「いいのかい?私の事は気にせず……君も若いんだし、友達と何処か遊びに行っても構わないんだよ。」
「だから、私は元就さんといたいんですよ。好きにしていいと言われたのなら今日はずっと貴方と過ごしたいです。」
「参ったな………嬉しいけど、申し訳ないね。」
「私の意思でここにいますから、元就さんが謝る必要ありません!」
ぴしゃりと言い放てば、彼も頭を掻いて照れくさくさそうに頬を緩ませた。そんな姿を見ているのがななしの細やかな幸せだったりもする。クリスマスは彼と一緒に過ごしたかったのだ、むしろ嬉しくて仕方ない。
「ありがとう、じゃあ今日は君もゆっくりしておくれ。」
「そうは行きませんよ、元就さんに喜んでもらう為に料理を作ろうと前もって計画していましたから。」
「ん、料理かい?」
「はい、得意ではありませんが、一生懸命作りますね。」
「そうか……君の料理はある意味独特だから、楽しみだな。」
「それは褒めているんですか……。」
「あはは、勿論褒めているつもりだよ。ほら、日が暮れてしまう前に、お願い。」
目を細めて笑えばななしもまた微笑んでキッチンへと向かう。持ってきたエプロンをつけては鼻歌を歌いながら予め買ってきた材料を机に並べた。
「よし、これで…………わっ!」
「どうりで大きな荷物だと思ったよ。女の子一人でこれじゃあ結構大変だったね……すまない。」
元就はななしの背を包むように抱き締めては大量の材料を見渡す。あまりの不意打ちにななしは驚き、彼の熱が直接伝わると心臓が激しく波打った。
「い、いえ………!沢山作りたかったので……つい、多く買ってしまいました……。あの、元就さん………抱き締められたら料理が………。」
「ああ、すまないね。君の背中を見ていたらつい抱き締めたくなって。」
ふわりと離れると途端に重みを失って名残惜しさを感じる。本当はもっと触れて欲しかったのだが、今は料理に集中しなければ。ななしは真っ赤な顔を隠しながら材料を手に取った。
「えっと………レシピではこうなってる………あれ、これで良いのかな。」
家庭科が苦手な為に悪戦苦闘を強いられる、時々分量を間違えたり鍋のお湯が沸騰して溢れだしたり。女としてあるまじき事だ、これでは嫁の貰い手も見つかるまい、悲しくなったななしは大きく溜息を零した。
「とりあえず……出来た、のかな。」
見た目は一般的、しかし問題は味付け。味見の地点では何も問題はなかったのだが、果たして元就の口に合うかどうか。しかしキッチンでこうして悩んでいてもどうにもならない、諦めてリビングへと運んだ。
「やあ、お疲れ様。出来栄えはどうかな?」
「………見た目はそれなりですが、味が心配です。不味かったら正直に言ってくださいね、絶対に怒りませんから。」
元就は箸を持ち、いただきますと律儀に手を合わせる。そして煮物を口に運ぶと味わう様にゆっくり噛んだ。
「…………………。」
「ん。」
「やっぱり不味かったですか……!」
立ち上がってはすかさずティッシュを構える。しかし、元就は苦い顔をするどころか嬉しそうに笑みを浮かべた。
「うん、やっぱり君の料理は最高だ。」
「え………そんな、無理しないでください!」
「心配し過ぎだよななし、君が思っているよりもずっと美味しいし、何より気持ちがこもっている。ほら、食べてごらん。」
あーん、とこちらに煮物を挟んだ箸を向ける。ななしは思わず顔を赤くして狼狽えてしまうが、首を傾げる姿に耐え切れず目をギュッと閉ざして口を開けた。ごろん、と丸い里芋が入り込むとほんのりと甘みが広がった。
「…………………。」
「ね?私の言ったとおりだ。」
「元就さん…………でも、甘い。」
「砂糖が少し多かったけど、味覚が薄く感じる私にとっては丁度いいかな。さぁ、冷める前に食べてしまおう。」
