「家で過ごすクリスマスも悪くないですね。」
「ええ、私は基本この時期は家で本を読んで過ごしますので……この時間がとても幸せです。」
待ちに待ったクリスマスなのだが、いつもの日常と何ら変わらない。炬燵に入って自分の好きな事をして過ごす、隆景もそうやって毎年過ごしてきたらしく、ななしも特に気にすることは無かった。本を幸せそうに読む彼を見つめていると次第に眠気が襲ってウトウトと瞼が重くなってくる。
「…………ななしさん?」
「ん…………こうして炬燵に入っているとつい眠くなって………すみません。」
「いえ、やっぱり何処か行きましょうか。ななしさんもこういう特別な日くらい賑やかな所に……。」
「いえ、お気になさらず……!折角楽しそうに読んでいるのに邪魔は……。」
「いえ、本を読む事は何時でも出来ますし、私ばかり満足していては何だか申し訳ないですよ。貴女にも楽しんでもらいたいですし。」
「………じゃあ、家でクリスマスパーティなんてどうでしょう!それなら寒くもありませんし、楽に出来ますよ。」
「家で、ですか……成程、それは良い考えですね。では手始めに何をしましょうか。」
ななしが提案するのはDVDを見たり料理を食べたり。隆景がすかさずホラーを見ようと提案するもななしは青ざめた顔付きで頑なに首を縦に振ろうとしない。それでも彼の得意の策で彼女を上手く丸め込み、結局ホラー系を見る事になった。
「本当に叫びますよ……カーテンなんて閉められた日には………ひぃ!」
「ええ、勿論閉めますとも。」
隆景は余裕の笑みを浮かべながら雰囲気を味わう為にカーテンを閉めて電気を消す。テレビから漏れる光が怪しさを更に増幅させてななしを震え上がらせた。今にも貞子が出てきそうな空間の出来上がり、満足した隆景は既に放心状態のななしの隣に座って手を握った。
「大丈夫ですよ、私が付いています。」
「そんな事言って……横見たらいなくなっているパターンですよね……。」
「そんなまさか。では……いなくならない様に最後まで手を繋いでおきましょうか。それなら安心出来ますよね。」
「心配だなぁ……。」
手汗を気にしながらも始まった映画を見る。ホラーにありがちな病棟のシーンが早速登場し、薄暗い廊下でコツコツと不気味な足音を鳴らす。まるで背後で誰かが徘徊しているかの様で、思わず握る手に力がこもってしまう。隆景は耳元で大丈夫です、と気を遣って囁いてくれるがそれでも怖い物は怖い。
「ひっ………何か後ろで音しませんでしたか!」
「いえ、これは紛れも無くテレビの効果音ですよ。」
「待って……これ突然手が出てきたりするんじゃ………。」
「はて、どうでしょうか……案外髪かもしれませんね。」
「隆景さんって恐怖感じないんですか。」
「勿論ありますよ。それよりほら、前見て下さい。」
ふと言われるがまま前を見れば、血走った眼でこちらを静かに見つめる女。ななしは一際大きな悲鳴を上げて隆景に抱き着くように縮こまった。
「ななしさん、見事に引っかかりましたね。」
「意地悪しないで下さいよ……!死ぬかと思いました……!」
面白おかしく笑う彼の肩を揺すって縋りつけば、先程の女がけたたましい金切り声を上げて女子学生に襲い掛かる。その衝撃音で再びななしは同じ様な叫び声を部屋に木霊させた。
「もう無理です……っ!!」
「まだ始まったばかりじゃないですか、最後まで楽しみましょう。」
「隆景さん私に対して楽しんでいますよね……。」
その後も幾度も悲鳴を上げては抱き付き、その都度隆景に頭を撫でられたり背中を擦られたり。終始一ミリも離れる事なくその映画は無事終わりを迎えた。
「…………………。」
「よく頑張りました。」
「生きてますよね……私…呪われてませんよね……。」
未だ震える手は約束通り彼に握られて、側にいる安心感を噛み締める。
「ななしさんの怖がる姿、可愛かったですよ。」
「もう……そんな可愛さなんていりません。」
隆景の胸に蹲る様に身を寄せて潤んだ目を閉じると、彼は包む様に抱いて髪に優しく口付けを落とした。
「では、今度はななしが望む楽しいパーティをしましょう。何か食べたい物ありますか。」
「今は、何もいりません……。」
「……すみません、やりすぎましたか。」
「いえ……隆景さんが欲しいです。」
「……………。」
返事が無いので恐る恐る見上げればばっちりと合う目と目。驚くどころか隆景の瞳は今までない程穏やかに澄んでいて、今にも吸い込まれそうだ。すると彼は徐ろに閉じていた口を開けた。
「やっぱり私は幸せ者かもしれませんね。」
「……え………それはどういう……。」
「本を読んでいる時、文字を眺めている時こそ、心が落ち着いて幸せだと感じながら今まで生きてきました。が、今はななしと一緒にいる時のほうが、その何倍も愛おしく幸せなのです。愛って、凄いですよね。」
「隆景さん………。」
文を中毒になる位こよなく愛していた隆景が人に夢中になり愛する、彼の中で一番になれる事が何よりも嬉しい事だ。
「今度はななしがいないと生きていけない男になってます……だから、息が苦しくなる前にこの気持ち……受け入れてくれますか。」
指でなぞられる唇は緊張の所為で大分乾いていたが、徐ろに口付けを重ねられると同時に熱と潤いを得る。その気持ちを受け入れる様に静かに目を閉じて何度も重ねられるキスを味わった。
「隆景さんのキスって……本当に優しいですよね。」
「私は特に激しいのは好みませんが……貴女が望むのであれば、差し上げましょうか?」
「いっ、いえ……急にされたら吃驚して逆に……その、なんと言いますか……。」
「冗談ですよ。ですが、先行く気持ちは大体そんな感じです。」
未だ暗闇の為か隆景の表情が上手く読み取れないが、何やら策士のような雰囲気を醸し出しているのははっきりと理解した。冗談がいずれ本気になりそうだ、ななしはその後何も言わずに幸せそうに顔を埋めていた。
(外、雪降ってきましたね)
(わぁ!何だか外にも行きたくなりました)