「隆景さん、よく似合っていますよ!」
「いえそんな、私よりも貴女の方がずっと似合っていますよ。」
本日ハロウィンと言う事で、ななしは毛利親子と一緒に仮装する衣装を選んでいる。しかし元就は自分より隆景に仮装させたいの一点張りで、結局着させる事は叶わなかった。
「でも……ナースの服って、結構際どいような……。」
「大丈夫です、私はこの通りドクターなんですし、全く違和感なんてありませんよ。」
にこにこ笑う隆景、その手には何故かカルテではなく一冊の書物。「読書好きの医者」と書かれており、非常に中身が気になるタイトルである。
「うんうん、二人共良く似合っているね。」
「元就さん、本当にいいんですか?」
「私の様な年長者が着るのは、少しばかり勇気がいるよ。」
「そうでしょうか……カボチャとか被れば可愛い気がするんですが。」
そう言えば隆景は目を丸くし、そしてクスリと笑った。
「想像してみたんですが……なかなか良いかもしれませんよ、父上。」
「いやはや……恥ずかしいなぁ。せめてカボチャのランタンを持つ、それは駄目かな?」
首をコテンと傾げて聞く元就、思わずその無意識であろう仕草を可愛いと思ってしまう。こっちの頬が熱くなった。
「分かりました。じゃあ元就さん、コレ持ってくださいな。」
元就に中くらいのランタンを渡す。もうすぐ日が暮れるので、このランタンの灯りが目立って雰囲気は味わえるだろう。
「じゃあ行きましょうか。」
そうして三人は賑わう夜の街に繰り出す。薄暗い道に色んな顔したランタンが煌々と灯り、雰囲気は一層ハロウィン気分。
また、店には美味しそうな菓子が沢山並んで思わずななしは目を輝かせた。それを見て微笑む隆景。
「食べますか?私が買ってあげますよ。」
「え、いいですよそんな……っ、それにお金なら私もありますし!」
ぶんぶんと手を振って先に行こうと促すが、彼は「ジャック・オ・ランタン」をモチーフにしたシュークリームを頼んでななしに渡す。外身の顔はチョコで飾り付け、中身はカボチャのカスタードが沢山詰まっており、食べればほっぺたが落ちる程に甘く美味しい。
「カボチャのカスタードなんて初めて食べました……、凄く美味しいです!」
「気に入ってくれて良かった。ななしさんの笑顔が見れるだけで私もお腹いっぱいです。」
「…………っ。」
これで無意識なのだから恐ろしい、何も言えず誤魔化す様に残りのシュークリームを口に入れた。そんな照れ顔を元就は微笑ましく見ていた事をななしは知らない。
「うん、若いって素晴らしい。」
「え、どういう事ですか?」
何でもないよ、と彼もまた店に並ぶ商品に目を移した。
暫く三人で歩いていると、仮装した子供達が大人に向かって悪戯の様な事をしている。どうやらパーティスプレーを彼らに浴びせて楽しんでいるようだ。
黙って見ていた隆景は、ななしと元就の方を見て
「Trick or Treat?」
「へ?」
「お菓子くれないと、悪戯しますよ?」
彼がそんな事を言うとは想像しておらず、慌ててポケットを探る。しかしすっかり頭から抜けていた所為で小道具である注射器と薬しかない。
「………薬、しかないです……これってお菓子の部類にはなりませんよね。」
「私はきちんと用意していたよ、ほら。」
元就はズボンから飴を幾つか取り出す。小さくてもお菓子はお菓子、咄嗟に彼に縋り付き、両手合わせてお願いポーズ。
「今だけ分けて下さい、後できちんとお返ししますから……!」
「うーん、渡したいような……渡したくないような……。」
「父上、それでは意味がありませんよ。という事でななしさん、観念して下さい。」
じりじりと迫る隆景に、ななしはずるずる後退り。その笑顔が逆に恐怖を感じさせて冷や汗が止まらまい。彼は冗談ではなく本気だ。
「そうですね、何がいいでしょうか……女性に卵や小麦を投げつけるだなんて、私には出来ませんし。」
「無害な物はどうかな?例えば……手の甲か頬にキスとか、ね。」
「元就さん!?何意味不明な事言ってるんですか!!」
「確かにそれなら平気そうですが……彼女がどうしても嫌でしたら無理強いは……。」
申し訳なさそうに俯く隆景にななしは何故か否定出来ない気持ちが込み上げてしまう。口にする訳でもない、頬ならばきっと大丈夫、とななしはそっと指で頬を指した。
「い、イタズラ……どうぞ。」
「本当に、いいんですか?」
「目………目、閉じていますから!……早く……。」
「………では、失礼しますね。」
目をぎゅっと閉じてなるべく意識しない様に心がける、が。
「…………っ!?」
頬ではない箇所に熱が集まり、堪らず目を開ければそこには長い睫毛が。数秒で離れても尚放心状態のななし。そう、頬とは少しずれた唇に隆景はキスをしたのだ。
「く、口………っ!」
「すみません、こちらの方が悪戯らしくていいかなと思いまして。……と、言いますより…。」
「…………っ?」
「いえ、続きはまた今度に。」
言葉の続きが気になったが、嬉しそうに笑う彼は何も言わず先に行ってしまった。未だ火照り続ける顔に冷たい手を宛てて温度を下げる。すると先のやりとりを見ていたであろう元就は優しい顔つきで彼女の頭を撫でた。
「君なら、私もきっと安心できるな。」
「………それって、どういう……。」
「さ、今はハロウィンを楽しもう。今日はきっと楽しい思い出になるよ。」
その時は真意が読み取れなかったが、本当の意味を知るまで後少し。
(恋に効く薬なんて…ありませんよね)