その後元就は全てたらい上げて満足そうに手を合わせると、ななしもまた上機嫌に洗い物に向かった。一つ残さず食べてくれた事が何よりも嬉しく気分も上々、後は買ってきたケーキを食べれば全て終わりだ。
「元就さん、ケーキ冷蔵庫にありますから…………って、元就さん?」
後ろを振り向けばその姿はない。手洗いにでも行ったのだろうか、特に気にする事なく視線を皿に戻して洗剤に浸す。しかし最後の皿を乗せると同時に再び背中に感じる温もり。
「…………っ、びっくりした……。」
「いきなりで驚いたかい、二回目だから平気かなと思ったよ。」
「ふふ、それでも慣れません。元就さんって抱くの好きなんですか?」
「そうだねぇ………でも、君だからだよ。大切な人だから……こうして側にいたいと思う。」
温かい手が添えられると水で冷たくなっていたななしの手はあっという間に熱が生まれる。同時に耳まで染まる紅を元就は微笑みながら甘く噛んだ。
「ひぁ……!?」
「クリスマスだし、私のお願い……聞いてくれるかな。」
耳元で囁かれる心地良い声色は卑怯だ、そんな風に甘く強請られたら断れるわけがない。
「なん、でしょう……か。」
「私と一緒になってほしい……って、言ったらやっぱり迷惑だね。年齢も離れているし………。」
ななしの瞳は大きく揺らぐ。
「………本当に。」
「え?」
「本当に………私を貴方のお嫁さんに……してくれますか。」
元就は息が詰まる程に驚いて思考が停止してしまった。まさか彼女から望んでそう言ってくるとは思いもしなかったのだ。
「私………家事も料理もろくに出来なくて、このままずっと嫁の貰い手がなかったらどうしようって不安でした。特に元就さんに嫌われたら……って、だから今日こそは頑張ろうと思ったんです。例え結婚が叶わずとも、大好きな人に喜んでほしいから……その……。」
「………ななし、いいよ、君の気持ちは分かったから、泣かないでおくれ。」
「ごめんなさい………。」
涙がこんなにあっさりと出るとは思っていなかったが、それだけ彼に夢中で本気だという事なのだろう。ななしは止まらぬ涙を床に落としては無意識に肩を震わせた。
「私もね、正直に言えばななしの事が好きでたまらない。でも、年も年だし、若い君に負担を掛けたくはなかったんだ。こんな優しい女性なら素敵な男性に出会えると思ってずっと想いを閉じ込めて。でも、その優しさについ甘えてしまったね……すまない。」
「元就さん…………っ、ずっと……ずっと一緒にいたいです………!」
「うん、私も同じ気持ちだよ……ななしが良いと言うのであれば、ずっと一緒にいたい。」
遂には声を上げて泣いてしまう。元就はあやす様に背中をそっと撫でて静かに目を閉じた。
暫くして落ち着きを取り戻すとすっと申し訳なさそうに目を伏せるななし。
「取り乱してごめんなさい。折角のクリスマスが……。」
「んー……むしろ嬉しかったな、お互いの本音を知る事が出来たからね。最高の日だと私は思うよ。」
「元就さん………。」
「じゃあななし、そのまま目を閉じてくれるかな。」
一瞬きょとんとした顔で彼を見つめるが、言われた通りに腫れぼったい瞼を閉ざす。すると唇に生暖かい熱を感じて思わず反射的に目を開きそうになってしまった。
彼にキスをされている、そう分かると心臓の音がやけに煩くなり身体が揺れ動いてしまう。長い口付けに酸素は奪われ、呼吸が苦しくなった所で離れた。
「んっ。」
「柔らかいなぁ……うん、凄く気に入ったよ。」
ぎこちなく目を開ければ口元を緩ませて微笑みかける元就、そんな姿が堪らなく愛おしくてついななしも軽くキスをお返し。勿論彼も驚いて目をぱちくりさせたがこれでおあいこさま、唇を押さえてそっと笑った。
(ケーキ食べましょう!)
(ケーキもあるのかい?じゃあお茶を淹れようか)