聖なる日の願い

「……………あ。」

マネキンの首に長い青いマフラー、思わずそれを見つめては彼を思い出す。

「…………似合いそう、かも。」

一緒に出掛ける時に何も巻かずに来る彼はいつも首元が寒そうだ。すかさず自分のマフラーを巻いたりしてあげるのだが、もうすぐクリスマスも来る事だし、プレゼントにこのマフラーを贈ってもいいかもしれない。

「よし決めた、クリスマスデートしよう。」

喜んでもらえるといいな、店員にラッピングしてもらいながらその日の予定を考えた。







「高虎さん、明日空いていますか。」

『明日?ああ、特に何もないが……。』

「良かったらその……デート、しませんか。」

『…………。』

普段から行っているのに、この時ばかりはいつもと違う気持ちだ。クリスマスという聖なる日がそうさせているのだろう、熱くなる頬に冷たい手を添えながら高虎の言葉を待った。

『いいだろう、俺もななしに会いたかったからな。』

「本当ですか!やったぁ……楽しみにしていますね!」

喜びのあまりソファの上で足をばたつかせていると高虎の笑い声が聞こえてくる。

『随分と無邪気だな。』

「だって……会えるの本当に嬉しいから。」

『まぁ、来年からは家で毎日顔合わせる事になるけどな。』

「あ……そうですね、緊張で逸らしてしまうかもしれませんけど。」

『まぁ……その時は嫌でもこっち見てもらう。』

そうやって惚気けた話を暫く交わしてから満足気に携帯の電源を切ると、いつの間にか日付はクリスマスの日になっていた。

「いけない、早く寝ないと。」

浮かれた気持ちのまま寝室に入ってはベッドに身体を投げて眠りに就いた。









「寒い………凍えてしまいそう……。」

早る気持ちの所為か待ち合わせ場所へ30分も前に来てしまった。まだいる筈ないと仕方なく目印である梟の銅像の前に足を運ぶと

「え……高虎さん?」

「ん、随分早く着いたんだな。」

先に高虎が来ていたようだ。相変わらず首元は何も巻いておらず綺麗な首筋を覗かせていた。

「何だか心が落ち着かなくて……足早になっていたらいつの間にか…。」

「同じだな、俺も大体そんな感じだった。さて、まずは何処へ行こうか。」

背の高い高虎を見上げるように顔を上げる。

「あの、私クリスタルイルミネーション見たいです。この通りを真っ直ぐいった所に広場があるんですが…。」

「そうか、なら行こう。」

スッと差し出されるは大きな手、彼の顔と手を交互に見合わせて少しだけ頬を染めるとそのまま手を引かれて強く握られた。わ、とななしは小さく声を漏らすが高虎は涼しい顔をして首を傾げる。

「この日くらい別におかしくないだろう?」

「そ、そうですよね。ごめんなさい。」

謝りながらも嬉しそうに微笑めば、高虎もまた口元を緩ませて柔らかく笑んだ。

雪が軽く覆う道を会話しながら歩き、両側に並ぶ店にも目を向けながら広場に着くとそれはもう美しい光景が眼前に広がっていた。名前の通りクリスタルの様な輝きを放って、双方の瞳に銀色の世界を映す。

「わぁ綺麗………!まるで別世界に来た気分!」

「ああ、確かにここまで凄いイルミネーションは見た事ないな……。」

そのまま光るゲートを抜けると真ん中には一際大きなクリスマスツリー。幾千の飾りが施され、その中には願い事の様な物が書かれた紙も吊るされていた。

「見ろ、クリスマスなのに願い事が書いてあるぞ。」

「本当だ……なんだか七夕みたい。」

「折角だ、俺達も書いてみるか。」

星形に切られた紙を渡されるとペンを握ったまま頭を隅から隅まで巡らせる。どの願い事がいいか、健康を願うのは初詣で十分であり、後叶えてほしいものといえばこれしか浮かばないだろう。ペンを走らせて一文を書き終えると一息つく。

