りが滲み出ているのが分かる。しかし、間違った事はしていない、聞けない願いだってあるのだ。

「彼女のあの様な表情を見ていたら、とても壊す事なんて出来ません…法正さんと話をしている時の幸せそうな姿があまりにも眩しくて……。」

「俺の、意思はどうでもいいと。」

「違います!私は、ただ……!」

「………。」

理由を聞かずに彼は出て行った。最後の冷たく射抜く瞳は何処か哀しそうで、思わず引き止めようと手を伸ばす。しかし、反応が怖くて触れることが出来なかった。

「………どうして、です。」

再び一人取り残された部屋に暗闇が訪れる。









「法正様。」

「……ああ、姫様、どういった御用で。」

「もう、名前でお呼び下さい。」

微笑んで寄り添う彼女は昨日の縁談の少女。名は沙耶というらしい。あの後何も言う事が出来ずに話はまとまり、この様な状況になってしまった。

「すみません、慣れないもので。」

「そうでしたね、少しずつ触れ合っていけば慣れますから、今はまだ焦らず。」

こういったお淑やかさは恐らく他の男であれば簡単に落ちているであろう。容姿性格に不服な所など何一つ無い。しかし俺は正直どうでもよかった。
最後に見たななしの泣きそうな表情がどうにも頭から離れない、離せない。


「どうかなさいましたか?」

「いえ、何でもありませんよ…お気になさらず。」

そうは言うが、ああ、やけに唇が乾く。
















「先は大変申し訳ありませんでした。」

「もういいですよ、過ぎてしまった事ですし。」

暫くして泣き腫らした怜が戻って来た。恐らく罪に感じて泣いたのだろう、しかし何一つ悪くない。

「全ては私がいけないんですよ、彼の願いを素直に聞かなかったから……。」

「………僭越ながら申し上げますが、法正様は、何か理由があって敢えて貴女に破談の願いを出されたのではありませんか。」

「それは、私が一週間言う事を何でも聞くという約束があるからでは…。」

「いえ、もっと特別な理由で…。」

「………それは一体…。」

「私にも分かりません、ですが……。」

それ以降は黙り込んでしまい、気まずくなった雰囲気を一変させる為にななしは話題を変えて明るさを振る舞った。
そして、その部屋から出て自室に帰った。

「理由………。」

破談、夫婦、その言葉が頭の中をぐるぐると回り続けた。
自分の中でいつも引っかかってる気持ちと、深く関係しそうな気がして。
あの時の怒りに隠れた悲しみ、それが分かればきっと。




(何かに気が付けない自分がもどかしい)