真実と私

「…………。」

鈴はいつもの通り寝転がって気持ちよさそうに寝ている。自分もまた寝台で重い身体を起こせないままでいた。
あれから法正さんはどうなったのだろうか、あの女性といる姿を目にするという噂は時々聞く。
仲良くやっているならそれでいい、きっと時間が私達の拗れた関係を修復してくれる。

「…………こんな事していても、きっと何にもならないだろうに。」

乱れた長い髪を梳いて服装を正す。外は雲一つなく快晴で夏の暑さをより一層醸し出していた。
乾いた喉をすっかり温くなった水で潤して部屋を出る。足が汗ばんで床にぺたりと不快に引っ付いた。

「…………あ。」

どうやら噂は本当らしい、法正が彼女と仲睦まじく、までは分からないが庭を散策している。

「…………良かった。」

本当に良かった、と思っているのだろうか。それならどうしてこんなに泣きたくなるのか。
そう考えて見ていると偶然視線を外した彼と目が合ってしまった。

「…………。」

邪魔はしたくなかったので何事も無しにそのまま廊下を歩いて行く。歩みは無意識に速くなり、気が付けば法正の部屋にまで到達していた。
しまった、と踵を返して来た道を戻ろうとするとそこには法正の姿が。

「こんな所まで、何の用ですか。」

先まで二人でいた筈なのにどういった訳か一人でここに現れた。まさか彼女を置いてけぼりにでもしてきたのか。
間違って来ました、では済まされない程の張り詰めた空気。

「えっと、偶然、こちら側に用があったので。」

「では何故その用を済まさずに引き返すのでしょうか。」

さり気なく付いた嘘は通用せず、痛い所を突かれて口を噤んでしまう。

「………法正さんが、怒っている理由、聞かせてください。」

「理由も何も、貴女が素直に夫婦と言わなかったからですよ。お陰で以前貴女が仰っていた幸せそうな沙耶殿の姿を望まずとも見るようになりました。」

「……私に頼んだ理由、言う事を聞くという約束じゃなくて、もっと別にありませんか。」

「さて、何の事か。…用がないのであれば帰って頂けますか。」

いつも向けられていた優しい目は、今となっては他人を見る様に無関心な目。
それだ、それが何よりも辛い、いつもの彼がそこにはもう居なくて無性に胸が張り裂けそうだ。

彼と共にいた時間を思い出すと、大変な事ばかりだけでなく幸せな事も沢山あった。嬉しそうな顔、怒った顔、面倒くさそうな顔、向けられる全てどれもが心揺れて。
助けてくれた時が一番想い焦がれて。
たった短い期間で、こんなにも触れ合えた。良い所や悪い所を互いに知る事が出来た。

そう正直になれば、答えは簡単だった。




「分かりました………。」




ああ、これは法正さんへの恋慕なんだ。




















「……何故、泣く。」

驚いた法正の顔を見てななしははっと驚く。自分でも知らずに涙を流していたようだ。
止めようと何度も制御を試みるが、それすら出来無いほど悲しみの意思は強かった。

「………馬鹿ですよね、私。」

「…………。」

「ずっとこの気持ちに気付かない鈍感がこの世にいたなんて、恥ずかしくて笑われてしまいます。

貴方が愛おしいという感情に、気付かないなんて。」

「…………!」

驚くのも当然だろう、自分でもそうなのだ。

「……ごめんなさい、今のは忘れて下さい。私の勝手で、一方的な気持ちですから。」

そう言って逃げる様に走った。涙が溢れて視界がぼやけても必死に部屋まで走り抜いた。




(この思いはそっと無くしてしまおう)