「よし、これで……。」

「ほう、何書いたんだ?」

突然後ろから話し掛けられドキリと肩を揺らす。彼に見られたらとてもじゃないが恥ずかしくてその場から逃げてしまうだろう。咄嗟に紙をポケットに隠して振り向いた。

「ひ、秘密ですよ……!」

「どうせ飾ったら誰にでも見られるだろ……そうだな、どうしても人に見られたくなければ高く飾るしかないが。」

高虎は口端を嬉々と上げる。それは背の高い高虎に任せるしかない、と無言ながらも言っているのだろう。

「うー、意地悪ですよ……それって高虎さんにしか出来ないじゃないですか。やっぱり恥ずかしいです。」

「どうしても見せないというのであれば……。」

観念するまで、と両肩を掴まれてゆっくり近づく整った顔。突然の事に微動だにしない唇はあっさりと奪われて甘く噛み付かれた。

「んっ、高……っ……。」

「どうだ、見せる気になったか。」

腰が砕けてしまいそうな程の熱いキスに抵抗する事も叶わず、彼のなすがまま口内を支配される。こうして公然で堂々とキスを見せつける方が願い事を見せるよりよっぽど羞恥で爆発しそうだ。逃げたくとも腰と後頭部をがっちり押さえられて、頭の中は酷く目まぐるしい。

離れると光る銀糸がプツリと切れて漸く解放される。

「はっ…………ぁ………分かりましたっ、から……!」

「そりゃあ良かった、このままだと押し倒しかねなかったからな。」

広場で何と言う事をしようとしているんだ、そもそも高虎という男はこんな大胆な性格だっただろうか。そう訴えたかったが脳に酸素が回らず目尻に涙を浮かべて見つめる事しか出来ない。すると高虎はななしのポケットに手を突っ込んで紙を取り出した。

「……………成程、これは見せた方が恥ずかしい思いをしなくて済んだようだな。」

「もう……まさかここでキスするなんて思いませんよ。」

恐る恐る周りを見れば女性の視線が幾つかこちらに向けられていて思わず体中が火照ってしまう。恋人同士でもなかなか人前ではキスをしない、と思いたい。恥ずかしさのあまりマフラーで口元を隠すと不意に思い起こされるは彼へ贈るプレゼント。

「あ………そうでした。高虎さん、渡したいプレゼントあるんです。」

「……俺にプレゼントだと?」

鞄から大きな袋を取り出して高虎に渡す。

「青いマフラーか。……結構長いな。」

「いつも会う度に首が寒そうでしたので、良かったら使って下さい。」

中身を全て出し終えてそのまま首に巻くと、思っていたより良く似合っていてななしはつい嬉しくなりニコニコせずにはいられなかった。

「そうか、どうりで………。感謝するぞ、ななし。」

目を細めて笑むと再び近付いて触れる互いの額と鼻の先。あと少し距離を縮めれば唇が重なりそうで、僅かにかかる吐息が気持ちを一層高ぶらせた。先のような唐突の行動を見せず、静かに見つめれば鋭くも優しい目がこちらを捉えている。

「………好きだ、堪らなく。」

「…………は、はい……私も、高虎さんの事が好き……。」

言い終わる前に塞がれる唇、それはもう溶けてしまいそうな程にほろ甘く、愛おしい感情が込み上げて来る。
もう人に見られても構わない、寧ろこうして彼と愛し合えるのなら周りは何も見えないのだ。

「……来年が待てないな。」

「もう少しですから……この紙に書いたことが叶うのは、近いですよ。」

クリスマスツリーに吊り下げて手を合わせる。

「そう言えば高虎さんは何て書いたんですか?」

「あんたなら、言わずとも分かるだろう?」

悠々と微笑むとマフラーを巻き直して真っ暗な空を見上げる。こっそり見てしまおうかと思ったが何となく彼の願う事が分かってしまったので、黙ってその隣で一緒に舞い散る雪を暫く見つめたのだった。




(願う事はいつだって同じ)

(いつまでも貴方といられますように)